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第20話

 酒場に戻ってきたルミ達3人は、テーブルを囲んで着席した。

 鎧の女性は自己紹介をした。


「私の名はロゼッタ。かつてトランス教に入信していた者よ」


 ルミが尋ねる。


「ええっ、お姉さん元信者だったの?」


「そうよ」


 ロゼッタは語り始める。トランス教に入信していた頃の事を。


「私は18歳の時、夢と希望を抱いてこのシャールメール王国にやって来た。当時、この街には色んな劇団や見世物小屋などがあったわ。コメディ中心の劇団や、感動を与えるもの、熱血系……、多様性に富んだ時代だった。私は踊って笑えるコメディダンサーとして、ある劇団の門を叩いたの」


「コメディダンサー……」


 ロゼッタの疲れ切った表情からは想像出来ない職業だった。


「その頃、この街では『お笑いブーム』の兆候が見えてたの。だから、その劇団はうなぎ登りに評判を上げていった。観客もどんどん増えていった。そんな中で私は2年間の下積みを経て、ついにデビューが決まったの」


 ロゼッタは少しためらいがちに話を続けた。


「忘れもしない、私の初舞台。今まで練習してきた事を全部出し切った。会心の芸が出来たと思ったわ。でも、観客の反応は水を打ったように静かだった。要するにスベったの」


 ロゼッタの目に涙が浮かんだ。話は続く。


「私は自信を無くしたわ。それから団長に呼び出されて、一言。『お前はおもしろくない』。吐き捨てる様な言い方だった。私は頭の中が真っ白になって、気がついたら劇団を飛び出していた。そして、路地裏で寒さに震えてる時、彼が現れたの」


「彼?」


「彼は私の身体に上着をかぶせると、優しく語りかけてきたの。お前も『おもしろくない人間』の烙印を押されたのだな、と。その言葉を聞いた時、なぜだが涙が止まらなくなって、彼の胸で延々と泣いたわ」


 ロゼッタは目に溜まった涙の雫を指で拭くと、話を続けた。


「その日、私は彼と一夜を共にした。彼と身体を重ねながら、色々な話を聞いた。このままでは世の中は『おもしろいもの』以外駆逐されると。そして、必ず『おもしろいかどうか』で人間の優劣をつける時代がくると。数年後、彼の予言は実現したの」


「ほ、ホント?」


 ルミが信じられないといった表情で尋ねる。ロゼッタは黙ってうなずいた。


「数年後、街には人々におもしろいものと認められたものが溢れる様になった。その一方でおもしろくないと判断されたものは姿を消していった。そして人間に対してもそうなった。この人はおもしろいから付き合おう。この人はつまらないからどっか行け、とね」


 ヘイデンが口を挟む。


「でも、つまらないものが淘汰されていくのは、いわゆる市場原理、ってやつ?では」


 ロゼッタはうなずいた。


「そうね。つまらない見せ物が淘汰されていくのは仕方ないかもしれない。でも、人間の評価にまで波及するのはおかしいわよ」


「ま、まあね」


「彼の元には『つまらない人間』と烙印を押された者達が集ってきたわ。そしてその集まりは、いつしか『トランス教』と呼ばれる様になった。彼はその教祖となったの」


「その教祖ってもしかして、寺院で演説してた髭のおじさん?」


「さあ、私はその演説を見てないから何とも言えないわね。教祖の名はギュスターヴ。私は彼にすっかり魅了されていた。彼の為なら何でもやろうと思ったわ。ギュスターヴには愛人がたくさんいた。でも私は彼の愛人何号だろうと構わない。彼に尽くすことが生きがいになっていたの」


 ロゼッタはしばらく間を置いて、再び口を開いた。


「でもそんな私の献身は報われなかった。私は彼に近づきすぎてうざがられて捨てられた。また一人ぼっちになっちゃったのよ」


 ロゼッタはこらえきれなくなって泣き出した。ルミとヘイデンはいたたまれない気持ちになった。ルミが勇気を出してロゼッタに語りかけた。


「あの、ロゼッタさん。わたし達、あの寺院に捕まっている仲間を救出したいんです」


 ロゼッタは涙を拭きながら前を向いた。


「そうね、ごめんなさい。つい身の上話をしちゃった。あの寺院につながる地下道があるの。そこを通っていけば寺院の奥の牢獄に行けるはず。おそらく仲間さんもそこに捉えられているわ」


「ありがとう!ロゼッタさん!」


 ルミとヘイデンは席を立ち酒場を出ようとした。そこへロゼッタが声をかけた。


「あの、私もついていくわ。あの寺院の内部に詳しいから」


 ギュスターヴと決着をつけたいのだろうか。ルミはロゼッタの申し出を受け入れた。

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