Ⅲ-3
「どうも、それで…御用件は?」
『ま、…まぁっ!』
撫子原が口元を押さえて大袈裟に仰け反る。
苦手なので茶番はよして下さいな、なんて言ったら面倒なことになりそうだ。
『貴女……お名前は?』
『撫子原様に失礼じゃない!』
『そうよそうy「英です」
あ、しまった。被っちゃった。
睨まないで!悪気はないのッ!
『単刀直入に聞きますわ。ズバリ貴女、親睦旅行のとき、陵様に無礼なことをしたんじゃない?』
……あ~、そういうことか。
アレを見られていたのね?だったら、こっちにだって言いたいことはある。
「無礼?人聞きが悪いわね。それよりも茉姫子さん、あなたこそアレを見ていたならもう少し行動に移せたんじゃない?」
『な……!』
撫子原は、顔を真っ赤にして口を噤んだ。
美人なのに勿体無い悪役顔が本領発揮で、迫力がすごくて、これもスチルにしたいかも。
『陵様のみならず、撫子原様への御無礼……許しませんわっ!』
『そうよそうよっ!』
取り巻き二人が、不意打ちにあたしのおさげを引っ張った。
「い、痛たたたたッ!ちょっと!」
女の子には手を上げない主義なんだってばッ!
抵抗してブッ飛ばしてしまったらと思うと、安易に動けない。
ギャーギャー暴れているうちに、ガチャン!と音を立てて、デジャヴを思わせるかのようにメガネが落ちた。
「あ~~っ!スペアがぁ~!」
『煩いわっ!おとなしくしてなさい!』
『そうよそうよ!』―――グチャッ!バリッ
「ぎゃぁぁぁぁ今踏んだわね!?!?」
こればかりは許さない。
値段いくらすると思ってるのか。ナメとんのか?と、もう少しで堪忍袋の緒が切れる寸前で撫子原が、
『ミサキ、アヤコ。そこまでよ』
『で、でも!』
『茉姫子様…』
引っ張られていたおさげが解放される。
散々やって今更そこまではないだろうが……。
三人があたしから離れ、あたしはすぐさま木っ端微塵になったメガネを拾っていた。
が、それも束の間。
『―――貴方はそこで反省していなさい!』
しゃがんでいるあたしの背後、遠くから撫子原の声が聞こえた。
「え?」と振り返るとほぼ同時に、ガッ…シャン!!と大きな音を立てて倉庫の扉が―――閉まった。
(う、う、)
「う~そ~で~しょ~~!?」
当然の如く、あたしの叫びは誰にも届くことがなかった。……
――――
―――――
「携帯忘れた…」
嫌な予感は見事に的中。完全に油断していた。
言い訳をすると、メガネが壊れてから折角スペアに代えたというのに、それまで壊れたというのがあまりにもショックで油断した。
こりゃ、当分コンタクトだ。
(それより問題は……)
視界は微妙にボヤけ、目を細めれば辛うじて認識できる程度の視力。
閉まった扉は力づくでも開く気配がなく、人一人分サイズの窓が一箇所あるが、ここから降りたら間違いなく運が良くて骨折、悪くて死…
って、こんな所で死んだら滑稽過ぎてシャレにならない!
……諦めて別の方法を探そう。
「にしても、体育倉庫ってもっとこう…ロマンが溢れている場所だと勘違いしていたわ」
唇を尖らせて独り言を零してみた。虚しい。……じゃなくて。
たとえ物語の中でも「二人きりで体育倉庫に閉じ込められて(はぁと)」なんて、ときめきシチュエーションはメインキャラにしか起こらない。それはわかりきったこと。
要は、基本モブにはカメラが回っていないから、何が起ころうと物語ではどうでもいいということなのだ。
まあ、よくよく考えたら寄り道などしない真面目なエリカのことだ。
夜になればきっと母が心配して異変に気づくだろう。
見つけてくれるかどうかは別として。
さもなくば体育の授業で使うから、明日には―――
ハッ!大変。
今、とても恐ろしいことに気づいてしまった。
「……夏休み前の平常授業、今日で終わりだった」
も、ものすごく不運!ツイていない。
しかも授業のみならず当分は部活動も無いので、この倉庫に人が来るのかすら危うい。
なんとか今日最後の授業で来てくれる人はいないだろうか。
―――そんな切なる願いも虚しく時間は過ぎてゆくばかりで、気づいた頃には。
「ふぇ…くしょんッ!フガッΣ!」
(や、やだ。寝ちゃった!)
誰かが来た形跡もなく、いつの間にか辺りは真っ暗で。
あたしは慌てて、幸い身に着けていた腕時計を確認した。
(20時!?)
とっくに完全下校時刻を過ぎている。
これじゃあ、やはり朝までコース真っしぐらだ。
「はぁ」と小さく溜め息を吐いて立ち上がり、窓の外へ目を向けると―――
「あ、明かり…?」
丁度向かい側の校舎にある窓から、カーテン越しに明かりが見えたのだ。
一つの希望が芽生える。
もしかしたら向かいの教室に、まだ人が居るのでは?
これ以上何もしないで待つより少しでも行動したい派なので、あたしは倉庫内に何か使えそうな物は無いか、探すことにした―――。
.




