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アストリネの一族  作者: 廻羽真架
第二章. 落陽の果て、蒼穹に嵐吹く【ルド】
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終幕の訪れ

ゴブッと生臭い鉄塊が食道から込み上げてきた。

イプシロンは目を眇めつつ気道が圧迫された嘔吐感を堪え、無理矢理血塊を嚥下する。


(やはり反動は、大きい。風操作も純水分解に加えてある程度の技を用いるのが精一杯、といったところか……血液酸化までは俺の身が保たん)

口元を乱暴に拭った片手を再び翼へと顕現し、降り掛かる血の槍を風の刃を起こして薙ぎ払う。


(全部。わかり切って、いたことだ)

崩れた血を被り頬が汚れた感覚が走り、片目を眇めて唸りながらも思う。

――イプシロン自身、こう陥ってしまうと初めからわかっていたのだ。

この行動は自傷。覚醒剤はアストリネ向けに作られてはない。

(元よりこれは、透羽吏史専用の()()だ)

異能発揮するには承認の異能を抱くエファムと交信する[核]が必須。

故に、覚醒剤は使用者の細胞を犠牲にして擬似的な[核]を作り出させる仕様となる。

正式な[核]よりも脆い[(コピー)]が体の免疫機能で自然崩壊してしまうか、承認の異能を扱い元を束ねるエファムに使用却下されない限りは、覚醒剤の元となった異能が扱えた。

(だからこそ、この覚醒剤は吏史専用。その他では到底耐えられなくて当然だ)

これについてもはっきりとした理由はある。

もしも、人間が摂取すれば、細胞を犠牲にするため臓器機能不全の危機に陥るだけでなく、同時に全身を襲う激痛に耐え切れない。

再生力を持つアストリネも、本来なら不可能だ。


イプシロンの再生力が低いという欠点が原因ではない。


「[核]は、異能は、一つしか抱けない」

愚かなことだと呆れを込めて、グラフィスは溜息を吐く。

「元が人の器でしかない我々は、一つの()()しか育たないのだ。原理ではない、それが定め。始祖エファムから続くアストリネの絶対条件」

それは変え難い事実だと、非難も込めて告げた。

同じ畑では、複数の種は育たない。無事に育たせたいならば間引く必要があるほどだ。


――つまり覚醒剤を用いることは、元の[核](種子)に必要な要素をも奪い、腐らせる自傷行為に他ならない。


「なのにお前は覚醒剤を短時間で過剰摂取したからな。比較的柔い細胞器官……臓器崩壊から始まってるのか?」

「っ!」

指摘に対して、イプシロンは反論も強がりも紡がない。否、紡げなかった。

一度飲み込んだくらいでは、指摘通りに起きている内部崩壊が止まるわけでもない上に、再び気道が血塊に満ちている。

それを誤魔化すように、咳き込む隙を晒さすまいと、イプシロンは両手を翼へ顕現させた上で大きく羽ばたき、身を回す。

瞬時に編まれた暴風の刃がグラフィスへ飛ばされたが、血は球体型の壁となりて風撃を流すのだ。


「それに比べて、どうだ。私はまだまだ万全だぞ?」

血膜の向こうで、グラフィスが招くようにも両腕を横に広げた。

「わかってるだろう。お前と私では違うのだ。力の差がありすぎるんだよ。理解して私を認め……撤回しろ」

声という振動を受けて、波紋を編み出し揺れている。


「さぁ、先の言葉を撤回しろ。イプシロン。お父様は何も間違えてはない。お父様こそが正しいのだ」

実父へ募らせた愛情を明かせば、血壁が弾け、今度は輪へと変化し始めた。


「かつて、初代グラフィス望んだ“大海の願い”。大いなる希望にして安寧の回遊を弱き者に与える願いが与える恒久たる平和に気づいたお父様が正しい、誰よりも……」


やがて血が短鞭を模る。グラフィスに柄を掴まれた瞬間、紅き荒波が立つようにも荒々しく振る舞われていく。

それにイプシロンは異能ではなく脚甲で初段を弾き、応戦する。

互いに一歩も引かぬ激しき乱撃が続く。猛撃による交差音は狂う乱舞のように立ち上がっていた。


「悲願となる境地にこそ、至れなかったが…忌まわしきシルファールの切り札たる兵器――『万化する産声』(テラトマ・モールド)を代替するまでに到達した。成就手前まで登り詰めたお父様の意思を、この私が繋ぐ。……[核]を継いだ時に、決めたこと」

