第18話
シャールメール王国城下町に入ったルミは早速ロレンス達を探す事にした。
「この街のどこかにいるんだよな」
「うん」
ルミとヘイデンは大通りを歩きながら街の様子を見回った。
人々の様子は特に変わった所は感じられない。黒フードの男の額に浮かび上がった竜の紋章は、この街に拠点を置く新興宗教『トランス教』のシンボルマークと同じものだ。つまり黒フードの男とトランス教には何らかの関係があると見て間違いない。
ロレンス達は情報収集でもしているのか。それとも、既に教団のアジトに突入しているのか。
「ねえ、ヘイデン。こういう時どこに行けばいいかわかる?」
「うーん、冒険者なら情報収集する時は、酒場に行くのが一般的かな」
「なるほど!」
ルミは酒場を探してみた。大通りから少し外れた所にこじんまりとした酒場が目に止まった。二人は酒場まで歩いて行き、ドアを開け中に入った。
店内に客の姿はほとんどいない。ルミはぐるっと店内を一瞥すると、端っこの目立たない席で一人何かを飲んでいる女性の姿が視界に入った。
ルミは女性の所まで近づいて声をかけた。
「あのっ」
「ひいっ!」
ルミの声に反応して女性は少し後ろに引いた。
「最近この街で三人組の魔道士を見ませんでしたか?」
女性は少し間を置くと、何かを思い出した様に答えた。
「そ、そう言えば、何日か前に見たわね……」
ルミの表情が明るくなり、思わず飛び跳ねてヘイデンの方に向き直り喜んだ。
「やったー!何か情報を知ってるかも!」
「おお!良かったな!ルミ!」
「ひ、ひいいいいいいい!!!!!」
女性は奇声を上げるとずさささーっと奥の方に引っ込んでしまった。
「ど、どうしたんですか?」
ルミが困惑気味に尋ねた。
「わ、若い人のキャッキャウフフな、ノリのいい会話が、に、苦手なの……」
そう言って女性は頭を抱えてガタガタと震えている。
ルミとヘイデンは顔を見合わせた。
(ヘイデン、わたし、悪い事しちゃった?)
(う、うーん、どうだろ)
ヘイデンはとりあえず女性を落ち着かせる為席を外した。
ルミは女性に近づくと優しく声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
女性はしばらくルミの方をチラチラと見ていたが、気持ちが落ち着いてきたのか少しずつ顔を上げた。
「ご、ごめんなさい……、脅かせちゃったわね」
「いえ……。所でその、三人組の魔道士はどこに行ったかわかりますか?」
女性はしばらく考えている。
ヘイデンは遠くから二人の様子を見ている。女性はそこまで老けては見えなかった。しかし自分よりもだいぶ年上のようだ。神経症そうな表情をしているが、整った美しい顔立ちをしている。背は自分とそんなに変わらない。スレンダーな身体を武骨な鎧で包み、腰にハンマーを下げている。
「そう言えば、トランス教の寺院の場所を探していたわね」
女性は答えた。
やはり、ロレンス達はトランス教団の内部に潜り込んでいるのだ。
ルミが尋ねる。
「その寺院ってどこにあるんですか?」
「寺院に行きたいの?じゃあそこまで案内するわ」
ルミの顔がぱっと明るくなった。
「ありがとう!」
「いいのよ。さっき脅かせたお詫びよ」
三人は酒場を出た。
ルミ達は女性の後を着いていくと、やがて古びた建物の前に辿り着いた。あまり人通りの多くない裏通りにひっそりと建つその建物は、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ここがトランス教の寺院よ」
ルミは女性にお礼を言うと寺院の入り口のドアを開けた。中に人の姿はなかった。
二人は顔を見合わせてうなずくと、中へと入って行った。




