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間食の抜け道【前編:知識編】


それからさらに10日ほどが経過し、幸子はさらに1kgの減量に成功していた。

ダイエットを始めてから心なしか身体が軽い。椅子からの立ち上がりが少し楽になったような気がする。階段を上がるのも苦しかったのに、前ほど息切れしなくなった。たかが2kg、されど2kgだ。


普段は夕食の準備が整ったら母に呼ばれてキッチンに向かっていたが、今日は母の手伝いをしようと自発的にキッチンに向かった。


「お母さん夕食の準備、何か手伝うことある?」


「あら珍しい。それじゃご飯はもうできるから、食器を出してくれる?」


「はーい」


幸子は快く引き受け、食器棚を開ける。普段は法事の時にしか使わない重なり合った大皿の陰から、それはヌッと姿を現した。弾けるようなオレンジ色のパッケージ。ジャガイモを擬人化したポップなイラスト。そして、暴力的なまでに食欲をそそる『コンソメ』の文字。

指先がそれに触れると、カサリ、と乾いた音が静かな食器棚の中で爆音のように響いた。


な、なんで食器棚に、ポテチが…。


一瞬思考がフリーズした。本来そこにあるはずのない異物。しかし、母が自分に見えないように、かつ自分が夜にこっそりつまみやすい特等席にそれを隠したのだろうという事は、すぐに察しがついた。


隠し場所としては完ぺきだったのかも知れない。だが、皮肉にも夕食の準備を手伝うという善意にとって、想定外の邂逅となったのだった。


最近は豆乳を購入するために店頭などに行きお菓子が売っているのを目にする事はあるが、別世界のように思えて特に気にも留めなかった。しかし、今目の前にあって食べようと思えば食べる事ができるとなると、その誘惑は実に抗いにくいものだった。


「ポ、ポ、ポ、ポ…」


あまりの衝撃に思わずノドがつかえて言葉が出てこない。

食べたい、食べたい、強い衝動が幸子を襲う。もはやいくら我慢しても誘惑に負けて手が伸びてしまうのは時間の問題だった。その異変に母が気付き、「あっ」と小さく声を上げる。


「ごめん幸子、そこにはお母さんのお夜食が…」


「…大丈夫だよお母さん。もう夕食だし。今食べたら夕食食べれなくなっちゃうもんね」


何とか平静を装うが、幸子の頭はポテトチップスの事でいっぱいになった。


もういっそ自分の正直な気持ちを京加賀にぶつけて叱ってもらおう、もし京加賀に言えばきっと『お前がそれを食べて得られるものは糖質と脂質と塩分だけだ』などと言われるだろう。そうなったら何となくポテトチップスを食べたいという衝動を抑えられるのではないかと幸子は思った。


ダメだな私は、自分一人じゃポテチの誘惑にも勝てない…。


夕食後、幸子は早速ポテトチップスの写メを撮り、LINEに画像をアップして『ポ、ポ、ポ、ポ…』とコメントを送る。すると数分で、瑠奈から返信が来た。


『八尺様で草w』


続いて京加賀からも返信が届く。


『ダイエットも順調なようだし、たまには食べていいんじゃないか』


意外な回答だった。てっきり叱られるかと思ったし、むしろ叱って欲しいくらいに思っていた。まさかこんなすんなり食べて良いと言われるとは思わず、驚きで逆に食べたい欲求が収まってしまう。


『食べちゃっていいんですか!?』


『たまにならいいだろう。以前も言ったが、ダイエットとは生きザマだ。期間限定で特殊な事をするのではなく、日常生活全体が大事なんだ。嗜好品を楽しむのも人生の一部だろう。決して一生ポテチを食べてはいけないという訳ではない』


『なるほど』


『だがちょうど良い機会だ。この機会に太りにくい間食について教えてやろうか?』


『是非教えてください!』


『今ちょうど俺も食べていたところだ』


そのコメントのすぐ後、一件の画像データが送られてきた。

京加賀は黒いTシャツ姿でソファにふんぞり返っていた。指には薄っぺらく、黒い物体を持ってもう片方の指でピースサインをしている。幸子は京加賀に対してとても厳格な印象を持っていたので、ラフな格好でくつろいでいる様子にギャップを感じ、何となく吹き出してしまう。


