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現代の工場勤務だった俺、董卓に転生したので酒池肉林を楽しむつもりが、気づけば天下を統一していました  作者: 水原伊織


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第1話 董卓に転生した俺、まず目指すは酒池肉林

三国志が好きだ。


特に魏が好きで、休日には『三国志演義』や正史を読み返し、ゲームでも何度も天下統一を果たしてきた。


そんな俺が、唯一納得いかなかった人物がいる。


――董卓。


後漢末期に洛陽へ乗り込み、幼い皇帝をすげ替え、やりたい放題。

美女を集め、贅沢三昧。

酒池肉林の限りを尽くした挙句、最後は養子の呂布に討たれて終わる歴史的暴君だ。


「いや、本当にそんな夢みたいな生活できるのか?」


歴史書を読むたび、俺はそんなことばかり考えていた。

もちろん董卓みたいな最期は御免だが……。


「一週間だけでいいから、あの贅沢を体験してみたいよな」


そんなくだらない妄想をしながら、俺は今日も工場へ向かう。


俺は大手企業の子会社に勤める、ごく普通の工場勤務サラリーマン。

役職はない。平社員だ。

だが、現場では「何でも屋」として使い倒されていた。


機械の段取り替えから設備トラブルの緊急対応。

在庫管理、品質管理、果ては改善活動の取りまとめに新人教育まで押し付けられる始末。


「せめて役職手当くらいつけてくれよ……」


ため息まじりに仕事を終え、自宅へ帰る。

夕食をつつきながら缶ビールを一本空け、いつものように動画サイトで三国志の解説動画を流した。


『――こうして、暴君・董卓は酒池肉林を極め……』


「いいなぁ、酒池肉林」


俺はふふっと笑いながら布団へ潜り込んだ。


「もし董卓になれたら、一週間くらい遊んで暮らすんだけどな……」


呟きを残し、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。



――暑い。


目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。

立派な木組みの梁に、重厚な天蓋付きの寝台。

部屋の隅では、見たこともない衣装を着た美しい女性たちが数人、身を縮めて頭を下げている。


「……え?」


「旦那様、お目覚めでございますか」


ダンナサマ?

何を言っているんだ。俺は独身だぞ。


慌てて起き上がると、視界に入った自分の腕に絶句した。

丸太のように太く、逞しく、日に焼けた腕。そして見事な太鼓腹。

弾かれるように跳ね起き、近くにあった青銅の鏡を覗き込む。


そこに映っていたのは――

黒々とした立派な髭を蓄えた、眼光鋭い大柄な中年男の顔だった。


「……誰だこれ!?」


いや、知っている。

三国志オタクの俺が、このというかヴィジュアルを知らないはずがない。


「まさか、な……」


絶句する俺のもとへ、部屋の外から鎧を着た男が慌ただしく駆け込んできた。


「董公! 朝議のお時間でございます!」


――トウコウ。


その一言で、すべてが繋がった。


俺は、董卓に転生したのだ。


次の瞬間、俺の口元は緩み、両拳を力強く握りしめていた。


「董卓か……! よっしゃぁぁぁっ!! これで美女に囲まれて酒池肉林だ!!」


突然叫び出した俺に、侍女たちは怯えて目を丸くし、武将も「ついに頭がおかしくなったか」と言わんばかりに呆然としている。


だが、そんな視線はどうでもいい!

歴史がどうとか、最期がどうとか知ったことか。

せっかく暴君になれたのだ。好き勝手に生きてやる。

美味い酒を飲み、馳走を食らい、美女と戯れて暮らす最高のニート生活(皇帝付き)を送ってやる――!


このときの俺は、まだ知らなかった。


董卓軍の内情が、現代のブラック工場すら天国に見えるレベルで崩壊した「超絶劣悪な職場環境」だったことを。


そしてその惨状を目にした瞬間、長年の工場勤務で身体に染みついた「現場改善癖」が勝手に発動し、酒池肉林どころか怒涛の業務改善の日々が始まることを――。

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