俺と彼女 家族のカタチ
「君は悔しくないのか?」
「えぇ、全く」
愛することはないと宣言されたアイビーとエヴァルドの婚約だったがその関係はつつがなく続いていた。
妹のリリィ達の様な恋人らしい事などは皆無だが定期的にアイビーは城を訪れ二人でお茶をしていた。
とりとめのない会話だけでそれ以外の接触は一切されなかった。
アイビーのその様子に一番困惑していたのは他でもないエヴァルドであった。
彼らの婚約はリリィとナサリオが仕組んだものであった。
本来なら同じ家から王家の婚約者に据えるなど力が偏り過ぎるため認められない。
それが成されたのはやはり異国の血が関係していた。
いくら王族と言えど異国の血をひくものを受け入れる貴族は皆無だ。
しかも王太子に疎まれ、次代の王政で冷遇されると分かっている爆弾を受け入れたい訳がない。
そこで目を付けたのがアイビーだ。
リリィが王家に嫁ぐ以上セヴィニエ公爵家を継ぐのはアイビーになる。
しかし彼女は見た目の野暮ったさ、社交を疎かにしていたため今だ婚約者がいなかった。
父親が彼女より妹を可愛がっていたのも一つの理由だろう。
公爵家に婿として入れるならまだしも嫁に迎えるには難色を示されていた。
今回のリリィの婚約により婿入りを狙った者もいなくはなかったが王太子からの提案に口を挟めるはずもなかった。
もちろん彼らが2人の幸せを願ってこの婚約を仕組んだわけがない。
いずれ自身らが子を成したとき2人目以降に継がせる事を狙っていた。
仮に彼らに子が出来ようとも異国の血を理由に相続を奪うことも容易いだろう。
リリィがアイビーをナサリオがエヴァルドをそれぞれ疎ましく思った結果だった。
「君は奴らの目論見分かっているんだろう?」
それは何度目かのお茶会だった。
婚約者というよりお茶・・・友達?のような関係になっていた2人は最初より距離が近くなっていた。
そこに色気は全くないが。
「後継者の事?いいんじゃないでしょうか。貴方も子をもうけるつもりはなさそうですし。養子を探す手間が省けますわね」
まるで何事もないようにアイビーはあっさりと言ってしまう。
そして冒頭の言葉へとうつるのだ。
いくら元々貴族でないエヴァルドからしたって彼女への扱いはひどいものだった。
最初に愛さないと宣言した自身もひどい自覚はあったがそれは巻き込んで危険な目に遭わせたくないから。恋や愛なんてものは王家に引き取られてから感じたことすらないし、自分を疎んでいる者達の為に働く気もなかった。
王族も貴族もきらいだが彼女自身に恨みなどない。
むしろ自分を押しつけられ、家族からも孤立している姿になんとも言えない感情すら抱いていた。
「・・・エヴァルド殿下はお優しいのですね」
「嫌みか?」
「いえ、本心でございます。ですが私は本当に気にしていないのです」
「何故彼らにそんな風に優しくいれるんだ?」
「彼らというよりは妹であるリリィにですわ。あの子は大事な可愛い妹ですの」
彼女はそう言うと優しく微笑んだ。
きっと心から妹を慈しんでいるのだろう。
正直予想外だった。
婚約してから彼女を知ったが周囲から常に妹から比べられている。
それは家族からすらも。
確かに妹のリリィ嬢は美しい見た目をしているとは思う。
ナサリオがわざわざ自慢しに来るほどに。
だがアイビー嬢も決して不器量ではない。
分厚い丸眼鏡をしているから分かりにくいが隙間から見える琥珀の瞳は光が差すとキラキラとして美しいし、栗毛の相まって小動物的な愛らしさがあった。
それに下世話にはなるが豊満な肉体をしていると思う。
普段は分かりにくいドレスで隠している。
なぜその事実を知ったのかというとおそらくナサリオの嫌がらせで庭師から水をかけられた際に彼女を巻き込んでしまったのだ。
俺の上着で隠したが身体に張り付いたドレスは彼女の曲線を強調していた。
(優しく知的でかわいいよな・・・って何考えてんだ俺は!?)
俺は自室のベットで悶々としていた。
自身がアイビーに徐々に惹かれているのは分かっていた。
最初に愛すことなどないと言った手前隠しているがなんとも滑稽だ。
起き上がり鑑の前に立つ。
自身の肌、髪・・・そして瞳を見つめる。
「分かってるだろ呪われたお前が幸せを望んではいけない」
鏡越しに言い聞かせる。
実母と同じ肌と髪を恥じたことなどない。
けれどこの瞳は母を苦しめた王家のものだ。
俺さえいなければ母は今も王家の監視を受けながら生きなくて良かっただろう。
いやそもそも俺さえいなければ踊り子として暮らしていけただろう。
ターゼル経由で金は渡っているから苦しくない生活だろうが母の気質を思えば手放しで喜んでくれるとは思えない。
「彼女と俺を一緒にするんじゃない」
セヴィニエ家は異母姉妹だがアイビー嬢は妹を家族として大事に思っている。
それに比べて俺はどうだ。
いや、兄であるナサリオや王妃が俺を憎しむ気持ちは理解できる。
俺も彼らを家族となんて思えない。
父親である国王にいたっては憎しんですらいる。
全ての元凶のくせに罪悪感すら抱かぬ下郎。
同じ家族のカタチ。
けれどこんなに醜い心は彼女にはきっとない。
「バケモノが...」
彼女への好意が募るほど自分の醜さを恥じる気持ちとそれすらも受け入れてくれるんじゃないかという妄想が心の内を占めていく。
そう思うことすら烏滸がましいと理解している。
だから彼女の歪みを知ったとき俺は歓喜した。
彼女は崇める女神でなく俺と同じバケモノだ。




