友との出会い
気が付くとそこは、ベットの上だった。時計を見ると朝になっていた。夢だったのか?窓を開けるとあの空界という世界にいた生き物が、昨日と変わらず飛んでいた。じゃあ、あの話は本当だったのだろうか。もぶじいさんに言われたことを思い出す。にわかには信じがたかった。
制服に着替え学校に向かった。登校中も精霊を見かけたが、昨日と比べると慣れたような気がした。
席に着き窓の外を見ると、いろんな精霊がいた。相変わらず、建物の中には入れないようだ。クラスの子に、校庭に何かいるか見てもらったが、何もいないという答えだった。やはり、見えていない。
そうこうしてるうちに、2日たった。明日、答えを言いに行く日になる。どうこたえるか迷っていた。精霊は私にとって関係ない存在。普通ならすぐ断ると決めるだろう。しかし、興味が少しわいたのである。それは授業を受けてるときだった。窓側の席に座っていたせいか、精霊の声が聞こえてきた。
『昨日、発売された漫画買った?』
『買ったよ。恐竜のステッカーが付録だったよな』
『そうそう。僕、しっぽにはったんだ。見てー』
小学生同士のような会話にみえて微笑ましかった。人と似ているんだな。そう思った瞬間だった。容姿が違うだけで、会話の内容や服を着ていたりと同じような点がいくつかあるとみてきて感じた。
家に帰る途中、ある光景に足が止まった。自分と同じような年の子がふわふわとした精霊と話しているのである。私は近づき声をかけた。
「あの、すみません」
ショートカットの女の子は振り返り私を見た。
「なんでしょうか」
突然声をかけたからか、少し警戒されているようにみえた。
「あなたも精霊が見えるのですか」
女の子の足元の生き物を見る。
「ええ、そうですけど」
私が見えているのがわかったのか少し警戒が解けたように思えた。
「あの。助け人のこと教えてくれませんか」
なぜ、この子に聞いたのかわからなかった。だけど、なにかヒントを見つけられるような気がした。
「わかりました。あそこのベンチに座って話しませんか」
女の子が指さした。そこは公園の中のベンチだった。
子どもたちが駆け回っているのを見ながら、女の子が口を開いた。
「私は清原結といいます。なにが聞きたいのですか?」
「今井怜華といいます。私、つい最近精霊を見えるようになったのです。おじいさんに精霊の助けになっていただけないかと言われて、返答をどうしようか迷っているんです」
そう、つぶやいた。結さんは私の顔をみて話し始めた。
「私はもともと精霊とか幽霊とか見える体質で、小さい頃からそういう子たちと過ごしてきたんです。だから、私は助け人の話がきたとき、すぐに返事しました。精霊って興味深いんです。1匹1匹、性格が違ってふれあっていてとても楽しいですよ。私はオススメしますよ。引き受けること」
と笑顔で言った。それから結さんといろんな話をした。助け人になった最初の半年は空界について学ぶという。次の朝、疲れないのかと聞いたが、寝ている時と変わらない目覚めらしい。なにより驚いたのは同じ学校で同級生ということだ。結は隣のクラス。他クラスで仲が良い子ができて嬉しかった。この子がいるならやってもいいかもしれない。そう思った。
話していると、道で結と話していた精霊が勢いよく飛んできた。
「紀夜さん。大変です」
なにかあったのだろうか。それに紀夜って。まだまだわからないことだらけだ。
「どうしたの?」
「コロロじいさんがいなくなって」
息をきらしながら、精霊は言った。結は急に立ち上がり
「またか」
と声をあげた。
「どうしたの?」
私が聞くと
「しっぽが4つある犬みたいな精霊なんだけど、その子が指定の場所からいなくなったらしいの。このおじいちゃんなんだけど」
とスマホを取り出し、写真を見せてくれた。小型犬のように小さく、ひげがとても長くていかにも年老いていた。
「このコロロじいさんは、太陽の精霊なの。こっちだと太陽がでてるときしか生きれないから、夜になる前に向こうの世界に移動させないと行けないの。足が弱ってるから活動範囲を決めていたんだけど、どうやらそこからでたみたい。早く見つけないと」
時計を見ると、日没まで1時間あまりで焦っているように見えた。
「私も手伝う」
気づいたら、そう口にしていた。結は少し驚いた顔をしたが、お願いと頷いた。
コロロじいさんの指定場所はこの公園から40mの範囲である。それより外を探すことにした。スマホで地図を見ながら確認する。
「あなたたちはここから西を、他の子たちにも声をかけて」
結がそばにいた精霊に指示した。精霊たちはうなずき消えた。
「怜華は南を。私はここから東と北を探してみる。本当は気配を感じればこれでわかるんだけど」
海中時計のようなものを取り出し私に見せた。
「反応しないのよね。寝てるのか。なにかあったのか」
手が震えていて、事の大きさが伝わってくる。
「大丈夫。きっと大丈夫だよ」
元気づけるように、そっと声をかけた。
