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第13話

 ガチャ。

 家のドアを開けると、そこには白いワンピースを着た少女が立っていた。


「メイア!」


 ヘイデンは自分の目を疑った。メイアはずっと意識を失っていて、自分の力で立つことなど出来ない筈なのに……。

 まさか、病気が治ったとでもいうのか?


「メイア、お前、気がついたのか!?」


 ヘイデンはふらつきながらメイアに近づいた。この日をどれだけ待ち望んだことか……。

 しかしメイアは動こうとしない。

 ヘイデンはずっと心の中にため込んでいた言葉を口にした。


「メイア、済まなかった……。お前が病魔に冒されたのは、オレのせいだ。オレはずっとお前に謝りたかった。オレに力がなかったばかりに、お前に……」


 メイアは静かに語りかけた。


「お兄ちゃん、私の大好きなお兄ちゃん。私、夢の中でずっとお兄ちゃんの事を見てた。お兄ちゃんは私の病気を治す為に、盗賊団に入って悪い事いっぱいして、人一倍臆病なのに無理して悪ぶって、村の人たちからも陰口言われて……。それでもお兄ちゃんは私の為にちっぽけな勇気をふりしぼって頑張ってくれた……」


「メ、メイア……」


「私、全部見てたんだよ」


 ヘイデンは胸の奥が熱くなるのを感じた。盗賊団の一員としての日々は、決して楽なものではなかった。脳裏に苦しかった日々が走馬灯のように駆け巡る。初めて盗みを働いた日のこと、自警団に追われて流れ矢に当たって怪我をした日のこと、稼ぎが悪いとおかしらに殴られた日のこと……。

 でも今は、そんな日々ですら懐かしく思える。すべてはこの日のためだったのだ。

 メイアは天使のような笑顔でこちらを見ている。


「だからね、私、お兄ちゃんの為にプレゼントを用意したの。受け取ってくれる?」


 メイアはヘイデンのすぐ目の前まで歩いてきた。

 プレゼントならもうもらった……。お前がこうして元気な姿を見せてくれることだ。

 ヘイデンの首筋にメイアの白く細い指が触れた。そして、口を開いた。


「永遠の責め苦をなぁ!!!」


「うわあああああああ!!!」


 ヘイデンは飛び起きた。体じゅう寝汗でぐっしょりだ。


「夢か……」


 窓の外から日光が差し、鳥の鳴き声が聞こえる。

 ヘイデンはメイアが眠っているベッドを見た。彼女はいつもと変わらずそこで眠っている。もう一つのベッドにはルミが眠っていた。

 昨日、アジトから戻る途中の道で、ルミは彼に語った。


「メイアさんの病気を治す事は出来ないけど、病気の症状を遅らせる事は出来るよ」


「ほ、ホントか!?」


「ちょうど今ひとつだけ持ってるよ。この特製のポーションを使えば……」


 ヘイデンはルミに土下座して頼んだ。


「頼むっ!!金ならいくらでもだす!!だからそのポーションを妹に!!」


「頭をあげて。ねえヘイデン、ひとつだけ約束して。もう悪い事はしないって。そしたらこのポーションあげる!」


「ルミ……、ありがとう!本当にありがとう!でもどうしてオレの為にそんなに良くしてくれるんだ?オレは君の大事なモノを盗んだんだぞ」


「だって、わたしが川に流されてるのを助けてくれたのは、ヘイデンでしょ?だから、そのお返しだよ」


 そう言ってルミは、まるで天使のような笑顔を見せた。

 この子は勘違いをしている……。なんとまあ、世間知らずな。もしオレが性根まで悪人だったらどうするんだ。

 そんなヘイデンの心を見透かしたように、ルミがつぶやいた。


「ヘイデンは悪い人じゃない。目を見ればわかる!」


 オレが悪い人じゃないって?やはりこの子は世間知らずのガキだな……。

 ヘイデンの家にたどり着くと、ルミは持っていた特製のポーションをメイアに飲ませた。メイアの表情が心なしか和らいだ気がした。

 その後神父が家にやって来てメイアの症状を診てくれた。ルミが言った通り、病魔の進行が止まっている、と診断してくれた。だが、まだ病魔が完治したわけではない。出来るだけ早く根本的な治療をしなければならない、と付け加えた。

 今日はもう遅いから泊まっていけとルミに勧め、普段ヘイデンが使っているベッドに彼女を寝かせ、自分は床で寝た。そして、夜が明けたのだ。

 朝食を食べ終わり、ルミとヘイデンは外に出た。


「これからどうするんだ?ルミ」


「シャールメール王国に行かなきゃいけないの。仲間もそこに向かってるから……」


 ルミは氷のジュエル奪還部隊のメンバーで、シャールメール王国に行く道中に川に落ちて一行とはぐれたのだ。

 ヘイデンは意を決して口を開いた。


「ルミ……あのさ、オレも一緒に行っていいか?」


「ええっ!?ど、どうして?」


「ほら、オレ盗賊団にいていろいろ悪さしてたから、村に居づらくなっちゃってるんだ。それにお前と一緒に旅してれば、メイアを治す方法が見つかるかもしれない」


「で、でも、メイアさんは?」


「メイアなら心配ない。昨日神父さんにお願いして、面倒見てくれる事になった」


 ルミはまだ戸惑いの表情を見せている。


「な、なんだよその目……。こう見えても結構腕がたつんだぜ!?モンスターとも戦ったことあるし……。だからさ、役に立てると思う!」


 ヘイデンは右手の親指を立てて笑った。


「ルミ。お前はオレが守る!」

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