15:敵前逃亡、だがしかし
風のように屋敷へ入り、使用人たちを驚かせたシャルロットは、そのままの勢いで自室の扉にかじりついた。
「はぁ、はぁ……っ、も、もういやだぁっっ」
恥ずかしい! 恥ずかしすぎるわ!!! もうこのあたりを出歩けない!!!
何とか扉をこじ開けて、ベッドにもぐりこんだ。
しばらく誰とも会いたくない!!!
もう忘れた!! 何にもなかった!!! 覚えてない!!!
「……」
残念ながら、脳みそにこびりついてしまったみたいだわ。さっきから延々と先ほどの痴態? が脳内でリピートされている。
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
悶えまくっていた私は気付いてなかった。静かに扉をノックする音、私の名を呼ぶ声、扉をあける音、こっそりとベッドへ近づく足音に!!!!
「ぐえっ」
「……もう猫はかぶらないのですか?」
布団の上からのしかかる重さに思わずつぶれたカエルのような声が漏れた。耳元でクスリと笑う吐息の音が聞こえて、そのまま猫を被らないのか、と。
……。
「えっ!? な、何の事でしょう!!?」
ガバッと起き上がると、私の上にのしかかっていたニコラウスはあっさりとベッドを下りて、ぐしゃぐしゃの頭で呆然と見上げる私を優しい眼をして見つめている。
「いつもわたくし、と言っている貴女が、わたし、と自身を言っていましたね」
「……そ、そうでしたかしら!?」
「貴女はそんな動揺を表には出さない方だったでしょう? 少なくとも私の前では」
ニコラウスは一度降りたベッドに腰掛け、私の腰を引き寄せた。
そのまま私を抱き寄せて、頭に顎を乗せる。その仕草にいつにないほどの親密さと、甘さを感じて知らずに身体が震えた。
それをどうとらえたのか、ニコラウスの腕の力がより強まって、ギュッとさらに抱きしめられた。
「結婚してから、まだ日は浅い。十分に新婚と言える時期でしょう?」
た、確かにそうなんですが……。展開が速すぎてホントについていけないわ。
そもそも、私たちはお互いに恋愛感情なんて持ってなかった。そうよね? そのはずだわ!! ニコラウスに全然会えなかったりとか、手紙の中味がそっけなさ過ぎたりとか! そりゃもう色々と不満はあるけど、恋愛とは関係ない! はず……よね?
「ほとんど一緒に過ごしてはいませんが、貴女は少しずつ変わった。当初の、私を一切近づけないような頑なな態度から、段々と柔らかく。」
「……それは、そうですわ。だって、これから一生を共に歩んでいくのですもの」
「そうですね。私もまた、気持ちの変化があったのです」
ゆっくりと私の髪を撫でる。その仕草に、泣きたくなるような何とも言えない気持ちがわいて、胸を締め付ける。
「私は、知っていましたよ」
「何をですか?」
「貴女のお父上が、貴女の祖国が必死で隠してきたであろうもの」
ちょっと待て。少し待っていただけます? なんか、話の雲行きが怪しくありませんか??
「貴女の出生の秘密、グレンツィアの穢れと呼ばれている事」
っっぎゃぁぁぁぁ!!!!!
はい、ばれてないと思ってましたがすでに知られていました。
最後の絶叫はもちろんシャルロットです。猫なんてとっくに逃げ出してます。もう取り繕う気力はそがれているでしょう 笑
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