再び空界へ
布団に入り、横になった。疲れていたのだろう。すぐに眠りについた。
ビューと風の音が聞こえ、目を開ける。草原の上に立っていた。一瞬戸惑ったが、空界だと理解した。足元には小さいお花が咲いている。前回来たときには気づかなかったが、スズランという花だった。座りじっくり眺めていると気配を感じ顔をあげる。そこにはモブじいさんが立っていた。私は慌てて立ち上がる。モブじいさんは私の前に立ち
「どうするか決まりましたか?」
と問いた。
「はい。ぜひ、お引き受けさせていただきます」
そう言うと、ほっとしたような顔を見せた。
「では、これからの説明をしますのでついてきてください」
モブじいさんは一礼して街に向かった。私は後をついていく。
街には精霊たちが変わらず過ごしていた。この世界には精霊の他にも、幽霊や妖怪の国もあるらしく、たまに来るらしい。
モブじいさんを見失わない程度に周りを見渡した。すると、幽霊と話している女の子に目が止まった。見たことある顔だ。
「結!!」
大声をだす。すると、その子がこちらを向き
「れいかー」
と走って私の方に向かってきた。
「どうして、結がここに」
まさか会えるとは思わなかった。
「本当はこっちに用事なかったんだけど、怜華来るって言ってたから私も来ちゃった」
2人で喜んだ。それにしても、結は桃色のかわいい服を着ている。ワンピースのようになっていて、腰には紐が巻かれていた。袖丈が長く、スカートの前には布が1枚たれている。所々に刺繍が施されていた。異国の服と着物をたしたような感じだ。モブじいさんは不思議そうに私たちを見た。
「紀夜さん。こちらの方とお知り合いですか?」
結はモブじいさんの方を見て
「そうだよ。あっちでいろいろあってね。友達になった」
満足そうに言う。私は疑問になってることを結に聞いた。
「なんでみんな結のこと、きよさんって呼ぶの?」
それを聞いたモブじいさんは
「紀夜さん。これから聖夜堂に行くところです」
と結に言った。結はなるほどと納得したようだった。
「じゃあ簡単に説明すると、精霊の国での呼び名だね。精霊の手助けをする助け人たちは名前をもらうの。それが手助けしますよっていう証拠になる。これから行く聖夜堂で名前もらえるから」
と説明してくれた。
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」
と言って、モブじいさんと共に向かった。
聖夜堂の中には、協会のように長椅子がいくつか並んでいた。奥には高い台があり、上には器が置いてあった。中を進んでいくと、床に魔法陣のような模様が書かれていた。モブじいさんはそこで止まり
「ここが名前を与える場所になります。では、この陣の上に座り目を閉じてください」
私は指示通りに陣の上に座り、目を閉じる。
すると、体がじんわりと温かくなった。数十秒すると、モブじいさんの声が聞こえた。
「いいですよ。目を開けてください」
目を開けると、前に巻物が開かれていた。それを手に取り、見ると
『汝の名、翡夜 なり』
と書かれていた。翡夜か。心の中で何回かつぶやく。モブじいさんは巻物を持ち
「おめでとうございます。翡夜さん。良い名前ですね」
と微笑んだ。
「さて、これからですけど。半年、こちらに毎日通ってもらい、空界のことを学んでもらいます」
結と公園で話したとき、ちらっと言ってたことを思いだした。
「わかりました」
と頷いた。
「さて、教室に案内しますね。本当なら他にも学ぶ仲間がいるのですが、翡夜さんの参加は時期がずれているので、申し訳ないですが1人でやることになります」
助け人の人選は春に決まり、その人たちと学ぶことになる。しかし、私の参加は夏と遅れているため、1人で学ぶことになった。聖夜堂をでて、洋館に入った。正面には階段があり、左右には通路が続いている。階段の奥には扉があった。
「あの、ここってなんの建物なんですか?」
「この建物は王城といって、1~2階が教室、会議室。3~5階は重臣の部屋。6~7階は王族の部屋となっています。この1年、見習いの間は3階以上にはいけないので注意してください」
と説明してくれた。王族、重臣、日本では聞きなれない単語だ。入り口に1番近い教室に入った。
「ここが授業を行う教室です。主に私が行いますね」
モブじいさんはにこっと笑った。そして、なにかを思い出したのか、私の方を見た。
「ああ、そうでした。個人部屋があるのでご紹介しますね」
と言って、ついてくるように促す。私はモブじいさんの後ろをついていった。階段の裏の扉から外にでる。外は青々とした芝生が生えていた。道の脇には花壇が並んでおり、いろんな花が植えられている。
少し歩くと2階建ての家が現れた。周りを見渡すと、他にも家がある。家はそれぞれ一色に統一されていた。そのひとつ黄色い家に近づいていく。
「ここは黄龍殿です。中にはそれぞれ部屋があり、ドアに名前が書いてあります。その部屋をお使いください」
と家の扉を開けた。両側に5つずつドアがあり奥に階段があった。左の2つめのドアに、翡夜と書いてあった。モブじいさんはそこのドアを開け、入るように促す。部屋には机、ベッド、棚などが置いてある。私の部屋とそんなに変わらなかった。机の上には、服と書類が置いてある。
「地界に戻りたい場合は、このベッドで寝ると戻れます。まあ、ベッドがなくても帰れますが、こちらに来たとき、眠った場所目覚めるので、自分が今どこにいるかわからなくなるときもあるのでできるだけ、ここで寝てください。その服は空界での専用衣装なので、来たときには必ず着用してください。今日はゆっくりしてください。明日から頑張りましょうね」
「はい。ありがとうございます」
とお辞儀した。モブじいさんがでていったのを確認してから、机の上の服に目をとめた。服を広げてみる。翡翠色と白色で構成されていて、さわり心地のよい生地の服だった。近くには着方の紙が置いてあり、それを見ながら着てみた。着ていた服を脱ぎ、頭からかぶり袖を通し、大きい布を前に垂らした。大きい布には布紐がついていたのでそれを腰に巻いて結んだ。その上から紐巻いて前でリボン結びをして、できあがった。
それを着ながら、部屋の中を見渡す。棚に冊子が置いてあった。冊子を手に取り、ベットの上に座って目を通す。どうやら、これから使う授業の冊子らしい。冊子を読んでいると、ドアをノックした音が聞こえた。私は冊子を置き、返事をしてドアを開ける。そこには結がいた。
「ゆ、紀夜。どうしてここに」
結と言おうとしたが、ここは空界。こっちの呼び名で言った方がいいのかなと思い、言い直したのだった。結は笑いながら
「モブじいさんに教えてもらったの。結でいいよ。私も怜華って呼ぶから。急に変えて呼ぶなんて難しいよ」
と言った。
「わかった」
私は頷いた。結は私の着ている服をじっとみて
「怜華は翡翠色か。良いね。そういえば名前なんだったの?」
と聞いた。
「翡夜だって」
照れながら言った。まだ、翡夜という名に慣れていない。
「翡夜か。綺麗な名前だね。服も似合ってるよ」
結はにこっと微笑み、親指を上に立てた。
「ありがとう。結も似合ってる」
私も親指を上に立てた。
「ねえ、この街を案内してあげるよ」
と言って、結は私の手を引き外へでた。