宝探し(1)
「おっ村があるぞ。」
ウェイクが声をあげる。
「水と食糧の補給ができるな。」
今アンデル一行は、トリスを南下し、港町ゼンにほど近い森の中を歩いていた。
「お宝はまだなの?」
「俺が聞いた話ではこの辺りのはずだな。」
イムカが言うお宝とは、ウェイクが昔馴染みに聞いた古代の遺跡の事である。アンデルがハウを探しに行っている間、ただ待つのも暇だと考えたウェイクは、冒険者時代の伝手をつかってトレジャーハンターから情報を得ていたのである。
「とりあえず村で聞いてみよう。」
「お宝が眠る遺跡だって?そんなのがあるなら俺が知りたいよ。」
食料品店の店主はそういって笑う。
「ちょっとどう言うことよ!」
イムカがウェイクに食ってかかる。
「おかしいな。確かに大地の裂け目に遺跡があるって聞いたんだけどな。」
ウェイクも冷や汗を流す。
「お前さんたち大地の裂け目に行くのか?あそこは危険だからやめときな。」
干し肉や堅パンなど、保存の利くものを袋に詰めながら店主は言う。
「あそこは険しい峡谷になってるし、魔獣も多い。命がいくつあっても足りないぜ。」
「・・・お宝の匂いするじゃない。」
イムカが途端に目を輝かせる。
「テトラ様の話ではあと一月は同盟にも動きはないだろうってさ。一月を目安に探してみるか。」
アンデルもどこか子供のような無邪気さを見せる。
ーー村を後にして二日。アンデル達は、ついに大地の裂け目と呼ばれる峡谷へと辿り着いた。
「おお、底が見えねえな!」
ウェイクが崖上から身を乗り出して谷底を覗き込む。
「僕、高所はちょっとフィアーかも・・・」
「何尻込んでんのよオットー!お宝は近いのよ!」
イムカがオットーの背中を叩く。
「どこかから降りれないか探すか。」
アンデルの提案で、手分けして谷底へ降りる路を探すことになった。
「うーん。歩いて降りるのは不可能か?」
小一時間探し回って出した結論がそれであった。
「道なんてないわよ!」
「トレジャーハンターにとったら垂直の壁も道とみなすからな。俺達には無理だ。」
やや諦めの雰囲気が流れたところで、アンデルが提案する。
「とりあえず俺が見てくるよ。」
「見るって言ったって・・・」
ウェイクの言葉を最後まで聞くことなく、アンデルは浮かび上がった。
「浮いた!?」
一同は目を丸くする。
「これが風の精霊の力だ。すごくないか?」
エバまでもが目を丸くしている。オットーは自分にもできないかとうんうん力を入れて唸っている。
「じゃあ降りれそうな道を探してくる。」
そう言ってアンデルは飛び上がった。
「うーん・・・これは降りれないな。」
中腹まで急降下したアンデルは、峡谷に沿って端まで探索する。しかし人間が降りられそうな経路は見当たらない。皆の元へ戻ろうとしたその時、頭上に気配を感じた。
「人間って空、飛べるんだな。」
アンデルが飛び去った後も、ウェイクは放心気味であった。
「浮けっ!浮けっ!」
オットーは全身に緑の光を纏いながら、念じている。
「飛べるようになったところで高所恐怖症じゃ意味ないんじゃないの?」
イムカのその一言に、オットーは固まる。
「それはブラインドポイントだった・・・」
「盲点どころか主眼じゃないの。」
「戻ってきた。」
エバが呟く。遠くの方に飛来するアンデルが確認できる。
「ん?なんか引き連れてないか?」
ウェイクが目を凝らすと、アンデルの後方に影が見える。それも一つではなく複数も。
「巨大なバード?それからドラゴンも混じってるね。あ、襲われてる!」
視力を強化したオットーが見たままを報告する。アンデルは怪鳥とワイバーンに襲われていたのであった。
「危なっ!やめろっ!」
くちばしと鉤爪による容赦ない一撃が、アンデルの背中を襲う。空中制御を崩さないよう意識しながらも、アンデルはすんでのところで躱す。
「縄張りがあったのか!くそっ!」
再び怪鳥がアンデルに襲いかかる。しかし怪鳥は翼を広げたまま、地面へと落ちていった。続けざまに二羽、三羽と峡谷へと吸い込まれていく。
「助かった!」
アンデルは落ちていく怪鳥の額に、矢が突き刺さっていたのを見た。
「おーいアンデルー!」
武器を構えながら手を振るウェイクが目に入る。傍ではオットーが次々に矢を放っている。アンデルは速度をあげて皆の元へ向かった。一旦魔獣を引き離したところで、エバの魔術が放たれる。怪鳥が半分ほど焼け落ちる。
「どりゃあ!」
アンデルが土煙をたてて着地すると、すれ違いざまにウェイクが大剣を振る。アンデル目掛けて突っ込んできていたワイバーンが真っ二つに切り裂かれる。
「ほっ!」
更に別のワイバーンを狙ってイムカが宙を舞う。飛んでいるワイバーンよりも更に高く跳んだイムカの一撃は、ワイバーンの首を刎ね飛ばした。
「すまん!助かった!」
アンデルを襲撃した魔獣は、あっというまに駆逐された。
「何やってんだよお前は。」
ワイバーンの皮を剥ぎ取りながらウェイクは呆れた口調で責める。
「縄張りに入ってしまったみたいだ。すまんみんな。」
「まあ食糧が調達できて結果的によかったんじゃない?」
イムカは怪鳥を部位ごとに切り分けながらあっけらかんとして言う。
「それで降りることはできそうか?」
「いや、崖から降りるのは無理だな。」
ウェイクは天を仰ぐ。
「無駄足かあ!」
「アル!水ちょうだい!」
イムカが捌く上でついた血を洗い流そうとアンデルに水を求める。
「ああ、わかった。」
アンデルは水と言う単語だけを聞き、反射的に水球を出す。
「そう言うことじゃないんだけど・・・まあいいか洗えるし。」
イムカはいそいそと水球の中で手やナイフについた血を洗い流す。
「ねえ、このウォーターって飲めるの?」
オットーがそんな質問をしてくる。
「ああ。むしろその辺の川の水よりよっぽどうまい・・・あ。」
アンデルは気付く。
「なんだよ水買う必要ないんじゃねえか。」
ウェイクも返り血を洗いながらぼやく。
「俺、降りる方法思いついたかも。」
アンデルのその発言に、皆の目が一斉にアンデルを注視した。




