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介入(3)

「なんだ今のは・・・」



 アンデルは目の前で起こったことを理解できずにいた。オルフェンやエバの攻撃を意にも介さずに猛威を振るっていたデーモンが、一瞬にして消滅したのだ。



「アル!今の何!?」



 イムカも思わず駆け寄ってくる。



  「いや、なにがなんだか・・・!?」



 不意に正面の建物の屋根の上に、人影を見つける。もしかして今の光の雨を降らせた魔術師かと、アンデルは身構える。屋根の上の人物は、迷いなく跳んだ。



「何っ!?」



 魔族を一瞬で葬る魔術に、三階建ての高さから飛び降りられる身体能力、アンデルは相手が人間ではないと瞬間的に悟る。



「受け止めてー!」



 しかし、宙へ飛び出したそれは、可憐な女性の声を発した。



「アクアスクリーン!」



 アンデルは思わず水の膜を張って受け止めていた。



「ありがとねっ!」



 地面に降り立ったそれは、女性の姿をしていた。銀に煌めく髪の毛を束ね、ドレスを着た、完全な人間の女性であった。



「えっ?あ、はい。」



 アンデルは思わずたじろいでしまう。見た目は麗らかな女性ではあるが、その内包する魔力は底が知れない。間違いなく目の前のこの女性が先程の魔術の主だとアンデルは確信する。



「何でれでれしてるの。」



 魔力を感じ取れないイムカは、目の前の相手が如何に異様であるかを察せないため、アンデルの困惑を、色香に惑わされたものだと勘違いし、静かな怒りを燃やす。



「いや、違・・・」



「あ、たーいへん!」



 アンデルが弁明しようとイムカに向き直った瞬間、謎の女性は瓦礫の方へ歩いて行ってしまう。



「うう・・・」



 アンデルがそれを目で追うと、瓦礫の山からオットーが足を引きずりながら現れた。深い傷を負ったのか、血まみれである。



「オットー!」



 事態を処理できずに、すっかり忘れていたオットーの事を思い出し、アンデルは駆け出す。しかし、謎の女性は既にオットーの足元に屈んでいた。



「骨が見えちゃってる。痛いのによく頑張ったね。」



 女性が手のひらをオットーの足に向けると、光が集まりだし、オットーの傷がみるみるうちに治っていく。



「う、お、お?痛くない!あれ?痛みがナッシングだよ!」



 傍目から見ても酷い怪我を負っていたはずのオットーが、飛び跳ねる。謎の女性はそれをニコニコと眺めている。



「スカーもない!あなたはゴッデスなのですか!?」



「女神だなんて大袈裟ね。」



 アンデルが二人の元へ辿り着く数秒のうちに、オットーの深い傷は塞がってしまった。いや、塞がったという表現は正しくなく、オットーの言う通り傷痕すら残っていないのである。アンデルは、ソユによる治癒魔法を見せた時の治癒術師の反応を思い出した。



「聖女、様?」



 思わず口をついたアンデルの言葉に、謎の女性はニッコリと微笑んだかと思うと、何かに気付いたようにアンデルの顔を見つめる。



「ちょっと屈んで?」



 手招きをする女性に従い、アンデルは少し屈んだ。すると、謎の女性はアンデルのおでこに口づけをする。



「なっ・・・!!」



 イムカの声にならない悲鳴が聞こえる。



「顔の傷は残してちゃだめよ。」



 アンデルはおでこを触る。アンデルは自分では見えていなかったが、地面を転げた際に切ってしまったのか、血が滲んでいた。



「あなたは、聖女テトラ様ですか?」



 アンデルは意を決して尋ねる。



「その呼び方はきらーい。テトラちゃんて呼んで!」



 聖女はくねくねと身をよじらせながら言う。



「聖女テトラ?ってあの聖女テトラ!?ドミナエル神国の枢機卿と並んで、神の加護を受けているって言う!?」



 イムカが驚愕の悲鳴をあげる。



「よろしくー。」



 テトラはひらひらと手を振る。



「そこらの大国の王様よりも余程重要人物と言われる聖女が、こんな若いなんて!」



「若い?ほんと?うれし!」



 イムカに若いと言われ、テトラはきゃぴきゃぴと喜ぶ。



「聖女様がなぜこちらに?聖ガーランドにおわすのでは?」



「んー。魔王が出たって言うのに、人間同士で争おうとしてるお馬鹿さんがいるって言うからー。それに、今代の勇者様を見てみたかったから?」



 そう言うと、聖女はアンデルを見つめる。声色はとても柔らかいものであったが、その視線はまるで体の内部まで見透かされているような肌寒さをアンデルは覚えた。



「そうだ!こっちが終わった事を戦場に知らせないと!」



「たぶん向こうも終わってるわよ?」



 まだ戦争が終わってない事を思い出したアンデルが、戦場に戻ろうとしたところで、テトラがあっけらかんと言う。



「えっ?」



「聖ガーランドのインペリアルガーディアンが向かったもの。直に大将首でも持って帰ってくるんじゃない?」



 テトラの言に、アンデルは困惑する。



「あ、帰って来た!キグナスー!」



 テトラが目一杯背伸びをして手を振る先には

 、銀甲冑を着けた騎馬の一団が見えた。その一団から、一際目立つ白馬に乗った騎士が近付いてくる。白馬の騎士は、聖女の前で下馬し、兜をはずして跪いた。



「聖ガーランドインペリアルガーディアン騎士団長キグナス、ソファラ国軍の首魁、キシュワードを討ち取って参りました。」



 白髪の偉丈夫が放ったその言葉は、戦争の終結を意味する。それをさらりと言ってのけたことに、アンデルは慄く。



「ご苦労様。で、いた?」



 テトラは相変わらずの軽さで訊ねる。



「はい。歩兵の中に一人、リザードマンが紛れ込んでいました。」



「そっか。こっちも魔族を仕留めたわ。」



 キグナスはギロリとアンデルを一瞥し、再び頭を垂れる。アンデルはその視線に殺気を感じ、背中に冷や汗が流れた。



「じゃあこれで戦争はおしまーい!こっからは机の上での戦争ね!」



「はっ。」



 余りにも軽く、終戦の詔が発せられた。それも第三者によって。アンデルは目まぐるしい事態の変化に戸惑い、焼け落ちてしまったポートクォーツの街並みを見渡すことで、現実から逃避した。すると、その視界の端に、ウェイクとギリアムを引き連れたマーシュの姿を捉えた。マーシュらは、インペリアルガーディアンの一団の手前で下馬した。インペリアルガーディアンから一騎、キグナスの元へ駆けてくる。



「騎士団長、グラシエル王国のマーシュ王太子が御目通りを願っております。」



 その報告を受けたキグナスは、聖女テトラに判断を仰ぐ。



「確かにマーシュ王太子?」



「はい、紛れもなく。」



 問われたアンデルが即座に答える。



「なら会いに行きましょ。」




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