あたしはフラグを蹴り飛ばす予定-3
すると絵鞠ちゃんが唐突にも、あたしにこんな質問を投げかけてきた。
『エリカさん、もしかして何方かお会いしたい方がいらっしゃるの?』
「え……えぇ。でもあたしの会いたい人は一人じゃないから、捜せないかもしれないわ」
それも、この場所では見つからない。
『……?』
「なんでもないわ。入りましょう!」
それでもあたしは今度こそ、と一つ一つの顔を見た。時間も忘れてしまうくらい、ゆっくり、じっくりと。
誰に一番会いたいと思ったのか、自分でも正直よくわからなかった。
それは、まだ喧嘩したままの親なのか。
もう自然消滅しているような恋人なのか。
愚痴を言い合える同期なのか。はたまた―――
あっ!この観音像あたしに似てるかも。むぷ。
『―――エリカ~、どうなさったの?あらま!この観音様ブサイクね。フフッ』
「……。」
凜子ちゃんに明るい未来が待っていますように。アーメン。あ、場所的にアーメンは駄目か。……
『一通り回れましたわね。…あれ、絵鞠は?』
「え?」
さっきまで一緒だった絵鞠ちゃんの姿が見えない。
『お手洗いかしら。入口で待ってましょう』
「ええ。そうね」
そのうち戻って来るだろうから、お土産屋でも覗くことにした。
「…いや、待って!」
『?』
一瞬の、何か嫌な予感があたしの歩みを止めた。
そして次の瞬間、あたしの脳内に―――ある記憶が流れ込んだ。
「あ……凛子ちゃんごめん、あたし捜して来るッ!」
『えっ!?エリカ―――…』
この記憶が正しければ、絵鞠ちゃんは―――ガラの悪い輩に絡まれるエピソードが、ひっそりと起こっていることになる。
エリカの記憶では「ガラの悪い輩に絡まれた絵鞠ちゃんを誰かが助けてくれた」らしい。
が、「誰か」というのも記憶として流れてこないから誰だかわからないし、もう運命は変わっちゃっているかもしれない。
後者の点では、証拠に父の出張先がロスじゃなくてロンドンだったという出来事が既に決定づけている。
もしかしたら絵鞠ちゃんを助けてくれる「誰か」が来なかったらと思うと、いてもたってもいられなかった。
「いた……!」
そこには絵鞠ちゃんを取り囲む、金髪オールバック、茶髪の見るからにヤンキーと、ゴマ塩坊主。ゴマ塩坊主!?
最後はともかく、如何にもガラの悪い三人衆はきっと高校生くらいと見た。
絵鞠ちゃん一人に向かって、『君可愛いね~。高校生だよね?』とかなんとか声をかけている姿と、
怯えながら、『ち…違いますわ』と答える絵鞠ちゃんの姿が目に留まる。
……来るかもわからない誰かを待つより、よっぽどマシ。
英エリカ(わたし)は今日から、宮間瑛梨沙になるのだから。
「―――絵鞠ちゃんッ!!」
絵鞠ちゃんと三人衆は一斉に、声が聞こえた方―――あたしの方を向いた。
『エ、リ…カさ…』
だって、こんなに怯えているじゃない。
あたしは素早く絵鞠ちゃんの方へ駆け寄り、絵鞠ちゃんを庇うように前に立って、三人衆の真ん中にいる金髪を睨んだ。
『何だ、テメェ』
「……アンタらこそ何様のつもり?」
茶髪があたしを睨んだ。
『俺達、この可愛子ちゃんを誘ってるの。おブスちゃんは下がってましょうね~』
「……あら、ブスって自分のこと?素敵なゴマ塩頭だこと。」
『あ…あぁん!?』
ゴマ塩にはアイロニカル攻撃。
残念ながらコイツは頭のせいで威圧感的なものが全く無いわ。
『ブハッ!あんた、女だからって容赦すると思った?痛い目合いたくなかったらさ―――』
「……っ!」
―――刹那、金髪が拳を振り翳した。
その場には青ざめて小さく悲鳴を上げる絵鞠ちゃん、呆然とした茶髪、焦るゴマ塩がいた。
そして、金髪のバキ…ッ!という鈍い拳の音と。
カチャンッ!というエリカのメガネが地面に落ちた音だけが耳を掠めてから、静寂が流れた―――。
.
エリカが瑛梨沙になってゆく…(笑)




