外伝 各支社CEOの日常と、遠き涼州への感謝
中華全土が「後漢グループ・ホールディングス」という前代未聞の持株会社体制に移行してから、1年の月日が流れていた。
かつて都で不眠不休の社内政治に追われ、激務で白目を剥いていた英雄たちは今、それぞれの支社で「CEO(最高経営責任者)」として忙しくも充実した日々を送っていた。
【魏支社(許昌オフィス)】
「いいか! 本日18時をもって『ノー残業デー』とする! 締め切り間際の決裁書類がある者は、今すぐ私のデスクに持ってこい! 爆速でハンコを押す!」
許昌に新設された魏支社の執務室。
CEOである曹操の声が朗々と響き渡っていた。
かつての目の下の酷いクマは綺麗に消え去り、その表情には経営者としての圧倒的なキレと自信が蘇っている。
「さすが曹操CEO! 決裁スピードが以前の朝廷の百倍速いッス!」
「現場の現場による現場のためのカイゼン! 働きやすさが違いますよ!」
部下の夏侯惇や荀彧たちが、感無量といった様子でテキパキと書類を処理していく。
かつては「前例がない」「万が一の責任は誰が取る」と突っぱねる老害官僚たちに胃を痛めていた曹操だったが、今は違う。董卓会長から「現場の判断で即断即決しろ」と全権を委任されたおかげで、インフラ整備も人員採用も思いのままだった。
「……ふぅ、本日分の業務終了だな」
定時の鐘が鳴ると同時に、曹操は高級な茶を一口すすり、遠い西の空――涼州の方角を仰ぎ見た。
「やはり、あの御方は偉大だった……。かつては『暴君』などと難癖をつけていた自分が恐ろしいよ。董卓会長の提示されたホールディングス構想がなければ、私は今頃、都のドロドロした足の引っ張り合いで潰れていたはずだ……」
曹操はデスクの引き出しから、大切に保管された一枚の竹簡を取り出した。
そこには董卓の手書きでこう記されている。
『カイゼンに終わりなし。現場の従業員を大切にな。 董卓』
「……ハッ、相変わらず金言ばかりだ。よーし、今夜は社員全員で福利厚生の焼き肉パーティと行くか!」
「「「おーっ!!」」」
【蜀支社(成都オフィス)】
一方、はるか南西の益州――蜀支社のオフィスでは、アットホームな熱気にあふれていた。
「兄者! 今日もエンジェル投資で引いた資金を使って、新しい用水路の工事を開始したぞ!」
「張飛、声を落とせ。CEOを『兄者』と呼ぶなと社内コンプラ研修で習っただろう。……で、本日の目標進捗率は?」
COO(最高執行責任者)の関羽と、現場監督の張飛が、活気あふれる声で報告してくる。
デスクに座るCEO・劉備は、感極まったように目頭を押さえていた。
「うぅ……関羽、張飛……。昔は資本金もなくて、君たちにろくな給料も払えず、路頭に迷わせてばかりだったのに……」
「兄者、泣かないでくれよ! 全部、涼州の董卓会長のおかげじゃないか!」
「そうだぞ。無利子で莫大な事業資金を出資してくださり、経営ノウハウまで叩き込んでくださった。会長はまさに、我らスタートアップの恩人だ」
劉備は深くうなずき、胸ポケットから「後漢グループ株主優待券」を大事そうに取り出した。
「ああ……。会長は『アットホームな社風こそ君たちの強みだ』と言ってくださった。この蜀支社を、中華一社員に優しいホワイト企業にしてみせる! それが会長への一番の恩返しだ!」
「「応!!」」
【涼州グループ本社(会長室)】
その頃。
グループ全体の「最高顧問(会長)」として君臨する董卓はというと――。
「会長~、魏支社の曹操CEOと、蜀支社の劉備CEOから、今年度の業績報告と感謝の詰まった高級お中元(特産品)が届きましたわ~」
「おお、そうかそうか! あいつらも元気にやってるみたいだな!」
夕暮れの涼州。
広大な庭園の特等席で、俺は贅沢な羊肉に舌鼓を打ちながら、キンキンに冷えた果実酒を楽しんでいた。
「会長! 今日の治安パトロールも異常なしッス! 赤兎馬のオイル交換(蹄のメンテナンス)もバッチリッス!」
元気に報告してくる最高セキュリティ責任者・呂布。
両脇には、笑顔で酒を注いでくれる健康的で魅力的な涼州美女たち。
「よしよし、奉先もご苦労! さあ、今夜も定時退社で宴の始まりだ!」
「「「かんぱーい!!」」」
現場を優秀な若手に任せ、自分は最高顧問として適度なアドバイスと投資だけを行い、夜は健全な酒池肉林。
(1周目の死の恐怖を乗り越え、完璧な組織体制を構築した甲斐があったぜ……!)
満ち足りた風が、涼州の心地よい夜を吹き抜けていく。
叩き上げサラリーマン・董卓の「カイゼン」がもたらした平和は、これからも末永く続いていくのだった。
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