数十の撃を交える最中、彼女が纏う鮮血のドレスが戦慄くように波打つ。

紅く小さい水泡が複数宙に浮かぶ。それらは分裂を繰り返し百へと昇りゆけば、次第に真紅の槍として形を成していく。


「完璧な教育を与えられた私は考えた。ならば、より完全なる大海(平穏)を作るべきだと。脆弱でも懸命に生きることを望み進む、愛おしい者たちの未来を守るために。――憂いを消さねばならない」

本来ならば、死に至るであろうほどの多量の血液が用いられてるだろう。

しかしグラフィスは貧血で昏倒することない。槍先は鋭利に尖り、磨かれていく。

「なあ、イプシロン。心を見通せるお前なら分かる筈だろう?【ルド】の民は醜い。兵士という戦を連想させる肩書に執着し、それを誇りとする。力を誇示して争いや戦いを好む理性なきケダモノだ」

[核]はこの場に無くともグラフィスは管界の六主に該当するアストリネ。

肉体の血だけが繋がりでしかないイプシロンとは違い、成熟し切った[核]を抱く。当然、再生能力も健在にして強力だ。

いくら血を消耗しようが然程問題ではない。――離れ業を描くことは可能である。


「“もしも”を考えたことはないかい?もしも、この世に兵器や『古烬』が居なくなれば鎮圧を……軍事事業を主としていた彼等は、役割を失い何処に向かうと思う?自らの力を誇りとする者たちが、戦がないと知れば、何処に行き着く?」

血槍は巡る。弱者のみの未来を憂う天輪が如く広がり、意思を否定せんと歯向かう無法者を裁くために。


「――自ら戦場を作る思考へ行き着き、弱き者を侵略する傲慢に至るだろう」

地を這うような低き声で、忌々しげにも結論を吐く。


「お前ならばそれがわかるはずだ、わかるはずだろう。唯一お父様に認められた……お前ならば!いつか聖戦だのなんだの悍ましい戯言を吐いて!蹂躙を実行する!彼等こそが傲慢不遜、唾棄すべき邪悪!世に争いを生み出す種にして――兵器同等の忌みものだ!」

グラフィスは楽園を侵害する破壊者への忿懣を隠さない。百にも昇る紅き槍も崩れることはない。

――不穏分子は此処で破壊する。

明確な憤怒を現す紅き雨が、具現した。


「そのようなケダモノは私の海には不要!故に、この日を以て、此処で殲滅する!」

そして紅き雨が全てを穿たんと空気を割いて放たれる。


降下に合わせてイプシロンは息を深く吸い込み、身を低く屈めた。

血槍の雨に対して迎撃態勢を構え、行動を起こす。


身を回しながら渾身の力を込めた脚甲で破砕する。翼を振り上げて炎を浴びせ蒸発を起こす。

同時に放った風壁で細かく切り刻んで、残された血槍を見据えては踵で床を踏み締め、自身を中心に辺りを重力を加算する。

そうして一斉に地面へ潰された血槍は形を無くし、元の液体へと返された。


「―――…なんと。よもや、これだけの数を対処し切るとは……」

百の紅き槍を対処されたという事実に愕然とするグラフィスを、イプシロンは荒々しく赤い痰を吐き出して睨む。


力強く羽ばいた。踵に焔を放出させ、急降下にて距離を瞬時に詰め切った。

「!!」

その滑空は、速さを乗せた全身(質量)の激突だ。

グラフィスの身を遠くへ飛ばし、何度か床に叩きつけるように転がさせては壁へ衝突させる威力がある。

――そう、大きな怪我を負わせはした、が。


「……っ、…ふ、ふふ」

しかし、グラフィスは肩を揺らし笑う。


「流石、幼き頃から兵器破壊を続けた百戦錬磨の猛者なだけはある。経験だけならば、あのディーケよりお前が上だよ。一筋縄ではいかないのも同然…………だが、本当に無駄なことをする」

