スポーツテストで追いかけっこです5
てゐは近くの机から消しゴムやペンなどを取ると俺に向かって投げてきた。
「っ!?」
俺は思わず顔を守った。
「あらっ・・・」
俺に当たった消しゴムやペンがその場に落ちていく中、1つの消しゴムが、近くの席に座っていた衣玖の胸に当たり、弾き返された。
「あぁぁぁあ!!」
俺を含む殆どの生徒がその光景を見ていなかったが、唯一その光景を見ていた天子が大きな声をあげた。
「このウサギ!先輩になんてことするんですか!」
早苗はてゐを捕まえようとしたが、てゐは素早く身体を翻し、窓から出て行った。
「くそっ・・・!」
俺は急いで1年生の教室を出ようとしたが、誰かに腕を掴まれた。
「ちょっと下僕!あの中等部は誰よ!」
天子が不機嫌そうに俺に尋ねる。
掴んでいる力が強い、何も説明せずに振り切ることは難しそうだ。
「あいつはてゐ、スポーツテストで問題を起こした犯人だよ。俺は今アイツを追っている最中と言う訳だ」
俺は天子に今の状況を説明した。
「なるほどね、私も手伝ってあげるわ!」
「本当か!?・・・でも、今自習中だろ?」
「アイツは私を怒らせた・・・!」
「そ、そうか。なら、頼む」
何故天子がここまで怒っているのかわからないが、手伝ってくれるならありがたい。
女が手伝ってくれると、男では入れない所に入られても追うことが出来る。
「先輩!私も手伝いますよ!」
早苗も手伝ってくれるようだ。
「大変なようだな。私も手伝うよ」
妹紅も手伝ってくれるようだ。
「早苗、妹紅・・・ありがたい!アイツ、リストバントをしていないから本当に素早くてな!」
「早いウサギには弾幕ですよ!先輩!」
「いや、弾幕は禁止だからな?」
「なんか面白そうだなぁ。僕も手伝おうかなぁ・・・」
席に座りながら呟く茶髪の少年。
しかし、その姿はどう見ても少女に見えた。
女装をしている少年こと彼方の近くに座っていた別の少年がため息をはく。
「・・・やめとけ。面倒事が増えるだけだぞ」
彼方にそう言うのは黒髪の少年だった。
黒髪の少年こと悠人は自習中何もしていなかった彼方と違い、自習をしていた。
「え~、でもせっかくあの先輩に接触できるんだけどなぁ~」
「俺はしない」
「・・・仕方ないか。今日は諦めよう。また次回にお預けとしておこうっと」
「古郷先輩、今は自習中なんですから1年生を巻き込まないでください。・・・私もお手伝いしますが」
こちらに来たのは白のボブカットにリボンのカチューシャ付けた少女、魂魄 妖夢だった。
半人半霊の為か、彼女のそばにいる半霊がフヨフヨ浮いている。
妖夢は剣道部にいる後輩であるが、幼い頃に祖父から真剣を教わっていたからなのか実力はかなりのものだ。
その実力は俺や流でも剣道で負けてしまうほど。
「助かる!とりあえず別れて探そう。見つけたら各自で捕まえて良いから」
俺に4人は頷くと教室を出た。
「おい、岳!何してるんだ!」
てゐを探して下駄箱の付近に来た俺はその声に立ち止まる。
声を掛けてきたのは流だった。
「流!ちょうど良かった。この辺りにウサギ耳の少女が来てなかったか?」
「い、いや。来てないが」
「わかった。ありがとう!」
俺はてゐを探すために移動しようとしたが、流に止められた。
「おい!?ちょっと待て!なんで岳がここにいるんだよ!」
「それはな・・・」
俺は流にスポーツテストの最中で起こった問題について説明した。
「なるほど、岳はその犯人を追ってたわけか。それは止めてすまなかったな」
「良いよ。気にするな」
「ウサギ耳の少女だな。見つけたら俺の方でも捕まえてみよう」
「あぁ、よろしく頼む」
俺は流と別れると、職員室がある校舎内を探した。
「どこにいるんだ・・・」
てゐの姿が見つからず、俺は窓からてゐの姿を探す。
「・・・見つけた!」
てゐは渡り廊下を走っていた。
俺はすぐに後を追う。
てゐは高等部校舎の1階に居た。
「てゐ!もう鬼ごっこは終わりだ!」
てゐは振り返る。
しかし、顔は笑っていた。
「流石先輩ね。そのしつこさはもはや執念を感じるわ。でも、ここがどこだかわかるかしら?」
「どこって高等部校舎の1階・・・はっ・・・!」
まさか・・・てゐの奥にある一室は・・・!
