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アイビーとリリィ 異母姉妹の運命は 悪役令嬢はだぁれ?  作者: 小埜我生


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8/8

悪役令嬢はだぁれ?

完結です!

それは気付かぬほど小さな事だった。

本来なら問題は無かった。けれどそれが一つ二つと増えていき。

波紋は重なり更に大きく不規則になっていった。

そして今目前に迫っている。


ナサリオ王太子殿下とリリィ王太子妃殿下の結婚式は多くの国から来賓を招き、それはそれは絢爛豪華なものだった。

百合の姫君と冠されるに相応しい美しいリリィ妃は見る者が息を呑むほどで白の布に金糸で百合の刺繍されたドレスは彼女を更に飾り立てた。


美男美女の王太子夫婦は仲睦まじく王都をパレードし、国民を魅了した。

一月近くも王都ではお祝いを兼ねた夜会が開催されるなど。

まさにお祭り騒ぎだった。


その翌年第二王子殿下の結婚式は参列者もほとんどおらずお互いの両親すら来なかった。

代理だらけの形だけの式。

それはそうだどちらの家でも冷遇されているのは周知の事実。


下手に関われば王家からも公爵家からも睨まれる。

そんな式にわざわざ参列したい者など変わり者か野次馬的な輩ばかり。


昨年の王太子夫婦と比べようもなかった。

臣籍降下するとはいえそれはとてもみすぼらしく貴族だけに収まらず市井にも噂されるほど。


「ふふ、お姉様って本当におかわいそう」

リリィは、私室のソファでお茶をしながら姉の結婚式の様子を侍女から報告されていた。

言葉とは裏腹に彼女はとても楽しそうだった。


(ナサリオ様がエヴァルド様をとても嫌っているから参加はしなかったけど、こんな事なら私だけでも参加してさしあげれば良かったわ。みすぼらしい式で主役すら美しい私に奪われたらさすがのお姉様もさぞ悲しんだでしょうに)


