三十一話 フクメン・ウォーO
騎士団の中にもスケベ仲間が出来そうな事に喜びを感じつつライガーはベッドに入り始める。
リュースケとチャールズと休憩中の騎士達は静かに寝息を起て、ボブはやや大きめのいびきをかきながら眠っていた。
早く寝なければとライガーが睡眠に意識を向け、うとうとし始めた時に異変が起こり始めた。
「ん?(なんだ……だれかトイレにでも行くのか?)」
ペタペタと何かが蠢く音が聞こえてきたことに気付くライガー。最初は誰かがトイレに行こうとしていると気にしていなかった。
しかしそれが自身の周囲で止まらずに鳴り続いている事に違和感を覚える。
「(おかしい……いつまでペタペタし続けるんだ? もしや?!)」
霊による攻撃かと周囲に警告しようとするライガー、しかしそれは更なる異変で止められてしまう。
「なんだ?! 足が……」
足下が異様に締め付けられて熱く感じてくるようになった。恐る恐る毛布をめくり足下を覗くライガー、焦りながら大声を上げる。
「敵だぁっっ!」
直ぐさま全員が起き上がり警戒を始める。リュースケも大声に少々チビってしまうが直ぐに身構える。そして起きたボブがライガーに尋ねた。
「どこに敵がおる?!」
「ここだぁっ!」
直ぐさま毛布を引っぺがして足下を見せるライガー。
そこにはベビー服姿のしわくちゃ老婆がライガーの足にしがみ付いていた。
その力はかなり強く、ライガーの足が青紫色に変色するほどに締め付けられている。
「アンギャァァァァッッッ!!!!!」
大声で泣き声を上げる老婆、声の大きさに思わず耳を塞いでしまう騎士団の面々、そんな中でボブが負けじと叫ぶ。
「坊主ゥ!!」
「はいぃぃぃぃぃいっっ! らぁっ!」
騒音を我慢しながら駆け出したリュースケは眠りを妨げられた怒りを込めて老婆の顔面に拳を打ち込む。
殴られた老婆は霧散し、それと同時に慌てて駆けつけた女性陣部屋に入ってくる。
「どうしましたのっ?!」
寝間着姿のラビ達女性陣が駆け込む。余り見かけないラビ達の姿に思わずドキッとしつつリュースケが言う。
「ラ、ラビさん! オギャり幽霊の襲撃です! ライガーさんの足下にしがみ付いていました! ブン殴って消しましたが警戒して下さい!」
「分かりましたわ!」
その場の全員の装備に干渉魔法を付与するラビ、一同は更なる襲撃に警戒して身構え続ける。
それから数分経過するも更なる追撃は無かった。一先ずは安心だろうと一同は被害状況の確認に入り始める。
怪我人はライガーのみで他に被害は無かった。そしてライガーの足の治療を始めるラビ、彼の足には霊がよほど力を込めて握り閉めたであろう手の痕の痣がくっきりと残っていた。幸い足その物は痣がしばらく残る位でそれ以外は問題無い状態だった。
それから一同は警戒をしつつそれぞれ部屋に戻り休息を始める。その後、霊や覆面達による襲撃は無く無事に朝を迎えるのであった。
朝になり、朝食を食べた一同は会議室にて昨晩の霊の襲撃やこの後の調査に向けての打ち合わせを始めた。リョウコも急に元に戻る事に期待してその場に同席している。ちなみにリョウコはぴったりサイズのベビー服を着用しており、それは彼女のベッド下にいつの間にか置かれていたという。屋敷の使用人達が気を遣って用意してくれたのだろうとラビ達は判断して着用させていた。
一同を見渡しメローヌが口を開く。
「では改めて昨晩の事から振り返りましょうか……ライガーさん、足の具合はいかがでしょうか?」
「ご心配いただきありがとうございます。幸い、足に一時的な青あざが出来た位で問題無しです」
「そう……良かったです……ライガーさん以外に被害は無かったのですよね?」
騎士団長が答える。
「はい、どうやら今回はラビ氏やリュースケ氏が狙いでは無かったようですな」
「分かりました。ライガーさん、その霊もやはり……『はい、オギャった老婆の霊でした……』そうですか……オギャり魔法との関連があるだろうことは分かるのですが……『ぶうぅぅう』『こら、リョウコ。静かにしないと』『ごめんなさいですわ、メローヌ様……』あらあら、リョウコさんはお元気ですわね? 全然問題無しですよ?」