骨が砕けようとも瞬く間に再生させたのだろう。咳き込む動作するなく、平然と身を起こしていた。


「………………」

それに対しイプシロンは何かを紡ごうとしたが、血生臭い呼吸ばかり漏らす唇を固く噤んで、やめた。

言われてる通り。この戦い自体が無駄だ。

どれだけ覚醒剤を飲み干してあらゆる異能を発揮しても、グラフィスには意味がない。

延々と再生を繰り返されるのならば、何れ[核]の限界を迎えさせることができるだろうが――。

決して、叶わないだろう。


「元より碌な再生力もない。その上、タナトの穢れで身を蝕まれたお前では私に勝ち目がないよ。……それはわかってるのかい?イプシロン」


現に事実を投げられてる途中、イプシロンは堪え切らなかった咳を漏らしてしまう。

口から多量の赤褐色の血が滝のように流れさせていた。


「……本当に、お前は弱くて憐れで、可愛らしい存在だな」


黙ったまま、イプシロンは翼で口元の血を払う。

これも理解していたことだと訴えるよう、眉間に深い皺を寄せて目を眇めていた。

(ああ。くそっ。『リプラント』の、時に、想定外の脳損傷さえ受けなければ……)

恨めしくも思うが、それこそたらればだろう。今は、この状態でやり切らねばならないのだ。

必死に呼吸を済ませて全身に力を入れ直し、再び臨戦態勢を取る。


「強情だな。お前自身の異能は私に通じないというのに。元より『精神力を超える相手だけ』が心理掌握の条件。今、こうして、対決していても全てが無駄な抗いとなるのに」

怒りを鎮めたグラフィスは、嘲りを込めて綺麗に微笑み、己の頬へ手を添える優美な所作を見せていく。


「誰にも頼らず裏切りを重ねて、命を削る劇薬を幾つも飲み干し私に挑んでも……結局何も変えられない。――シェルアレン様もお可哀想に」

哀れみをも込めた調子でシェルアレンの名を紡がれた途端、イプシロンは激情を覚えたように瞠目する。


「あの方はお前のために身を削り続けたのにな。お前自身の『ひとりで片す』という青臭い考えで、想いを台無しにされるわけか。…――ならば、ある意味で、あの方も憐れむべき弱者だったかな」

「ッ黙れ!」

今度は、わかりやすい挑発にイプシロンが乗ってしまった。

血反吐に塗れた赤い唇を開き、大きく吠えながらも責め立てる。

「貴様が……戦場に立たずして何の傷を受けなかった貴様が!シェルアレンを憐れむな……!」

イプシロンから見ればグラフィスもまた、元凶だ。

シェルアレンを己ごと異能を嫌うように歪ませた原因でしかない。

崖上に立たせて追い詰めた自覚もせずに、高見で憐れむなぞ、あってはならないだろう。

「憐れむなよ…!」

身を戦慄かせて鋭く睨み刺して苛烈な感情を晒すイプシロンに、グラフィスは愉悦に喉奥を鳴らした。


「ふむ。ならばこう言い換えよう。“あの方が生まれたこと自体が、大きな間違いだった”――これなら、如何かな?」


「――――――――」

放たれた悪意(嘲り)は、イプシロンが抱く翡翠瞳の温度を完全に奪い去る。

沸騰した怒りが限界を超えて沈黙に至り、瞳が平らに据えていく。

ガチン、と石種を砕き潰したような破砕音が場に響き、黄金に染まった瞳孔ごと双眸が、鮮烈に煌めいた。

「…っ!」

尋常ならざる意を感じて、グラフィスに緊張が走る。

(こ、れは……覚醒剤による異能ではない!?恐らくはイプシロン本来の異能!私に効かぬとわかっていて瀕死の身で何を仕掛け、………)

しかし双眸から放たれる。翡翠色で世界を染め上げかねない異常な眩しさには、憶えもあった。


(――まさか、これは“悪法”か?!)