同じ王族との結婚と言えどかたや次期国王夫婦、かたや公爵夫婦。

肩書きこそ高位貴族だが彼らに味方がいないことは明らか。

その事実が彼女を喜ばせる。


リリィは、自分でも気付いていなかった。

異様な程姉であるアイビーを嫌っているということを。

両親が幼い頃から彼女を冷遇する姿を見ていただろうか。

それともどんなに冷遇されようとも気にも留めない姿が気に入らなかったのか。

それとも・・・・。



「くそっ!!どいつもこいつも」

ナサリオは執務室の自身の机の書類を怒りのまま払いのける。

侍従は落ちた書類を慌てて拾い集めた。


何故こんな事になっているかというと話は数時間前にもどる。

王太子として様々な公務も増え、今日も外交大臣と来月の隣国との貿易に関する話し合いの打ち合わせをしていた。


その折りの大臣からの進言。


「エヴァルド様とその奥方をこちらからの代表にしてはいかがでしょうか」


「・・・それは何故だ」

明らかに眉をひそめたが大臣がわざわざ言ってくるのは気になる。

不快はあれどナサリオは大臣に理由を尋ねた。


「彼の国の欲しているのはセヴィニエ家の品々だからです」


「・・・チッ、あれか」

そう、あいつがセヴィニエ家に婿入り後商会を立ち上げたそうだ。

王族が商売とは墜ちたものだと最初は笑っていた。

けれど商会の品は目新しく、貴族だけでなく平民にも浸透するほど。

国外にその評判が届くのもあっという間であった。


あまりの人気に品薄になればリリィにもお茶会で紹介して欲しいと頼む貴族が出てくる始末。リリィの実家なのだから本来は簡単なことであった。

しかしセヴィニエ公爵家の現当主は彼女の姉であるアイビー。

実は昨年、前当主であった彼女らの父親は脱税に手を出していたことが判明したのだ。

しかも長年に渡り犯していた。


本来なら裁判にかけ、廃爵のうえ死刑もあり得た。しかし、王太子妃の実家がそうなっては不味いと表向きは領地で療養するために爵位継承を行い。

実際は、秘密裏に王家へ返済の上、蟄居を命じた。

返済は現当主から恙無く。


つまり現在のセヴィニエ家への伝手は私達の異母姉弟のみ。

関係が良好とは口が裂けても言えない。


下手に脱税を盾に脅すわけにもいかなかった。

万が一公になってしまっては私に害が及びかねない。


商会だけならまだいい、最近では至る所でその名がでる。

慈善事業や芸術、研究など数多くに出資し結果を残している。

しかも表向きは目立たないようにわざわざ他家を通すなどして。

だから気付くのが遅れた。


支援していた研究が流行病の特効薬になっただの貧しい画家が大成しただの国の手が回らないスラムを職業斡旋で縮小しただの。

誰も彼もがセヴィニエ夫妻は、先見の目があると褒め称えた。


さらに王城の夜会で久しぶりに見た姿はかつてとは違った。

エヴァルドの身なりは整えられ、かつて髪で隠していたあの瞳は大衆の目にさらされ。

その視線を奪っていた。

そしてかつて妻のリリィと比べられ地味と馬鹿にされていた彼女はまるで繭から羽化した蝶のようであった。


「栄光あるナサリオ王太子殿下並びにリリィ王太子妃殿下に謁見いたします。セヴィリエ公爵家が当主アイビー並びに夫のエヴァルドにございます」

美しいカーテシーを披露し、あげられた顔はリリィのような派手さはないがまるで触れてはいけないような神々しい雰囲気をもっていた。

一方でシンプルなドレスに身を包み、上品ながら豊満で扇情的な身体。

その対比に会場の私を含めた男達の目は奪われていただろう。


隣に座る、リリィの咳払いで姿勢を正した。

王太子妃であるリリィは美しい。それは間違いない。

あの日美しいから選んだのだ。


けれど未だ妃教育は至らぬ点も多く、それも最初こそ可愛いと思っていたが何度言っても改善されず。

既婚にも関わらずまるで少女のようなドレスばかりを好み。

かつては百合の姫君とまで呼ばれていた彼女は今となっては『顔だけ姫』と影で冷笑されている。


「なんであいつが目立つのよ!」

夜会の後リリィは部屋で癇癪を起こし、物を投げたり、金切り声をあげていた。

使用人達がオロオロしていたが面倒だし関わりたくないと私はその場を離れた。

そんな事より頭の中にはアイビーの美しい姿だけが占めていた。


かつて彼女を選ばなかった事を悔やんでいた。

しかもよりにもよって忌々しいあいつの妻にしてしまうなんて。


「そうかそれならば」

今思えばこれが間違いだった。


秘密裏にアイビーだけを呼び出した。

これまで妹のリリィ含め家族に冷遇されよりにもよってあいつ(エヴァルド)の妻にされ。異国の血の混じる混血など王家の血があっても耐えられないだろう。

表には出さないがきっと孤独だろう。

だからこそ王太子である私が手を差し出せば喜んでくれるはず。

そう心から思っていた。


「お断り申し上げます」

結果は拒否だった。それも立場を考えてなどでなく拒絶にも近かった。

口元こそ微笑んでいたがその瞳は何よりも語っていた。


「何故だ、君は今まで冷遇されていたのに」


「・・・妹を、リリィを愛しているのです」


「は?」


「彼女だけが私の全てです」

目の前の私など目もくれず恍惚とした表情でアイビーはそう言った。




数年後ユスターニア王国でクーデターが起きた。

そしてそれは成功し新たな国王がその座についた。


「かつての名はエヴァルト、しかし我は本当の名を取り戻した。これよりこのユスターニア王国はこのスピネル・セヴィニエが統治する」

国民はその宣言に歓喜した。

かつて王家の汚点と言われた少年はそこにはいなかった。


贅に溺れ国民を無視した王家を廃し、優秀な妻のおかげで他国からの同盟も得た。

もう彼を貶める者は貴族にも教会にもいなかった。

紫の瞳を持つ王はその伝承通り国を栄えさせた。




「これで良かったのか」

スピネルは二人きりの部屋で妻であるアイビーに尋ねた。


「えぇ、貴方もやっと本当の名とお母様を取り戻せて。これからは何の憂いもないじゃないですか」

そう、エヴァルドは王家に入ったときにつけられた名前。

彼が母から貰った本当の名は『スピネル』。まさか再び彼自身名乗れるとは思っていなかった。


「王か・・・こんなものなるつもりはなかったんだが」


「ふふ、それはごめんなさいね。だってあの男じゃリリィを守れないんだもの」

あの男とはかつての王太子だろう。


「これからどうするつもりだ」


「もちろん王妃の役目は果たしますわ・・・彼女(リリィ)のために」


「・・・そうか」

スピネルは悶えるアイビーを見つめながらそれでもいいと思ってしまった。


誰もが勘違いしていたのだ。

アイビーとリリィは仲が悪いと。いや、正確に言えばリリィは嫌っていた。

アイビーの事は家族揃って冷遇していたし、結婚後も嫌がらせしていた。

幼い頃のわずかな期間を除き仲が良いときなど無かったのだ。

だからそれだけのことをされ続けたアイビーも嫌っていると思われていたのだ。


実際父親と義母の罪を暴いたのは彼女であったし、そこに肉親の情はなかった。

だから妹も表には出さずとも疎んでいると。


けれど実際は盲目的なほどリリィを愛していた。

家族の情など超えてもはや執着に近く。

後に語っていたが初めてリリィを目にした瞬間は忘れられないと。

愛というものが理解できず実母さえただ産んだ人としか思えなかったアイビーがリリィを見た瞬間世界が色づいたと思わせるほど。


彼女からもたらされるその全てが愛おしく。

嫌いと言われてもはたかれても。

ただ彼女を愛していた。


セヴィニエ家を栄えさせたのもリリィの為。

いずれ王妃になる彼女のために後ろ盾を強めたかった。

隠しているが王家を含めこの国の貴族は腐敗と汚職で衰退していた。

だから彼女が王妃になるまでに全て正してやろう、そう決心した。


順調だった。

けれどまさかリリィの夫であるナサリオがアイビーに手を出そうとするなんて。

リリィが気に入っていたからその一点だけでアイビーは王太子を認めていたのだ。

愛おしいリリィを裏切るなど許せない。

たったそれだけ。たったそれだけで一つの王家は消されたのだ。


王族は全て処刑された。

けれどリリィだけは王宮の奥に秘匿された。

最初はアイビーを逆賊と罵ったがそれすらも嬉しそうに微笑む彼女を見て徐々に恐怖に囚われていった。

リリィの側にはアイビーしかいなかった。

食事も掃除もその世話の全てをアイビーが行った。


「お願い、私を解放して」

泣きながら懇願するリリィをアイビーは優しく抱きしめた。


「大丈夫、お姉ちゃんがずっと一緒だからね。愛しているわリリィ」


ユスターニア王国はそれからも栄えていった。賢王スピネルと王妃アイビー。

その偉業は、後世に残っている。


「妻は愛する者の為ならどんなこともしてしまう。私もその姿を見習っただけだよ」

スピネルが残した言葉だ。

この言葉の本当の意味を知る者はもういない。

アイビーの花言葉 永遠の愛、死んでも離さない思い

リリィ(百合)の花言葉 無垢、無邪気

スピネル 石言葉 勝利、成功

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