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種火(1)

「おいアンデル!」



 同盟を持ちかけに来た相手に、同盟の話を切り出す事もなく下城したアンデルを、ウェイクは追う。



「話は宿屋に戻ってからだ。」



 有無を言わせず、歩みを止めないアンデルに、ウェイクら三人はただついていくしかなかった。





「誰もつけてきてないよな?」



 宿屋に戻るなり、アンデルは部屋に引っ込んだ。窓から表を覗き見るほどの警戒ぶりである。



「どうしたってんだよアンデル。」



 王に謁見してからのアンデルは、様子がおかしいとウェイクは感じている。イムカとエバも顔を見合わせる。



「テトラ様の言っていたのはこれだったんだな・・・いいか。ここの国王はちょっとまずいぞ。」



 アンデルの唐突な発言に、三人は息を飲んだ。



「ちょっとアル!なんてこと言うのよ!」



 堂々と国王の批判をするアンデルに、イムカは動揺を隠せない。



「なにがまずいんだ?」



 一方でウェイクは落ち着き払い、アンデルの思惑を聞く態勢をとる。一見激情家に見えるウェイクだが、その内には冷静な一面を持っている。それを知るアンデルは、笑う。



「『調停者』について興味があったって言っただろ?歴史に名を残すほどの発明であることは間違いない。魔術に関わるものならば知らないものはいない。」



 そう言ってアンデルはエバを見る。エバは頷き、その重い口を開く。



「オートマトンを戦闘に特化させた兵器。決して死ぬことなく、死を与え続ける無言の兵団。やがて国家間の戦争は、『調停者』同士による人間の代理戦争に取って代わると予測される。製作者の名はシリカ=トリス。」



「シリカ=トリス?」



 その名を聞き、イムカが首を傾げる。そしてアンデルが続きを引き取る。



「そう。現トリス国王、ゼファー=トリスの後継、シリカ王子だ。」



「ちょっと待てよ!トリス王は姫さんのこと一人娘って言わなかったか!?」



 ウェイクが反論する。アンデルは頷く。



「ああ。しかも俺が製作者の名前を出そうとした途端、急に話を打ち切った。シリカ王子の存在を表に出したくない何かがあるのかもしれないな。」



「自分の息子の存在を隠す?なんか胡散臭いわね。」



 アンデルの投げ掛けた事実が、皆を訝しさの沼に沈めた。



「テトラ様はおっしゃった。誰と同盟を組むかは俺に一任する、と。恐らくこの国の歪さを知っていたんだろう。」



「なんかありそうね、この国。」



「少し調べてみるか?」



「ああ、明日から動こう。ただし怪しまれないように慎重にな。魔族が入り込んでいる可能性も考えられる。」



 皆の脳裏にソファラがよぎる。一行は頷き合うと、部屋を自分の部屋に戻った。





 ーー月が頂天から傾き始めた夜半。寝静まるアンデルの部屋に近付く影があった。音を立てずに廊下を渡る影は、別の影によって行く手を阻まれる。



「こんな夜更けに何用か。」



 ヒカゲが謎の影に問い掛ける。影の中から突然現れたヒカゲの存在に驚くこともなく、闖入者はその場に佇んでいる。



「答えずともよい。どうせ眠ることになるのだからな。」



 ヒカゲは音もなく闖入者に迫り、足払いをかけた。しかし闖入者は予備動作もなく宙へ跳び上がる。そのまま回し蹴りを放ってきた。闖入者の足がヒカゲの鼻先をかする。ヒカゲは反射的に後方へ跳び、床に手を着いて転回した。相手の身のこなしから、一筋縄ではいかないと判断したヒカゲは、直刀に手を伸ばす。



(隙がない…)



 相手の力量を測る。一見佇んでいるようにしか見えないが、先ほどの動きで目の前の敵がただの賊でないことは明白である。通常、生物が動作を起こす際には、筋肉の伸縮を必要とする。跳び上がるという行為は、一度かがんで、筋肉を収縮させてから、その反動を利用して伸び上がらなくてはならない。しかし先ほどの動きには、その予備動作が見られなかった。恐らく普通の人間と同様に斬りかかっても、あり得ない反射でかわされてしまうだろう。



(ならば。)



 ヒカゲは懐に手を入れる。そして直刀を逆手に握り、駆け出す。闖入者はまたしても予備動作なくその一閃をかわした。が、突如動きを止めた。その体には極細の糸が巻きついている。



「無駄だ。」



 ヒカゲが刀を持つ手とは反対の手から、糸の束が伸びている。糸に絡め取られた闖入者は、ちからずくで糸を引きちぎろうと力をこめる。糸は衣服を破り、皮膚に食い込んでいる。力をいれれば己の体が切り裂かれるであろう。にも関わらず、闖入者はさらに力を込め続け、ついにはその強靭な糸をひきちぎった。



「無駄だと言っただろう。」



 糸を引きちぎるのに気をとられている隙を突き、背後を取ったヒカゲの刀が、首元へと突きつけられていた。いくら予備動作なく動けるとは言え、横にひくだけで首を切れる状況では、かわしようがない。にも関わらず、闖入者は裏拳を放つ。首を切られることを恐れていないかのようなその一撃は、しかしてヒカゲの超反射にかわされ空を切った。逆にその腕を掴み、ヒカゲは敵を壁へと投げつけた。



「なんだなんだ!」



 その音を聞きつけ、ウェイクが大剣を片手に部屋から飛び出してくる。



「片付いた。」



 座り込む闖入者の首に、今度は正面から刀の切っ先が突きつけられる。と、そのとき、階段や天井から、さらなる影がなん体も飛び出した。



「不覚!」



 ヒカゲが反応するより早く、影のうちの一体がアンデルの部屋の扉を蹴破った。



「主よ!」

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