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第22話

 ルミが後ろを振り返ると、そこには大広間で演説をしていた髭の中年男性と、黒フードの男が並び立っていた。


「ネズミがもう3匹紛れ込んだか」


 髭の男は不気味な笑みを浮かべながらルミの姿を見ている。ルミは牢獄の入口の方に顔を向けると、ヘイデンとロゼッタが獣顔の男に捕まっている。


「ギュスターヴ!」


 ロゼッタが叫んだ。髭の男はロゼッタの方を向いた。


「久しぶりだな、ロゼッタ。私の元を去ってから、何をしていたのだ」


 どうやらここにいる髭の男がトランス教団の教祖ギュスターヴらしい。そして、その隣にいる黒フードの男が、ルミ達がずっと追いかけて来た人物だ。封魔の力を持つ氷のジュエルを盗んだ犯人その人だ。


「黒フードの男!氷のジュエルを返して!」


 ルミが杖を構えて黒フードの男に向かって言い放った。


「だめだ!お前ではかなわない!逃げろ!」


 牢屋の中でロレンスが叫んだ。黒フードの男は微動だにしない。ギュスターヴが代わりに言った。


「小娘、あれは我々トランス教の理想を実現させる為に使わせてもらう。だから、返す訳にはいかん」


 ならば力ずくで返してもらおうと、ルミは魔力を集中させた。だが、ギュスターヴにそれを察知された。ギュスターヴは何かをつぶやくと、袋から白い粉をつかんでそれをルミにふりかけた。


「!?」


 白い粉を受けてルミは身をかがめた。途端に、全身から魔力が抜けていく感覚に襲われた。


「あ、あれ?魔力が出ない……」


 ルミは困惑した。ギュスターヴは笑いながら言った。


「フハハ!その粉は魔力を封じる効果があるのだ!」


 魔力を封じられては、ルミは見た目がいいだけの普通の12歳の女の子だ。ヘイデンとロゼッタを捕らえていた獣人が素早くルミのふところに飛び込むと、みぞおちを鋭く拳で突いた。ルミはその場に倒れて気絶した。





 ルミが目を覚ますと、手足の自由が聞かない事に気付いた。自分の両手両足を拘束具が縛り付けている。辺りを見渡すと、そこはギュスターヴが演説をしていた大広間だった。ルミは大広間の壁に磔にされていた。

 右を向くと、ロレンスとビエット、スコットが自分と同じように縛られている。左にはヘイデンとロゼッタが、やはり同じように磔にされていた。

 正面を向くと、そこには大勢の人々がいて歓声をあげていた。祭壇には、ギュスターヴがいて大衆を眺めている。その脇に、黒フードの男が静かに佇んでいた。


「諸君!ついにこの時がきた!」


 ギュスターヴが叫ぶと、それまで騒がしかった大広間が、ピタリと静まり返った。大衆は夢見心地な表情で教祖を拝んでいる。

 ギュスターヴは、ふところから蒼く美しく輝く結晶を取り出した。氷のジュエルだ。


「これより儀式を行う!この儀式が終わった時、『おもしろさ至上主義時代』は終焉を迎え、我々が生きやすい世の中になるのだ!」


 続いてギュスターヴは、磔にされているルミ達を指差して言った。


「こやつらは儀式のいけにえとなる!」


 大衆は嬉しそうに教祖の言葉に耳を傾けている。


「どうしよう……。このままじゃ、みんな……」


 ルミは魔力を集中させようとしたが、上手くいかなかった。

 隣でロレンスがビエットとスコットに目配せした。ビエットとスコットは何か重大な決意をしたかの様にうなずいた。


「ルミ……、聞こえるか」


 ロレンスの弱々しい声がルミの耳に届いた。ルミは声のした方を向いた。ロレンスが必死の形相でこちらを見つめている。


「私達もお前がかけられたのと同じ封印の粉のせいで魔法が使えなくなっていた。しかし粉の効き目が少しずつ切れてきている。おそらく封印の効果は、時間が経つと切れるんだ。あと少し時間があれば魔法が使える様になって、お前達を助けられただろう。しかし、もう時間がない」


 ロレンスは祭壇の方に顔を向けた。ルミも同じ所を見ると、ギュスターヴが氷のジュエルを掲げて祈っている。氷のジュエルは妖しく輝きを増している。儀式が始まったのだ。

 ロレンスは話を続けた。


「だから、私達三人の復活してきた僅かな魔力を一つに集めてお前達を瞬間移動させる」


「え、そんな……、それじゃ、ロレンスさん達は!?」


 ロレンスは僅かに表情を緩ませて、言った。


「私達はあの黒フードの男に戦いを挑み、敗れた。そして、死の刻印を身体に刻まれたのだ。この刻印を刻まれた者は、三日間の後、死神に魂を奪われる。私達に残された時間は、あと僅かだ」


「うそ……。そんな……」


 ルミは頭の中が真っ白になった。


「安心しろ。お前達三人には死の刻印は刻まれていない。だが、黒フードの男の力は我々が思っていた以上に強大だ。おそらくアカデミーの魔道士で奴に勝てる人間は、いない」


 ギュスターヴは更に強く祈りを込めた。周囲に魔力の渦が集まり、まるで地震でも起きている様に辺りの様子が禍々しい雰囲気に包まれている。


「頼む……!ルミ。お前が世界の希望だ。この世界を、救ってくれ……!」


 ロレンスはそう言うとビエット達の方を向いて、うなずいた。それを合図に三人は目を閉じて精神を集中させた。

 ギュスターヴが持つ氷のジュエルから、まばゆい閃光が幾筋もほとばしった。辺りの次元が歪んでいく。ロレンス達は目を見開いて魔力を解き放った。すると拘束具で縛られていたルミとヘイデンとロゼッタの姿が消えた。残されたロレンスとビエットとスコットは魔力を使い果たして、力なく果てた。

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