「ありがとう」
結はにこっと微笑んだ。
私たちは二手に分かれ探し始めた。
南には商店街や小さな公園、住宅街がある。コロロじいさんはサイズが小さい。隅々まで見ないといけないのが難点だった。
どんどん日が沈んでいく。急がなきゃ。焦りを覚えながら探していると、スマホから着信がなった。結からだ。別れる前に番号を交換していた。
『見つかった?』
息をきらした声が聞こえてくる。
『まだだよ』
『そう』
残念そうに声を落とした。
『もし見つかったら、連絡お願い』
『わかった』
そう言って、電話をきった。太陽が刻々と沈むなか、私は住宅街を走っていった。
数分後、疲れて道端にしゃがんだ。しばらく座り、息を整えて立ち上がる。目の前にあったのは小さな公園だった。ゆっくり歩きながら探し始める。
草むらや複合遊具を見て、最後にローダー滑り台の下を見た。すると、薄暗い空間にぴくぴくと動くものがあった。スマホの電気をつけ照らす。そこには結に見せてもらった、写真と同じ精霊がいた。 私が近づいていても動く気配がなかった。
「あ、あの、コロロじいさん」
私が声をかけると
「なんじゃ。ああ、わし寝とったのか」
と呑気な声が返ってきた。私はほっとして結に電話をかける。
『結、見つけたよ。公園にいた』
『本当!ありがとう。怜華、もう時間ないから、コロロじいさんと一緒に廃校になった小学校に向かって。そこで落ち合おう』
その小学校は3年前に廃校になった。解体するかどうかで揉めている学校だ。時間を見ると日没までもう20分きっていた。間に合わせないと。私はコロロじいさんに目線を向けた。
「え...」
コロロじいさんの体が薄くなっている。いやな予感がした。結にその声が聞こえていたらしく
「どうしたの?」
ときいてきた。
「コロロじいさんの体が薄くなってて」
それを聞いた結は、私が話し終わる前に
「今すぐ向かって、薄くなりすぎると助からない」
とても焦っているのがわかった。私は電話を切り、コロロじいさんを抱きかかえ、廃校に向かった。抱えてる間もだんだん薄くなり、軽くなっているのがわかる。
「もう少しですから、頑張ってください」
そう声をかけた。
廃校に着くと結がいた。結も私に気がついて近づいてくる。
「結。連れてきたよ」
と、見せる。コロロじいさんは全体的に消えかかっていた。それを見た結は、悲しそうな顔をして、首を横に振った。
「そんな。だってまだ」
温かい。生きているのに。泣きそうになった。悔しいし、一生懸命に探して情がわいたからなのかもしれない。
"消えないで"
強くそう思った。
すると、コロロじいさんの体が輝き始めた。私たちは顔を見合わせ驚く。さらに光が強くなり、目をつぶった。やがて光は収まり消えた。私たちは、おそるおそる目を開ける。すると、腕の中で薄くなっていたはずのコロロじいさんが元に戻っていた。結は笑顔になり、喜んだ。私もよかったと安心した。コロロじいさんは私の腕の中でのんきにあくびをしている。
「なんでかわからないけど、助かったってことだよね」
私が言うと、結は頷いた。
「そうだね。元の状態に戻ってるから」
コロロじいさんを触りながら言った。
「あれ、怜華がやったの」
不思議そうに聞く。
「わからない」
私は首を横に振った。なんで起きたのかよくわからなかった。
「結。コロロじいさんを」
はっとしてコロロじいさんを結に渡した。結は頷いき、優しく抱きかかえた。この状態がいつまで続くかわからない。時間制限があるといけないので急いで、移動した。
結は体育館の中に入っていく。日が落ちてきているせいか、中は薄暗い。結の後ろから私もついていった。
体育館の中に入るとそこには大きな絵画が置いてあった。大きな木と花畑の絵。
「これは?」
近づき尋ねる。
「これは空扉といって、ここと向こうをつなぐ扉なの。カモフラージュで絵画になってる。ちょっと待ってて」
とコロロじいさんを降ろして、絵画に手を当てた。すると、絵が消えて草原が見えた。遠くにあの街の高い壁が見える。コロロじいさんは扉の前に行き
「ありがとう。お2人さん」
というと、頭を下げ草原の中に消えていった。見送ると、元の絵画に戻った。私たちは気が抜けその場に座った。
「よかった」
「うん。よかった」
2人で言いあう。少したってから体育館からでると、空は暗くなっていた。
「今日は一緒に探してくれてありがとう」
校門に向かいながら、結が微笑んだ。
「いえいえ。こちらこそありがとう。勉強になったし、決心がついた。今日きちんと伝えようと思う」
「ほんと。よかった」
結が私を見る。とても嬉しそうだった。
「これからも、仲良くしてもいい?」
結が心配そうに私を見る。私は頷いた。
「もちろん。これからもよろしく。結」
立ち止まり、片手をだした。
「ありがとう。こちらこそよろしく」
結も手をだし、私の手をぎゅっと握った。
月明かりが私たちを照らすなか、それぞれの家に帰っていった。