異国からの転入生です
「なぁ、岳。もうすぐだな!」
スポーツテストから数日経ったある日の教室で、真が話しかけて来た。
「何が?」
「ゴールデンウィークだよ!」
「あぁ、なるほど」
今週末からゴールデンウィークが始まる。しかも、今年は9日連続の休みがあった。
「なんか予定入ってんの?」
「う~ん・・・とりあえずバイトが入ってるかな。お燐が忙しくなりそうって言ってたし」
「バイトかぁ、ならさ、バイトがない日とか遊ぼうぜ!」
「あぁ、いいよ」
俺は頷いた。
「お前たち、ゴールデンウィークから剣道場の改装工事も終わるんだから部活がない日に予定作っておけよ?」
流が席に着きながら口を開いた。
剣道場の改装工事はゴールデンウィーク初日に終わる予定となっている。
久しぶりに学園で剣道が出来るわけだ。
「もちろんだよ。流、工事終わったら勝負しないか?」
「あぁ、いいぞ!久しぶりだからな、岳との勝負は!」
流は笑みを浮かべながら答えた。
学園のチャイムが鳴り、俺たちは授業の準備をする。
「始めの授業って何だっけ?」
「確か、英語じゃなかったか?」
「英語か・・・今日こそ防いでやるぜ!」
英語の授業は今年新任の教師として入った十六夜 咲夜が担当していた。
銀髪のボブカットで、もみあげ辺りに三つ編みをしている咲夜は着ている服が完全にメイド服であり、年齢も俺たちと変わらないのではという容姿である。
真はこの咲夜に対して毎回挑戦していることがあった。
咲夜は授業中に私語や居眠りをしている生徒がいると、チョークを投げてくる。
投てきに関して彼女はずば抜けて優秀で、どの場所にいる生徒でもチョークを頭に命中させていた。
真はこのチョークを防ぐことを授業の楽しみにしているようで、ワザと私語をしたり、居眠りをしたりと咲夜を挑発していた。
以前その私語に付き合わされて2人同時に、頭にチョークを受けてから、俺は一切この時間では真の私語に付き合わないようになっていた。
授業の時間になり、咲夜が入ってきた。
「起立!礼!」
日直が号令をかける。
席に座った俺はチラリと真を見る。
今日の真は居眠り作戦でいくようだった。
しかし、ただ居眠りをしているわけではない。
机に開いている英語の教科書を立てていた。
居眠りをしているのを気付かれないために教科書を立てているように見えるが、おそらくチョークを防ぐために置いているのではないだろうか。
咲夜は教科書を見ながら英語の進行形について教えている。
しかし、真が居眠りをしているのに気付いたらしい。手にしていたチョークをまるでナイフを投げるようにして待つと俺目掛けて投げだした。
「!?」
何故俺なんだと思いながら俺はチョークを避けるために机に身体を付けるように姿勢を低くする。
投げられたチョークは俺の上を通過し、窓枠に当たった後、進路を変え真の後頭部へと当たった。
「痛ぇ!?」
痛かったのか、真が悲鳴をあげながら頭を押さえた。
「村岡君、授業はちゃんと聞きなさい」
咲夜は真に言うと、授業を再開した。
周りからはクスクスと笑いがもれていた。
まさかの跳弾だと・・・!
ただ、俺が避けなければ成功しなかったであろう跳弾。
真にはすまないが俺が痛い目にあうよりは避けて正解だったと感じていた。
「では、ここの和訳を・・・古郷君」
「・・・え?」
真を哀れに見ていた俺は一瞬自分が当てられたことに気付かなかった。
「何座っているのですか?早く前で解いてください」
「え~と・・・わかりません」
「わかりませんではありません。早く前に来なさい」
「・・・」
渋々俺は黒板まで行く。
流に分かるか聞いたが首を横に振るのみだった。
「どこがわからないのですか?」
「え~と・・・全部です」
俺がそう答え、咲夜はため息をした後、詩音に答えるように指示した。
「貴方は神城さんが解くまでここに居なさい」
俺は詩音が訳を書くまで立ったまま見ていた。
その光景を霊夢たちがクスクス笑いながら見ていた。
「よろしい、正解です神城さん。古郷君も戻りなさい」
「・・・はい」
俺は自分の席に戻った。
「あはは!なかなか見ものだったぜ!」
授業が終わり、俺が疲れから机にうつ伏せの状態になっていると、魔理沙の声が聞こえてきた。
「見事に晒し者だったわね。アンタたち」
霊夢も笑い声も聞こえる。
「てか、あの鉄壁でどうやってチョーク当てたんだよ・・・。霊夢と魔理沙見てないのか?」
真が答える中、俺は机に伏せた状態だった。
「岳、もっと勉強しなきゃ」
その声に俺は顔を上げた。
顔を上げると、霊夢の横に居た詩音が呆れながらこちらを見ていた。
「・・・あの後何度も当てられると思わないだろ?それに俺は詩音ほど頭良くないって」
1度当てられてから授業が終わる間、問題が出るたびに俺を当てた咲夜。
当てられるたびに俺は答えられず、その度に詩音や映姫が解く形になっていた。
「問題が出るたびに当てられるのなんか紫先生だけで充分だよ」
古典の担当教師である紫も問題が出るたびに俺を当てる。
その時がどのような感じかと言うと・・・
『は〜い、この問題を岳解いてね〜』
『こことここの解説を・・・あ、もう良いわね、岳〜全部やって〜』
『ねぇ、岳、この授業中黒板の前にいる?どうせ当てられるのわかってるから良いんじゃない?』
と、まぁ、こんな感じだ。
1番嫌いな授業である!
1番苦手な教師は永琳だが授業中では特に危害がないため、間違いなく古典が嫌いな授業であろう。
紫の場合は間違いなく俺を弄りたいがために当てていると感じられるのだが、まさか咲夜にも同じことをされるとは思わなかった。
「勉強も大事って事だな。俺や岳は特にだ」
「はぁ・・・」
流の言葉に俺はため息をしながら何気なくブレザーのポケットに手を突っ込んだ。
「ん?」
手が何かに触れた。
俺はそれを取り出す。
どうやらそれは4つ折りにされた紙のようだった。