第2王子の誕生
過去話はここで終わりです。
かくしてユスターニア王国に王太子と同い年の第二王子が誕生した。
誰からも祝福されず、憎まれた。
彼にとっての不運であり、幸運はやはりその瞳であった。
現王家のスキャンダルはただの金眼であれば間違いなく親子共々口封じされたであろう。
しかし紫の瞳を持って生まれた。
しかも件の医師が最初にそれを知らせたのは教会だった。
ユスターニアの国教であるメーラ教は王家に加護を与えたとされる女神メーラを信仰しており、女神と同じとされる紫の瞳こそ教会において最も尊ばれるものであった。
神の瞳の発現は教会としては吉事だ。
歴代の紫の瞳を持つ者達は全てに秀で、優秀な王となり国を栄えさせる。
それと同時に神の加護を持つ者は神の顕現とされ教会の力も強まる傾向にあった。
しかし数代にわたり持つ者は現れず、今代の唯一の王子であったナサリオ殿下にも金しか現れず。
さらなる国民の信仰離れが予想されていた。
そんな中、突然貧民街に紫の瞳があられたと報告がくるとは誰も予想していなかった。
報酬目的の医師の妄言かと疑った。
それはそうだ。王宮に仕えられる貴族の子女が王のつまみ食いで孕んだならまだしも貧民街などいくらアレな王でもあり得ないだろうと。
秘密裏に確認に行かせればそれは真実であった。
金に紫の瞳の少年。
年は、ナサリオ殿下と同じ程度にみえた。
報告を聞いた教会側は歓喜に震えた。
神の瞳をもつ者を王家より先に発見したのだ。
上手く事が運べば王家へ教会からの牽制となるだろう。
王家と教会は表向きは友好関係を築いていたがお互いが国政の舵取りを狙っていた。
紫の瞳を手の内にいれればそれがかなり優位に傾くはずだ。
しかし事はそう上手く運ばなかった。
神の瞳の少年は小麦の肌と銀髪を持ち、明らかな外の血を有していた。
純血こそと尊ばれる貴族にとってはとても受け入れられる存在ではない。
少年を王にするのは厳しい。
それでも彼の存在は間違いなく王家の弱みとなるだろう。
教皇は王へと秘密裏に少年の存在を知らせた。
最初はあり得ないと言った王だが騎士に眠らされたまま連れてこられた少年を見て息が止まる。
かつて妊婦の王妃の目を盗み、町へお忍びに行ったときに気の向くままに手折った美しい移民の踊り子。
少年にはその面影があった。
上品なものばかり喰い飽きた王にとっては異国の娘はとても魅力的だった。
妖艶な踊りをする割に初々しさ残る少女を穢すのは愉快で。
まさか王太子時代の火遊びが己の首を絞めるとも思いもせず。
苦虫を噛みつぶしたような顔の王に教皇はニヤリと嗤っていた。
母さんが泣いている。
貧しくても気の強い母さんが泣いている所なんて見たこと無い。
あれ?なんか若い?
いつもの母さんじゃ無い。
何故かとてつもない不安に襲われ母さんへ手をのばす。
「かあさんっ」
俺は母さんへ手をのばすと同時に目を覚ました。
「ここ..どこだ...?」
目を覚ますとそこは見覚えのない場所だった。
キラキラと光る装飾のされた家具や真っ白の壁や天井。
鮮やかな色の絨毯。
自分が寝ていたであろうベットも身体を包み込むように柔らかい。
見たことの無い世界だった。
そして何故かここは危険だとベットから飛び出した。
「お目覚めでございますか」
「誰だ!?」
部屋を見回した時にはいなかったはずの男が側に立っていた。
白い髭の老人。
「はじめまして、私は貴方の教育係に選ばれました。ターゼルと申します」
教育係?何を言ってるんだ。
訳も分からずとにかく逃げなければと俺は出口を探した。
窓は無い。ならばドアにと走った。
「どこへ行かれるのですか」
「なんで!?」
後ろにいるはずのターゼルと名乗った老人がドアと俺の間に立っていた。
追い越された感覚すら無い。
「ふむ、困惑は仕方ありませんがあちらでとにかく話を聞いていただけますか」
彼が手を指した先にはテーブルとソファがあった。
どうあっても逃げれない。
ならば今は従ってタイミングを見るしかない。
「わかった」
「ありがとうございます」
ソファに座るとその向かい側にターゼルが座った。
そしてそれから語られたのは俺の出生の真実だった。
「俺の...父親が..国...王....」
「はい、貴方様は国王の第二子です」
「母さんは?母さんはどうなったんだ」
「お母上はこちらで保護しております。しかしこれより貴方の母は南国の血を引く貴族の庶子で国王との逢瀬の後家が没落し、隠れて貴方を産み育て、最近病で亡くなったという事になります。その後孤児として教会が保護した際に瞳から王家の血を引くとわかったという流れになります」
「貴族?俺の母さんはただの平民だ」
「それだと貴方を王子と出来ないのです」
「そんなものなれるわけないだろう!?」
「ならねば貴方もお母上も殺されますよ」
「え?」
「本来なら国王の不始末として既に処分されていたのをその紫の瞳をもつという一点で教会が口を出してきました」
ターゼルはため息を漏らしながら俺の瞳を指さした。
「お母上を守りたければ従っていただくほかありません」
「・・・わかった」
その日俺の母さんは死んだ。
いや、正確には俺という存在が死んだのだ。
初めて会った父親というものはとても冷たく俺を迷惑そうに見るだけで。
『エヴァルド・フォン・ユスターニア第二王子』
それが俺の名となった。
異国の血を引く国王の庶子。
没落したが貴族の血と王家の血を引いているからと王家と教会が認めた。
しかしそれは表向き。
突然現れた俺を王妃は第一王子とともに虐げた。
周りもそれに従った。
国王はとくに興味ないのだろう。
教会も紫の瞳の俺が生きてさえいれば良いのだ。
ターゼルから様々な教育は受けた。
ただ指示の通りに黙々と勉強するしかない。
服も食事も住居もかつてに比べよう無いほどのものばかり。
けれどずっと一人だった。
それでも会うことすら出来ない母さんのためには死ぬことすらできない。
貧しくも幸せだったあの日々をいつしか思い出せなくなった。




