第138話 お金
「遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます」
「ああ、おめでとう」
最近外の世界で暮らし始めたケインが、屋敷に顔を出してくれた。
「よく来てくれました、ケイン」
「セレスティーナ様も相変わらずのようで何よりでございま……す?」
渚沙を抱きながら現れたセレスにケインは固まる。
「……隊長、セレスティーナ様が抱えているお子は一体……?」
「俺とセレスの子だ。名を渚沙という」
「い、以前お会いした時に妊娠されているご様子は見受けられなかったと思いますが、いやはや」
「ちょっと事情があってな」
渚沙が生まれた経緯を説明すると、ケインは興味深そうに頷いた。
「そのようなことが、向こうの学者に聞かせたら仰天しそうなお話ですね」
「たぶん信じないじゃないか?」
「確かにそうかもしれません。ともあれ、おめでとうございます」
恭しく頭を下げるケイン。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「あう!」
「初めまして、渚沙様。私はケイン・アルベルト。よろしくお願いしますね」
とても赤子に接するとは思えないほどに丁寧に自己紹介をするケイン。
なんだか懐かしい。アリシアの時もそうだったな。
あの時は隊の皆もいて、皆が自己紹介をしたがるものだから長丁場になって、アリシアが途中で寝たんだっけ。
「えん!」
「はい、そうです。ケインですよ」
ケインが指を近くに持っていくと、渚沙はそれをしっかりと握る。
「渚沙様はとても利発的でいらっしゃいますね」
「俺たちもたまに、返事をしてるんじゃないかって思う時があるよ」
「そうですね、渚沙」
「あう!」
「これから接する機会が増えるだろうから、よろしくな」
「はい、かしこまりました」
しばらくケインと触れ合っていると、渚沙は船を漕ぎ始める。
「渚沙〜、お布団で寝ましょうね〜」
セレスの手で渚沙は回収され、屋敷のリビングには男ふたりが残る。
「なんだか懐かしいですね」
「そうだな。アリシアの時以来か?」
「隊の皆は中々結婚しませんでしたからねぇ。そうなるかと」
アリシアが生まれた時はそれはもうお祭り騒ぎだった。
酒を樽で開け、それを一晩で空にした程。
あそこまでの馬鹿騒ぎは勘弁願いたいが、彼らに渚沙を紹介できないのは悔やまれる。
「そういえば、この世界にはお年玉なる文化があるのだとか。アリシア様と唯殿にお渡ししても?」
「もちろん。悪いな、気を使わせて」
「いえいえ、この世界では新参者だとはいえ、私は300年を生きる年長者ですから。若者に送るのは当然です。隊長たちのもお渡ししようかと思ったのですが……」
「俺たちはもう親だからな。大丈夫だよ」
「隊長ならそう言うと思っていました。それでは渡してきますね」
「ああ、ありがとう」
◇
「ケインさん!今日はどうしたの?」
「新年の挨拶をと思いまして、それとこれを」
そう言ってケインはポチ袋を差し出す。
「いいの?貰って」
「もちろんです」
「ありがとうございます!」
「それと、せっかくなのでこちらも渡そうかと」
「なんですか?」
ケインは皮の袋を唯に手渡す。
中を開けてみると、見たことのない硬貨が入っている。
「これってもしかして……!」
「はい、イースガルドで多く流通していたアデス硬貨です」
異世界の硬貨と聞いて興奮が隠しきれない様子の唯。
「普通にお渡ししようかとも思ったのですが、せっかくなのでゲームをしましょう」
「ゲーム?」
「はい。この硬貨たち、それぞれ価値が違います。それぞれの価値が小さい順に並べてみてください。正解したら差し上げましょう」
「やる!面白そう!」
「何をやってるんだ?ケイン」
「ちょっとしたゲームを行おうかと思いまして」
