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13:様子見の一撃で瀕死



 初めて自分の感情を自覚したらしいニコラウスが悶々としていた頃。

 そんな事を知りもしない私はものすごい勢いで用意されている客室に戻り、これまたものすごい勢いで帰り支度を始めた。

 部屋の中を掃除していたらしいアンナが呆気にとられた様子で「ど、どうしちゃったんですか!?」とわめいているけれど、気にしないわ。

 さっさと屋敷に戻るわよ!!


「そんなすぐには無理ですよ! 馬車を手配しなくてはなりませんからっ」

「歩いてでも帰るわ!!」

「距離的に無理です!!」

「私に不可能なんてないのよ! 知らなかったのかしらアンナ?」


 鼻息荒く言ってやったわ。えぇ。アンナはというといつにない私の剣幕に完全に圧され気味ね。

 帰りの支度といっても、持ってきたものはさほど多くもない。

 さぁ、今すぐ帰りましょう!!

 引きとめようとするアンナを引きずって扉を開ければ。


「……」

「……」

「……っぶふ、っ……」


 扉の前で肩を震わせ、必死で笑いをこらえようとしてみごとに失敗した殿下がいらっしゃるのよ。腹立たしい事に。


「ねぇ、さすがに無理があるでしょ? 馬車なら出してあげるから。おとなしく乗って帰ってくださいな」


 君たちは招待客なんだからさ。

 いいえ、大丈夫です。

 ……って言ってやりたかったけど。残念ながら私も無理なのはわかってたわ。乗せてくれるんならありがたく乗せてもらいますとも。

 アンナが不安そうに私をうかがい、そして部屋に戻り、荷物を持ってきた。持てない事は無いけど、少し重たいそれ。二人で分ければ大した事のない重さの荷物。私が手を伸ばそうとするより先に、エルヴィン様がかっさらうかのようにアンナからひったくった。文字通り、ひったくったのよ。そしてさっさと歩きだす。ちょっと待ちなさいよ!

 可哀そうにアンナは、「ひゃっ!?」と小さく悲鳴を上げ、その後ぼそぼそと聞こえないくらい小さな声で謝り荷物を取ろうとしてる。エルヴィン様は笑いながらひょいひょいよける。

 あまり人気のなかった客室の廊下から段々と人が増えてくる。階段を下りて、下へ向かい、正面からではなく、裏の出入り口へ。

 そこに、夫であるニコラウスを置いて帰ろうとする、外聞の悪い私の行動を気遣ってくれる細やかさを感じ、いたたまれなくなる。……なるんだけど。

 二人のやり取りが目立ちすぎて。それはもう、困るくらい。廊下をすれ違う侍女や騎士や、その他諸々がそれはもうびっくりして、見なかった事に!!という風情で足早に去っていく。


「……あんまりいじめないであげて頂けます?」


 思わず間に入っちゃったわよ。


「面白かったから、つい」


 その言葉にアンナは半泣きで、私は呆れかえったわよ。エルヴィン様に至っては本当に面白かったらしく、すごい楽しそうね。

 軽々と抱えた荷物を持ち、ひょい、と裏口の扉をあける。すると、王宮の、基本的に立ちいる事の出来ない温室のそばにでる。厩舎はここから比較的近いところにあるらしい。

 そうして、用意された馬車へと向かう。


「エルヴィン様!!!」


 唐突に上から叫ぶような声が響いた。

 エルヴィン様はにやりと笑って、目線で私に上を見るように言う。そうして、自身も上を見る。

 4階のバルコニーから、身を乗り出すようにして立っているのはニコラウスだった。


「命令を忘れたの? ニコ、これは決定事項だよ?」

「……本当に私をいじめ倒したいんですね……」


 ニコラウスは悔しそうにエルヴィン様を睨んで、そうしてチラリと私を見た。けどすぐに視線をそらして、ふい、と室内へと入っていった。

 はい? 挨拶すらなしですか? そりゃぁ、ニコラウスを置いて帰ろうとはしたけど、さ。

 なんだろう、結構傷つきました。不覚にも涙が出そうになって、下をむく。


「馬鹿だなぁ、ニコは」


 ポン、と頭をなでられて、チラリと目線を上げれば、エルヴィン様が苦笑して私を見ていた。


「馬鹿だなぁ、キミも。旦那以外にそんな顔を見せるもんじゃないよ」


 あんまり気にしなくてもだいじょーぶだよ。

 そう言って、私たちを馬車へと促す。





 宣戦布告をしたのは私だけど。

 早くも瀕死なくらいのダメージを負ってしまったわ。

 私、大丈夫かしら?

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