判断を下す。自壊を代償に強力な異能を用いる合図だろうと。


すぐさまグラフィスは腕を引く。

彼女の意思に呼応するよう、鮮血のドレスの端から水泡が編み出された。

(…いいだろう!お前が決死の異能を仕掛けてくるならば、こちらも刹那の全霊を以て応えてやる!)

通常、悪法や境地は異能発揮に約三秒の時間を要する。

故にグラフィスに許された時間は約二秒。そして彼女は放つべき技を定めていた。


水を限界まで圧縮する操作を瞬時に行い、放射口を1mmにまで調整もを行うことで神速を保ちつつも貫通性を誇る秘技だ。


(…四十六代目ディーケが全力で奮う『アポローン』の撃にも劣らぬが、致命的な弱点はある)

全集中が大前提。十割の異能リソースを使用するためか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(しかし背に腹はかえられん!)

他の選択はない。本能の警鐘はグラフィスに使用と促してるのだから。

イプシロンに異能発揮されてしまう前に射止めんと、目を眇めれば意に応じて水泡が槍へと変化する。

既に把握したイプシロンの[核]――肝臓部へと槍先を向けていく。


「さらばだ。イプシロン。愛していたよ」

十三年間飼い続けることで抱いた愛憎を紡ぎ、いざ、神速の槍を放たんとした。

弾指の構えを取った手をイプシロンへ差し向ける。


「そうか。俺は君のことなど心底どうでもよかったよ。ミカエラ=グラフィス」


だが遅い。イプシロンの承認の方が既に下りている。

紅が走る金糸により目深へ影が差し込む。

瞬間、対象先となるものは遥か先の距離を超えて――意に応じた変化が、果たされた。


「ぐ、ぅ゛っ!?」

グラフィスから呻きが上がる。

身を小刻みに痙攣させて、鼓動早まる胸を抑えて膝から崩れ落ちていく。

「……な、ぁ゛、これ、……は……?」

滑舌が滞り、吃りつつ疑問を抱く。

上頭部の煙霧が揺らめく最中、彼女は狼狽えながらも己の身に走る現象を視認した。

己の肌は砕けたガラスのように、亀裂が幾重にも走りひび割れている。

先まで直ぐに塞がっていた傷も、今は瘡蓋が剥がれるように再び開き、再生することなく流血し続ける。


「…っ、何、これは、これは?!いったい、何が!どういう、ことだ!?何故、再生ができてない……ぅっ!?」

異能の行使も難しくなり、やがて鮮血はドレスの形を保てず崩れてしまう。

グラフィスを中心とした血の輪が広がっていた。


「…イプシロン……イプシロンッッ!!この私に、いったい何をした!?」

戸惑いにかぶりを振って多汗を散らす。

気品を捨てて猛犬が噛み付くような激昂を投げたグラフィスに反し、イプシロンは静謐を携えた翡翠瞳を向けていた。


「知ってるだろう?俺の境地は“付喪(マリオネット)”、他のアストリネの、[核]に触れて修復()()ができるもの。……だから俺と同じ[核]の状態へ、君を貶めたんだ」


まるで鏡合わせのように。グラフィスの[核]に同じ傷を写し与えたと語る。

元よりイプシロンは機械越しでの心理看破も可能域。その上、クモガタの[核]を始めにアストリネの心臓を修復可能としていた。

例え国を超えた深海に沈む遠き場所であっても――造作も無い。


「ごちゃごちゃ言われずともわかってたよ。始祖に連なる六主である君は、再生力も天上だってな」

いちいち指摘されずともわかり切っていた。小細工を仕掛けようと無意味になる。例え、イプシロンが覚醒剤を用いてグラフィスを押しても、タナトの汚染を受けた身では持たないだろう。