「面白そうなことをやってるじゃないか。せっかくだ、みんな呼ぼう」
家のリビングに家族全員が集まる。
テーブルの中央にはアデス硬貨たち。それを囲む形で皆が座る。
ゲームの趣旨を伝え、シンキングタイム。
丸型、四角、銀や銅と言った様々な硬貨がある中、皆はあーでもない、こうでもないと言いながら並べていく。
「よし、決まり!ケインさん、これであってる?」
「どれどれ、それでは解説しながら答え合わせといきましょうか」
まずは一番小さいところに置かれた銅の四角い小さな硬貨。作りもシンプルで、判が推されているだけだ。
「アデス一銅硬貨、日本で言うところの一円玉です。この中で一番小さな額の硬貨ですね」
続いて銅製の丸い硬貨。創造神とされる人物が掘り込まれている。
「アデス銅硬貨、日本で言うところの十円玉です。この辺りは分かりますよね」
同じパターンで鉄製の四角い硬貨、アデス百半銀硬貨。五十円硬貨相当のもの。鉄製の丸い硬貨、アデス銀硬貨。日本でいうところの百円硬貨。
銀製のアデス千半硬貨、アデス銀硬貨。五百円硬貨相当と千円札相当。ここからが難しい。
「続いてはアデス金硬貨、日本でいう一万円相当ですね。そして……」
「アデス白金硬貨、お前そんなもの持ってきてたんだな」
アデス白金硬貨、日本円で100万円相当の硬貨。基本的には政治やごく一部の宝石店でのみ使用される硬貨だ。
「全部正解です。素晴らしい」
そう言って拍手するケイン。
「お兄、白金硬貨はいくらなの?」
「……知らない方がいいと思うぞ?」
「教えてよ〜……セレスさん」
「え、私ですか?えっと……その……ざっくりなんですけど……」
「溜めないで教えてよ!セレスさん」
「100万円です」
その価値を聞いて唯は素っ頓狂な声をあげて驚いた。
「返す!返しますよ!」
「大丈夫です、この国ではなんの価値もない。いわば記念メダルですよ」
「そんなわけないよね!?少なくともプラチナとしての価値はあると思うよ!」
驚きすぎて変なツッコミをする唯。そんな唯にケインは落ち着いて答える。
「安心してください。こんなもの、隊長はいくらでも持っていますから」
「お兄!?」
「はっはっは。そうかもしれんな」
「お兄がそんなにお金持ちだって知らなかったんだけど!?」
「言うてそんなにないと思うぞ?あって5000枚とかじゃないか?」
「50億じゃん!?意味わかんないよ!」
ついに立ち上がった唯。
「カズヤさん、違いますよ」
「や、やっぱり……からかうのは酷いよお兄……」
「ざっと5万枚はありますよ?帳簿を見ないと厳密な額はわかりませんが……」
唯は力なく椅子にもたれる。
「い、意味わかんないよ……」
「まあ、お父様は英雄で、貴族でしたからね。現金だけが全てではありませんが」
「でも、そのお金って使えないんでしょう?どうするの?」
母さんが驚きつつもそう聞いてくる。
「大丈夫、イーディス様が家の金庫に変換の魔法を掛けてくれたから」
そう、地球に帰ってくるにあたり、屋敷の金庫に外に持ち出すと自然と日本円に両替してくれる魔法を掛けてくれたのだ。
なぜかというと、日本では札束になるものが一枚の硬貨で済むのだ。管理の利便性からイーディス様が気を遣ってくれたのだ。
「それは便利ですね」
「じゃあ、その魔法でこの硬貨たちも日本円に変わるんじゃ……」
「元からそこにあったものしか効果を発揮しないので、それは難しいかと」
「そ、そっか」
「ですので、これはただの記念コインですよ」
「そうはならないでしょう!?」
結局、唯は金貨までを受け取り、ケースに入れて飾っているそう。
ちなみに断られたケインは若干落ち込んでいたのはナイショの話だ。
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