14:反撃よりもガードで
もしかしたらPG-12くらいになってしまうかもしれない……
相当ひどい顔をしていたと思う。
エルヴィン様は幾度となく私の顔を見ては、笑いをこらえていたし。アンナなんて、ひどく同情というか、憐憫というか、何とも言えない感情を匂わせながら私を見ていたのよ。……やめて!! 私は傷ついてなんていないんだからっ!!! ……。たぶん。
行きは長く感じた距離も、ぼんやりとしているとあっという間。感情って偉大だわ。
私がぼんやりしている間に、エルヴィン様は御者が扉をあけるのすら待たずに颯爽と降りた。そして実にスマートに私の手を取り、下ろしてくれる。
くるり、と前を見たエルヴィン様は。
「……じゃぁ、ボクは帰るよ!」
颯爽と馬車に飛び乗り、文字通りとんぼ返り。
……なんで?
「えぇ、ここまでわざわざありがとうございました。そしてもう二度とこちらには来ていただかなくて大丈夫ですよ?」
ポン、と私の肩に誰かの手。
そのままグイ、と身体を後ろに引かれて。踏ん張りがきかなくてそのまま後ろに倒れそうになるのを腰へを回された腕に引き寄せられて、背中に温かな温度。
「……」
後ろを見れないんですけど。
先ほどの声で、私をとらえている人物が誰かはよぅく分かっているわよ。ええ。すごい勢いで遠ざかっていくエルヴィン様を乗せた馬車を見つめる視界の端で、アンナのうっとりとした表情。
そもそも。
「……な、ななっなんで貴方がこちらにっ!?」
「ずいぶんとつれない事を仰る。貴女の夫が連れ去られた奥さんを追いかけて仕事を投げ出したのに」
愛妻家な良い夫でしょう?
耳元で囁くように呟く。
やーめーてーっっ!! 城を出る前のあの冷たい感じはどこへ行ったの!? ってゆうか、追いかけてそのまま追い越して待ち伏せされてるわっ何なのこの状況っ!!
「ぉ、おおおっおし、お仕事はよろしかったのですかっっ!!?」
「あぁ、エルヴィン様が私を足止めしようと残した仕事なんて。……後で本人にやらせれば良いだけですよ」
……。いいのか? いや、いいわけがない。良いわけがないんだけど、相手がエルヴィン様だとなんか良い気がしてきてしまう。
「お帰りなさい、奥さん。先にここに着いてから、貴女が乗る馬車が見えるのをずっと待ってた」
「ただいまかえ……」
帰りました、と続けようとして、ふと思い立って言葉を止めた。
背を向けたままだったニコラウスに向き直ると、彼は不思議そうな顔をして私と見ている。
城での冷たい態度といい、今の甘ったるい態度といい、展開が急すぎて私はニコラウスに翻弄されっぱなしだわ。少しくらい、私が反撃しても許される。ねぇ、そうでしょう?
「只今帰りましたわ」
小さく呟いて、触れるだけのキスをしようと思ったのだけど。
相手がそれを想定してないから、届かない。えぇ、しっかりとした身長差のおかげで。でも、相手に気付かれてしまったら恥ずかしすぎて、こんな大胆な事出来ない。
というわけで、キスをしようと背伸びをしたまま届いた場所に唇を落とした。
「……ニコラウス様……」
ものすごく近づいた首筋、ごくり、と音がしそうに喉が動いて。チラリと上目づかいで顔を見れば。
「……」
「……」
びっくりした顔がかぁ、と紅く染まり、ゆるゆると目を細めて私を見つめ返す。それに引きずられて私まで顔が紅くなり……。
……。ちょっと待て。ここはどこだっけ。とりあえず屋外。外だ。屋敷の門すらくぐってない。そして私はどこにキスをした。喉仏の少し下。……唇に触れるよりも、ちょ、と……。
そこまで考えて、頭から火が出そうになる。
がばっと下を向いたのに、グイと顔をあげられて。
「っぅんっ」
食べられるっ!! ってゆうか、殺されるっ! 息出来ないっ!!
すっごいキスをされてくらくらしている間に、ニコラウスの顔が離れて、そのまま首筋に降りてきた。
舐めるように唇が動き、ちゅ、と音をさせながら徐々に鎖骨の方へと降りていく。
そのまま肌を吸われた時に――――……
「ぐえっ」
私はヒールで思いっきりニコラウスのつま先をそれはもう渾身の力で踏みつけた。
「わっわた、ワタシ、わたし……」
もういやぁぁぁぁぁ!!!
あまりの恥ずかしさに絶叫しながら屋敷の中へ飛び込んだ。
悶絶しながらうずくまるニコラウスに盛大なエコーを残して。
「……先に仕掛けたのはあなたでしょう、シャルロット……」
邪な欲求や先ほどの攻撃の痛みを引きずったような声の呟きはとりあえず私の耳には届かなかった。
反撃、するんじゃなかったかもしれない……。
長らくお待たせしました……。
そして展開が急すぎてわたくしもびっくり。
でもニコラウスが動き出してくれたので、そろそろ終盤へ向かいそうです。