「戦う前から負け戦であることくらい、悟って、いたさ」

口から呼吸を繰り返す度にイプシロンの胸元から目元にかけて、グラフィス同様の亀裂が肌に走り始める。

ひび割れる崩壊手前のガラスめいた傷からは血が滲むが、決して再生されることはない。

「……知っていたんだ。俺は弱かった。過去も、何一つひとりで成しえたことは、ない。大事な時も間に合わなかったんだ」

だが、骨まで響く鈍痛を精神力で耐えたイプシロンは、床に跪くグラフィスへと近付いた。


「だから君も削り切るんじゃなくて。根っこから駄目にするしか止める手段がなかったんだよ」


満開の花は種ごと腐らせることでしか根本から刈り取れない。

だからこそ、自壊前提の戦いを仕掛けるしかなかったと語らった。

「――……フフッ。なるほど、ね」

悔しさは滲ませることはせず、グラフィスは肩をすくめて小さく笑う。

策に嵌りしてやられたというのに何処か清々しさすら覚えてるような、乾いた笑いだった。

「様々な異能を用いて突撃してくるお前が中々壊れないから、焦ったか。思惑通りに切り札を使って…直接付き合い打ち倒そうとしたのが、私の失態……」

無視して自壊するまで待てば良かった。侃侃諤諤に酔いしれたまま、臥薪嘗胆の崩落を待てば解決した。

グラフィスが慢心してイプシロンの決死に応えてしまったのが、主な敗因だろう。

「………なぁ、イプシロン」

胸からは流血が止まらない。手で傷を抑えたとしても、隙間から溢れ出させてしまう。体に走る亀裂は深まり、肌を覆い尽くす。

避けようがない崩壊の死を迎えるグラフィスが、イプシロンへ真偽(疑問)を問いかけた。


「お前に阻害されるほど、私の計画は悪だったのか?お父様やグラフィスの目指した境地は、悲願は、間違っていたのだろうか?」


肉体の形を作り変え、争う思考力をも奪い、穏やかな大海の生命体として循環させる。

それが真なる安寧だと信じ切っていた、消え入るような問いが投げられた。


「――――」

だが、瞳を僅かに瞠り据えるイプシロンの返事が紡がれることはない。

煙霧がゆらめく。完全に油断した隙を刺そうと床に広がる血が何かの形を成そうする。

「君は、まだ……!!」

悪足掻きを封じようと、弛緩しかけた体を動かした。


「――間違えじゃあないよ。別に何も全部が否定されるものでもないかな」


途端。空間を割くように青光が広がり破るように。栗色髪の少女が降臨する。


やがて白き閃光が放たれる。

「っ、う……!?」

イプシロン等の間に直立で着地を果たしては、グラフィスが編もうとした異能を眩ませることで封じていた。

「ミカエラ。君に賛同できる点があったのが否定しようがない事実。特段、落ち込む必要はないとも」

後に少女は、長い前髪を手で掻き上げる。

嗜虐性を滲ませた不敵な笑みで翠玉瞳を歪めていく。


「寧ろ、君の合理的思考自体は好ましい。だから途中までは僕が叶えてあげる」


脱走して行方不明だった第一級犯罪者『古烬』――月鹿。

イプシロンが祝福灯る翡翠瞳に彼女を映した途端、瞳孔ごと大きく瞠る。

呆気に取られて口を開き、身を震わせる驚愕を覚えてしまうのだ。


「サージュさん」

茫然と名を呼ばれたサージュが、口角を吊り上げる。


「久しぶり。クソガキ」

嘘偽りで真実を濁し、道理を並べて否定することもない。堂々と認めた上で嗤っていた。

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