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第14話

 激しい雨が降る荒野で、両腕を失った盗賊団のおかしらが鬼の形相で地を這っていた。


「くそっ!くそっ!!あのくそ生意気な小娘!!!」


 ルミの使い魔に両腕を奪われたおかしら含む盗賊団一味はアジトから逃げた。ここに来るまでに子分達は皆息を引き取った。生き残っているのはおかしらだけだ。


「あの小娘を地獄に叩き落とすまでは、死んでも死にきれん!」


 おかしらは復讐の念に精神を支配されていた。ルミの人生をめちゃくちゃにして再起不能にして、じっくりと絶望を味わわせた上で出来るだけ長く苦しむように殺したい。しかし、両腕を無くした今のおかしらでは、彼女に勝つことなど到底かなわない。


「くそっ!この世に悪魔はいねぇのかよ……!」


「いるよ?」


 声のした方を振り向くと、屈託のない表情でこちらを見つめる少年の姿があった。どこかの上流貴族の子弟だろうか?身なりが良く、穢れのない雰囲気を醸し出している。


「なんだ?このガキ……。何でこんな所にいやがる。まさか、お前もあの小娘と同類か?」


 少年は表情ひとつ変えない。超然とした態度で語りかけた。


「おじさんの気持ち、よく判るよ。成功者が羨ましいよね。何とかして、その地位から引きずり下ろしたいよね」


 おかしらの脳裏に、少年時代の記憶が戻ってきた。

 おかしらはとある町の裕福な家庭に生を受けた。勉学、剣術に才能を発揮し、その町で彼にかなう子供はいなかった。両親からも将来を嘱望されていた。

 だが、クラニア城下町の上級学校に進学すると、それまでの世界観が根底から覆された。周りには自分と同程度の能力を持った子供は履いて捨てるほどいた。入学式の時に、田舎から出てきたばかりで右も左も分からずオロオロしていた自分に声をかけてくれた、鼻水垂らしたアホ面の少年ですら、自分が苦労してやっと出来るようになった事を、涼しい顔して当たり前のようにやってのけたのだ。

 そして、同級生には信じられないような化物じみた能力を持った者も大勢いた。自分がいくら努力しても、彼らの上をいけるとは思えない。そういうビジョンがまったく見えないのだ。

 いつしかおかしらは努力する事を放棄した。学校にも行かなくなり、両親に連絡することもなくなり、気がつけば盗賊団のおかしらとなっていた。


「おじさん、あれを見て」


 少年が指さした方を見ると、腕を無くした十数体のゾンビがゆっくりとこちらの方に近づいて来ていた。ゾンビ達はここに来るまでに死んでしまったおかしらの子分達だった。


「おじさん達が力を合わせれば、なれるよ……。世界に災厄を振りまく存在に」


「なあガキ。その、世界に災厄を振りまく存在になれば、あの小娘に復讐出来るのか?」


「え、おじさんその程度で満足するんだ。もっと凄い事出来るのに……。どうせならもっと過激な事しようよ。例えば、全世界の成功者を絶滅させるとか」


「わかった。やってくれ」


 おかしらの決断は、光の様に速かった。





 ゴウレ村を旅立ったルミとヘイデンは闇なき峠にさしかかった。


「この峠を越えれば目的地のシャールメール王国だ」


「ねえ、ヘイデン。シャールメール王国ってどんな所?」


「緑の綺麗な国だよ。昼間は真面目な町だけど、夜になるといかがわしい町になる」


「え、いかがわしい町?」


「まあ、あんまり詳しいことは知らない方がいいと思う。ところで、君のその短剣だけど、武器として使わないのか?」


「これ?これは父さんの残してくれたものだから」


「もったいない、強そうなのに……。君が使わないならオレが使いたい」


「えー……」


 だいぶ歩いた所で、前方から鳥形のモンスター、ハーピーが3体現れた。


「モンスター!」


 ルミは炎魔法を放った。命中した1匹は丸焦げになって倒れたが、残り2匹は空高く舞い上がった。ルミは続けて炎魔法を連射したが、2匹のハーピーはそれをひらりひらりとかわした。


「んもうっ!」


 ハーピーは空中から地上にいる2人めがけて突進した。翼が刃物の様になって2人に物流ダメージを与えた。


「下がってろ、ルミ!お前はオレが守る!」


 ヘイデンは短剣を抜いてハーピーが降りてくるのを待った。2匹のハーピーはもう一度突進してきた。ヘイデンは自分の射程にハーピーが入って来るそのタイミングを捉えた。


「うおおおおお!!」


 短剣がハーピーの翼を切り裂いた。飛べなくなって地上に着地したハーピーを、ルミの炎魔法が襲った。残り一匹も同じ要領で倒す事に成功した。


「よっしゃ!」


「やった!ヘイデン、すごーい!」


「へへ、だから言ったろ?オレは結構強いって。よし、モンスターは倒したし、先を進もう」


 ハーピーの死体を後ろに、ルミ達は峠道をさらに歩いていった。ロレンス達はもう着いているのだろうかと、ルミは考えていた。

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