「気づいたかしら?ここは実験室ウサよ。永琳先生の」
八意 永琳の実験室・・・
俺にとって最も怖い所。
「初めからここに来ていたら良かったウサね。それじゃあ先輩、ご苦労様〜!」
てゐは実験室の中に入っていった。
「・・・」
俺はその場から動くことが出来なかった。
ここで天子たちが来てくれたら彼女たちに頼むことが出来るのだが来る気配がなかった。
「く・・・」
どうする・・・行くべきか・・・
真なら行くだろうか・・・
「・・・よし!」
俺は意を決して実験室へと進んだ。
1歩、2歩、3歩・・・
他の生徒から見るとたわいのない歩みだが、俺からすると、これは地獄へ1歩ずつ進んでいるようなものであった。
1歩ずつ前へ進み、そして、ついに手が戸に触れることが出来る距離まで近付いた。
「すぅ~はぁ~・・・よし!」
俺は深呼吸すると戸を開けた。
開いた先は6人がけのテーブルが6つある所だった。
教卓も長いテーブルになっており、そこに女性が座っていた。
科学の担当教師こと、八意 永琳である。
相変わらず上の服とスカートで左右逆の赤と青の2色に分かれている特殊な服を着ている永琳。
他の教師がスポーツテストの手伝いをしている中、永琳は実験をしていたのだろうか。
「あら、どうしたの?今はスポーツテストの手伝い中じゃないのかしら?」
永琳が俺に話しかける。
「は、はい。そうですね・・・でも、ちょっとその際に起こった問題の犯人を追っていまして・・・」
「それって、この娘かしら?」
そう言って永琳はてゐを見せた。
てゐは永琳に襟を掴まれて身動きが取れないようだった。
いや、よく見ると身動きが取れないのではなく伸びているようだ。
永琳が何かをしたのだろうか。
「さっき先生たちから連絡が来てね、てゐが来たら捕まえて欲しいってことだったから捕まえた訳なんだけど・・・」
「はい!そうです!捕まえてくれてありがとうございます!」
「そう、良かったわ」
永琳は微笑むと、掴んでいたてゐを離し、教卓から降りて俺の所に来ると、腕を掴んだ。
「・・・え?」
「先生たちからの連絡はまだあってね。捕まえて欲しい生徒の中に君の名前もあったわけなのよ」
「え?なんで・・・?」
「さぁ、知らないわ。でも、ちょうど良かったわ。貴方たちが来たら私が捕まえてお説教しておきますって伝えたことだし・・・」
永琳はニッコリしながら俺に問いかける。
「ちょっと試したい薬があったの。また実験させてくれる?古郷君?」
「あっ・・・あ」
「違います!離してくださ~い・・・」
「ウサギ耳の少女は君しかいないだろ!大人しくするんだ!」
「もぅ~!てゐぃぃぃい!!」
俺が永琳の実験を受けている頃、流に掴まれていた鈴仙が叫び声をあげた。
「「・・・」」
スポーツテストが終わり、皆が下校した後の教室で俺と真は心ここに在らずの状態で座っていた。
俺は間違いなく実験の影響だろう。
何をされたかを覚えていないのが幸か不幸かわからない状態だった。
覚えているのは実験室から出た直後、永琳がまたよろしくねと手を振っていたことだ。
てゐはまだ残されていたので現在も永琳の実験台になっているのだろう。
真はおそらくだが、保健室で何か起こったのだろうと感じる。
「おい、真・・・」
お互い黙っているのもいけないと思った俺は真に話しかけた。
「・・・なんだ?」
「保健室で何かあったのか?」
「・・・あぁ。俺・・・新しいトビラを開いたかもしれない!」
真は急に立ち上がると、俺の肩を掴んだ。
「なぁ!幽々子先生最高だよな!」
真は興奮したように叫ぶ。
「なんだかのほほんとしている雰囲気はあったけど、それを含めて最高の癒しじゃねぇか!」
「・・・」
「あぁ!本当に最高だぜ!BBAと天と地ほどの差じゃねぇか!」
俺が実験室で酷い目に遭っていた間、この野郎は何をしていたのだろう・・・
「なぁ、岳!今から俺と保健室行かないガハッ!」
俺は無言で立ち上がり、おもいっきり真の鳩尾に一発入れると、鞄を持って教室を出た。
家に向かっている中、俺の脳裏に微笑みながら手を振っていた永琳の姿が浮かんできた。
「永琳先生怖い永琳先生怖い永琳先生怖い・・・」
呪詛のように呟きながら俺は家に帰った。




