【Side-Erica-】-5
『ごめん。お待たせ。紅茶でいいかな?あと、早速なんだけど…これ。エリカに』
……前言撤回!
この王子がラスボスなわけない。
ってか万が一彼が怪しいとしても、本来の物語から見たらラスボスは敵だが、あたしは英エリカなのだ。
つまりエリカサイドから見ればあたしって、どちらかというとラスボス側じゃ……?
生徒会VS悪役集団(ラスボス、エリカも含む)。こんな感じで。
まあ、どちらにせよ油断は禁物。逆を返せば全員敵になるんだったわ。
『エリカが好きそうな物が沢山あったよ。ふふっ、絞れなくて全部買っちゃった』
とりあえず考え事は保留にして、あたしは彼の方を見た。
持って来てくれたお土産は、或君が言っていたキャラメル・ショコラーデを始めとした食品から乙女心くすぐるクマのぬいぐるみ、そして綺麗な箱に入ったアクセサリーまで揃っていた。
「これ全部私に!?悪いわ!」
『エリカが受け取ってくれないと意味が無いんだから。ね、後ろ向いて?』
「え、ええ…」
促されて後ろを向く。
首筋のひんやりと冷たい感覚とともに、シャランッと金属の流れる音が耳を掠めた。
『エリカ…その香り〝パピヨン・フェルメール〟のオーガニックシャンプー?』
「へっ!?」
唐突な問いかけに少し驚く。
―――思い出される宮間青春時代。
その昔、同級生に日野 叶という無駄にチャラい男がいた。
彼は言った。
『おっ!宮間チャン、その香水ってもしかして〝ラビリンス9〟の新作?』
香水のメーカーを当てる名人なのか、鼻がとてもよかったのか。とにかく女の子にはモテた。
だが日野にとって、そんなことは朝飯前だったのだ。―――なぜなら後にコイツ、巷で有名なNo.1ホストになったからだ。
話は戻るけど、まさか或君はアレと同属とは思えない。思いたくない。百歩譲って余程鼻が良いだけだと思いたい。
「よくわかっ…」
……いや、待って。
もしかしたら或君、前から知っていたのかも。むしろその方が違和感無いわよね。
『それに、会わない間に髪切ったんだね。うーんと……あの日と比べて、3cmと2mmくらい短い?』
み、み、ミリメートルぅぅぅ!?!?
…………なんだろうか。もう挽回できないレベルの違和感を感じる。気のせいにしていいものなの?これは。
それでもあたしはガン無視して、自分の首許に視線を落とした。
或君があたしに着けてくれたのは、青い花の絵が描かれたペンダントだった。
『それね、ドイツの国花なんだ。日本名は〝ヤグルマギク〟。花言葉は繊細、優美、それから―――』
そこまで背中越しに聞いていたが、なかなか続きが聞こえてこない。
あたしは反射的に振り向いた。
『本当に…よかった』
「?」
不意に聞こえた言葉が意外なもので、あたしはハッ!と意表を突かれる。
憂いを帯びたエメラルドグリーンの瞳が揺れた。それだけでザワついた心の内を、顔に出さないようにすることで精一杯だ。
『本当は今日、また前みたいにエリカに避けられるんじゃないか…って。心配だったんだ』
な……
な、なんだってぇぇぇぇえ!?
待ってよ。英エリカが或君を避けていたって一体全体、何があってそうなったのよ!!
『あの日…僕がドイツへ発った日、急にエリカに告白しようとしたこと。それが原因だったのはわかってたんだ』
「或君…。」
『……それでも、どうしても言いたかった。〝婚約者だから〟って当たり前にしたくなかった。ちゃんと、君に自分の気持ちを伝えたくて』
そんなことがあったんだ。
引っ込み思案な英エリカのことだ。きっと、恥ずかしくて逃げちゃったんじゃないかな。
こんなキラキラ王子に真正面から愛の告白なんかされたら、誰だって緊張で呼吸すらできなくなりそうだもん。
『どうか、もう一度改めて告白させて欲しい。』
「……わかったわ」
エリカには悪いが、あたしにとって既にエリカと彼のことは人事じゃなくなってしまったから、今は聞き入れる他無い。
ここで断ったことで一度破談にしてしまえば、エリカの性格から、覆水盆に返らないと思うから。
あたしは体ごと或君に向き直った。今日は少しでも様になる格好で来てよかったかも。
―――すると、ふわっと目を細めて、或君はあたしの両手を取り。
『エリカ…』
包み込んだあたしの両手をそのまま自分の唇へと運び、チュッ…と慈しむように指先に落とされる口づけ。今更ながら感じる、唇から伝わる体温とかにドキマギしている自分がいた。
(はぅわ……やべぇ萌え死んで召されるっ!おぬしは王子兼天使かッ!!)
そんなことを思っていたら、
『いつだって君だけが僕の心を救ってくれる天使―――…いや、女神なんだ』
彼にとってはエリカが天使だったんだ。
それなのに帝零司になんか時間費やして、この子ってば勿体無いなぁ。既にLOVE&PEACEしてたんじゃない。くそぅ。
.




