移ろう時
朝日が三人を照らした。
そこには何もなくだた呆然とする三人しかいなかった。
すべてが終わったのにむなしかった。何もかもが灰色だった。
正頼は何も言わずその場を去った。
高次は泣き崩れた。
一識は空を見た。そして、こぶしを強く握り締めた。
数ヵ月後
帝を失った朝廷は亡き帝の唯一の娘を帝に置き、職を退いた左大臣に代わり、一識の父右大臣による摂政政治が始まった。
しかし、一識は父の元へはいなかった。
父が摂政に就任する日、一識は出家した。
一識はこの世界に嫌気がさし、隠居することにしたのだった。
そして、都から遠く遠く放れた地で余生を過ごすことにした。
高次は都に残り、皇族たちに楽を教えたり、宴で披露したりと政治には関わらなかった。
高次は国の現状をしるため旅をし、そして、現状のひどさに己のおろかさをしり、自分にで
きる限りの行いをしようと政治の場に出たのだか、右大臣から疎まれてしまったのである。
高次は自分のふがいなさを感じながら、時々は空を見て望を思い出すのだった。
そして、この国の行く末を不安に感じながら、ただただ笛を吹くしかなかった。
正頼は右大臣の元を離れ、望の菩提をひっそりと守りながら大宰府で暮らした。
望の前夫であるため、検非違使や参議たちの追及が厳しかったが、一識や高次、左大臣の助けにより難を逃れた。
すべては望のせいということで事件は終わったのだった。
そして、また都は平和を取り戻した。幸せに包まれたわけでもないが、差別や貧困、無用な搾取に苦しみながらも人々はまた日々の生活を取り戻した。
そして、いつしか満月鬼は人々の心から消え去り、望のことを思い出すのは三人の男たちだけしかいなくなった。
そうやって時は移ろっていくのだった。
完