ベビー服の件も含めて、リョウコの世話を屋敷の使用人や騎士達にしてもらうのは申し訳ないとユミルが応援を呼びに行き、リョウコはグレイがあやし、ラビは申し訳なさそうにメローヌに詫びる。
更にラビがつぶやく。
「そろそろユミルさんが戻るはずなのですが……『戻ったわよ~!』やっと来ましたのね!」
部屋にユミルとその監視役の騎士、更にユミルに似たエルフの女性がやってくる。
「お待たせしたわね~、皆。こちらが私の母よ」
そうしてユミル母が前に出てくる。
「皆様、初めまして。娘のユミがルお世話になってます、ユミルの母です。リョウコさんは私がしっかり見てますので皆さんはそちらに集中されて下さいね」
「ご協力感謝しますわ! ユミルママさん『任せてね、ラビちゃん』リョウコさんをお願いしますわ」
そうしてリョウコに向き合うユミル母はあやし始める。子育て経験者なだけあり、上手にリョウコの機嫌を取りつつ落ち着かせている。
そしてぽつりとユミル母はつぶやく。
「なんだか、イスタ様を思い出します。こうしてよく子供達をあやしていましたね……」
「そうですね……」
感傷に浸るようにメローヌが同意する。
「? イスタ様とは?」
ラビの問いにユミルは答える。
「父の前までこの町の長をやっていたハイエルフの女性よ。凄腕魔法使いで子供好きな人でもあったわ……仕事や研究の合間にこうして子供達の世話をしていたのよ。大の大人でもあの人からすれば小さな子供に感じたのか、大人に対してもやたらとお世話したがっていたわね……」
「「そうそう」」
同意するユミル母とメローヌ、リュースケがふと尋ねる。
「ユミルさん、ハイエルフって確か……」
「そう、エルフよりも遙かに長い寿命と膨大な魔力量のエルフの上位互換みたいな種族よ」
メローヌが懐かしむように語る。
「この屋敷も元々、イスタ先生の物ですのよ? 私の魔法留学の先生も務めて下さって多くの事を教えてくれました……それなのに……」
「どうなされましたの?」
気まずそうにユミル母が答える。
「三年前に自殺したんです……本当に突然に……町は悲しみに満ちあふれました……このままではイスタ様も悲しむ、と一番弟子だった主人が長を引き継いで今に至るんです……」
メローヌが続いて言う。
「もっと多くの事を学びたかったですし、先生の屋敷をしっかり手入れし続けたかったのでこの町に留学中の間はそのまま使わせ続けてもらっているんです」
「そうだったんですのね……」
メローヌは手を合わせてパチンと音を鳴らし周囲に言う。
「さて! 気持ちを切り替えて動きましょう! 昨晩の事はこれ以上考えても仕方無いでしょう……そうなるとリョウコさんが残した手がかりだけが頼りです。リョウコさんが最後に指さした方角を重点的に調査します! よろしいですね、皆様?」
そうしてメローヌの号令で一同は調査の為の準備に動き出す。
準備を終えて玄関前の広いスペースに集まった一同、屋敷の使用人達とユミル母と彼女にあやされるリョウコが見送りにやってくる。
「メローヌ様、皆様、どうかお気を付けて『はい』」
「ユミル、皆さん、怪我の無いようにお気を付けください『ぶううう』リョウコちゃんもこう言ってますから『もちろんですわ! リョウコさんをお願いしますわ!』はい!」
こうしてメローヌ達とラビチームは昨晩リョウコが指さした方角に進み始めた。
それから進み続けるも空き地ばかりで目立ったモノは見当たらなかった。
この屋敷が町外れに近い場所にあることや少し進んだ先に森があることもあり、周辺に住んでいる町民はほとんどいなかった。リョウコが指さした方角が森方面ということで怪しい建物どころか建築物その物がほとんど見当たら無い。もしかしたら地面に隠し扉のような物が、とも考えその方面でも重点的に調べて進んだがそれらも見つからなかった。