『リラックスタイムですね先輩。それにしてもこれは、海苔、でしょうか?』


『こいつは板海苔だ』


『板海苔って何ですか?』


『太巻きや手巻き寿司などに使う大きな海苔だな。間食したい時は、俺はよくこいつを食べている。というより、ほぼ毎日食べているな』


『確かに海苔なら太りにくそうですね。でも満足できるんでしょうか?』


『まあ、1枚半か2枚も食べれば腹が膨れて十分な満足感を得られる。ちなみに海苔は低カロリーなだけでなく、豊富な食物繊維、ビタミンB群、カリウムなどがあり美容にも効果的だ』


『おお、まさにダイエットの間食としては最高の食材ですね』


『注意点としては味付け海苔はかなり糖質が高い事と、韓国海苔などは表面に油などがコーティングされていてカロリーが高い、食べるなら焼き海苔一択だ』


『でも味がしないのでは?』


『人によっては物足りなさを感じるかも知れないな。ちなみに海苔単体で物足りなければ、チーズを巻いて食べるとかなり美味い。しかし、ややコスパは悪くなるから、俺は自分へのご褒美などの時はチーズを買ってきてチーズ海苔を食べている』


『どんなチーズですか?』


『個包装されているナチュラルチーズなどが食べやすいな。スモークチーズなどは味が濃くて更に美味しいが、やはり少し高い』


『海苔とチーズですね』


『ちなみに業務スーパーに板海苔10枚250円程度の商品がある。これが飛び抜けて安い。普通のスーパーでは8枚400~500円とコスパが悪い。可能なら業務スーパーで5袋くらいまとめ買いしておくといい』


『分かりました』


文面から伝わってくる京加賀の主婦のような切実な熱量に、幸子は思わずクスっと笑う。


『それともう一つおススメがある。ゼロカロリーコーラだ』


『ゼロカロリーコーラ? カロリーがゼロなんて、そんな奇跡の飲み物があるんですか!?』


『天然の甘味料の数百倍もの甘さを出す、人工甘味料を使う事で低カロリーのコーラに成功したんだ。ちなみに最近は物価高の煽りでかなり値上がっている。1年前の相場は138円(1.5ℓ)だったが、今や178円だ』


『すごい値上がってますね』


『しかし、実は更におススメ商品がある。それは、セブンイレブン、ゼロサイダー・トリプルファイバーだ!』


『おおー!! って、何がすごいんですかw』


『カロリーゼロなのは当然として、500mℓ当たりレタス3個分の食物繊維が摂れる。食物繊維は血糖値の上昇を緩やかにし、腹持ちを助ける。これを海苔と合わせれば、胃の中で海苔が水分を吸って膨らみ、物理的にも間食欲をねじ伏せる事ができるんだ』


幸子はサイゼリアで京加賀に会った時の事を思い出す。ドリンクを片手に熱弁を振るっていたように、今は海苔を片手に熱弁している姿が目に浮かぶようだった。


『海苔とダイエットドリンクコンボ。名付けて「なんちゃってジャンクセット」だ。正直、これさえあれば間食など我慢する必要はない』


ご飯を豆腐や豆乳で代用したように、今回はスナック菓子を海苔とダイエット飲料で代用しようとしている。過去に我慢によってダイエットをしようとしていた自分が、何だか時代遅れのように感じた。


『分かりました。早速買ってきます!!』


『えっ、今からか?』


『はい。今どうしても食べたいんで』


『そうか。女性の夜の一人歩きは危険だからな。注意しろよ』


『ありがとうございます』


幸子はスマホの画面を見ながら「どうせ私みたいな巨体を襲うもの好きなんていませんよ」と小さく呟く。それでも胸の奥が少しだけ熱い。自分を一人の女性として扱ってくれる京加賀の優しさが、ポテチよりもずっと強く、幸子の心を高ぶらせていた。



続く☆(次回実食編です)


【商品一口メモ】

セブンイレブンの『ゼロサイダー・トリプルファイバー』(1.5ℓ:168円)

2026年2月現在の価格です。ほんの数カ月前まで158円でした。

ゼロカロリーコーラが138円で買える時は高級品でしたが、コーラが178円相場になった今、値段が逆転し、最近ではこっち買う事の方が増えました。


板海苔は業務スーパーの10枚258円の物が頭二つ飛び抜けて安いだけで、実際の相場は8枚450円程度です。可能であれば、業務スーパーでの購入をおススメします。あるいはもっと安く買えるチェーン店があれば教えていただけると嬉しいです。


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