そうして一同は大きな公園に到着した。
芝生が広く植えられ、更に遊具や砂場が配置されている。
公園を見渡しながらラビがつぶやく。
「普通の公園ですわね……」
「そうですよね……俺の世界の公園もこんな感じでしたよ……」
自身の記憶を振り返りながらリュースケは答える。
二人の発言にユミルが言う。
「ここはイスタ様が随分前に造った公園、自然の直ぐ傍で子供達に遊んで欲しくて造ったそうよ。私も子供の頃はよく遊びに来ていたわ……」
懐かしむユミル、メローヌが声を発する。
「さて、皆様! これからこの公園の調査を始めます! よろしいですね!」
メローヌの号令で一同は公園を調べ始める。
ある騎士達は遊具を調べ、また別の騎士は仲間達と協力しながら砂場を掘り進め、更に別の騎士達やラビチームは地面に身をかがめながら隠し扉や手がかりが無いか徹底的に調べていた。
そんな中で砂場を調べていた騎士達が声を挙げる。
「メローヌ様! やたらと大きなおしゃぶりが見つかりました!『何か分かるかもしれません、証拠品としてしっかり保存してください。引き続き調査を!』承知しました!」
それから数分後、遊具を調べていた騎士達も大きなガラガラを発見する。砂場の時と同じ指示をメローヌは出して騎士達は調査を続ける。
地面を調べていた騎士達とラビチームは中々手がかりらしき物が見つからない。
長時間下を向いていて腰が疲れたのか、立ち上がり腰を伸ばして小休止する者も出始める。そんな者らに近づき、労いの言葉と水を差し出すメローヌ。
ライガーも腰が疲れ、立ち上がろうとした時に森から光る何かがメローヌに向かっている事に気付く。経験からそれは弓矢だと判断したライガーは、直ぐさま自分に近寄ろうとしているメローヌに駆け出した。
「メローヌ様ァッ!『きゃっ!』ぐぅっ!」
メローヌをかばいながら地面に倒れ込むライガー、その右腕には矢が突き刺さっていた。
騎士達は直ぐにライガーとメローヌを守る様に陣形を組み、ラビチームはライガーとメローヌの元に駆け寄り二人の安否確認を始める。
「騎士様方! メローヌ様は負傷無し! ライガーさんが右腕に矢傷を!」
直ぐさまライガーの手当てに入り始めるラビ、それを守る様にラビチームは立つ。物理攻撃という事は覆面達かとリュースケは戦意を高める。
ラビの報告を聞いた騎士団長が周囲に指示を出す。
「了解した! おい! 直ぐに狼煙を挙げて町に知らせるんだ!」
騎士団長の指示に従い、狼煙を上げる騎士達。それを確認して一同に指示を出す。
「増援が来るまで下がれるだけ下がってなるべく町の近くに戻るぞ! 各自、こうど……」
突然、黙ってしまう騎士団長。他の騎士達も動きが止まってしまう。
その様子にラビチームは脳裏に嫌な可能性が浮かんでくる。
「きゃきゃきゃ」「ぶううううぶぶぶぶ」「いぇえへへへへえへへ」
またしても騎士団全員がオギャり出してしまう。
それを待っていたかように覆面集団が森の方から現れ、不機嫌そうな顔をしたラビがチームメンバーに指示を出す。
「ちっ……クソみてぇなタイミングで来やがって……ライガー! 動けるなぁ?『動くだけならなんとか!』ヨシ、無理はすんな! メローヌ様と騎士団達をどうにか集めて守れ! メローヌ様!『分かってます! 守りに集中させていただきます!』助かります! 残りはアタシと一緒に連中を抑えるぞ! 増援が来るまで意地でも粘れぇ! 行くぞぉっ!」
ラビが駆け出す。
それに続いて残りのメンバーも駆け出した。
そして痛む腕をかばうライガーとメローヌはオギャってしまった騎士達を一カ所に集めるべく動き出す。
こうして二度目の覆面達との戦いが始まった。
段々後書きに書くことが無くなってきて焦るこの頃です……
次回は三日後同時刻の予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後の執筆の励みになりますので是非とも評価をよろしくお願いします。




