新星現る(5)
「ファイアーボール!」
アンデルが生み出した火球を、ウェイクが指先でつつく。
「何度やっても温い玉だぜ?」
アンデルは一晩経って落ち着いてから、昨日の出来事を検証していた。ウェイクもイムカも、話を聞いた当初は疑っていたが、エバが証人となったことで検証に付き合うことにした。
「あの一瞬、確かに俺の魔術が現実に干渉したんだけどなぁ・・・」
アンデルは土石流を堰き止めた自分の魔術を思い出す。確かにアンデルの生み出した石壁が、この村の危機を救ったはずだ。
「そもそもさ、アルの魔術が見掛け倒しな理由ってなんなの?」
イムカが今まで聞く機会を逃していた質問を、ここぞとばかりに問う。割と深刻そうな問題なので、空気の読めるイムカは聞かずにきたのであった。
「それは・・・わからないんだ。」
アンデルは火の玉を見つめながら答える。
「わからない?」
イムカは首を傾げる。
「俺が教会で孤児だったとき、学院長に魔力の保有量の高さを見出されて特待で学院に入学させてもらった話はしたよな?」
イムカは頷く。
「学院では入学して一年間は魔力の使い方を座学で学んで、実際に扱うのは二年目からなんだ。」
「じゃあ入学当初はその特異性に気づかなかったの?」
「そうだ。実際に魔術として顕現してみたところ、この有り様だったんだ。教官もこんな状況は初めてだったらしくてな。様々な文献を調べても見たが、原因不明。」
アンデルは火球を握りつぶすと、天を仰いだ。
「魔術学院で原因究明できないならお手上げじゃない。」
アンデルはイムカの言葉に力なく笑った。
「学院長と言えば。」
「うん?」
おもむろに口を開いたエバに、皆の視線が集中する。
「餞別。」
「・・・そう言えば。」
アンデルは学院長から渡された小袋の存在を思い出す。受け取った前後のどたばたで、つい中身を確認し忘れていたのだ。
「すっかり忘れてた。」
贈り主の呆れ顔を思い出し、アンデルは苦虫を噛み潰したような顔で袋の口を開ける。
「まあ綺麗じゃない!」
アンデルが袋から取り出したのは宝石であった。イムカから嬌声があがる。
「魔力の痕跡は・・・ないよな?」
学院長がわざわざ餞別として寄越したものであるだけに、まさか旅の資金にしろと言うわけではないだろう、とまじまじと調べるアンデル。同意を求めたエバは首を傾げるだけである。
「赤に青に緑に黄色・・・茶色?この透明なのは水晶かしら?」
様々な色の宝石を、イムカが垂涎の面持ちで見つめている。今にもひとつくれと言い出しそうだ。イムカの手が伸びる前に、とアンデルが袋の口を閉めたところで、アンデル達が間借りしている空き家の扉が力強く開け放たれた。
「うおっ!なんだ敵か!」
話に入れず、うとうとしていたウェイクが跳ね起きる。
「アンデル!もう出立するのかい!?」
駆け込んできたのはオットーであった。昨日散々文句を言っていた割には、最後に見せた水龍との大立ち回りが観客達に受けて、僕は演技のアビリティも持ち合わせているみたいだ、などと鼻高々に周囲にもらしていたオットーである。
「ああ。今日の昼には立つ。」
「そんな!ちゃんとしたお礼もアンティルなのに!」
「村の皆はどうしている?」
「昨日の舞台に感銘を受けた一部の村人達が、龍神を祀る祠を建てるって張り切ってるよ。まだジョーク混じりだけど、長雨が続いたらフォレストには近付いたらデンジャーだなんて話になってるよ。」
「そうか、それなら後世にも言い伝えとして残るかもしれないな。」
アンデルは満足げに笑う。
「うん。本当に君達には感謝してるよ。僕だけだったらビリーブしてもらえなかっただろうから!」
「そんなことはないさ。それより、これからどうするつもりだ?」
「うん?僕かい?フォレストの中にあった僕のハウスは土石流に飲み込まれちゃったしなあ・・・まあなんとかなるさ。」
オットーは渇いた笑いで虚空を見つめる。それを見たアンデルはにやりと口を歪めた。
「なあオットー。提案なんだが・・・」
「ん?なんだい?」
アンデルはオットーの肩をがっちりと掴み、耳元に顔を寄せた。
「今、アル悪い顔してなかった?」
イムカとエバがひそひそと話しているのを聞き流しながら、アンデルはオットーの耳元で囁く。
「君の演技は素晴らしいものだった。今回だけの特別出演と言わず、是非我が劇団の花形俳優として迎え入れさせてくれないか?」
「ホワット?僕が役者に?」
ウェイクもイムカもエバも悟った。あ、こいつ自分が主役やりたくないからオットーに押し付ける気だな、と。
「んー・・・確かに演劇ってのが楽しいものだとは思ったけど・・・」
アンデルの思惑を知らず、心動き始めたオットーはアンデルの後方の三人に目をやる。
「確かに悪い奴じゃねーしな。俺は歓迎だぜ。」
ウェイクは手放しで歓迎する姿勢をみせる。
「私も歓迎よ。ただし・・・」
「主役はアル。」
女性陣も条件付きではあるが、受け入れ態勢である。アンデルは舌打ちしそうになるのを堪え、オットーの目を見据える。
「我々は君を歓迎するよ。」
ややあって、顔をあげたオットーは笑顔であった。
「うん・・・そうだね!僕も君達の劇団にお世話になろうかな!」
わっ、と歓喜に盛り上がる一行はオットーを拍手で迎え入れた。かくしてマクスウェル劇団に一人の若者が加わった。
「ニュービーだけどよろしくね!」
そう言って頭を下げたオットーに、アンデルは笑顔で言い放つ。
「ああ、一緒に魔王を倒そう。」
「ホワッツ?まおー?」
ーーコトック村を後にし、オットーを加えたアンデル達先発隊は、牧歌的な景色が続く麦畑の間を行く。
「はあ、フェアリーテイルに聞く魔王を倒す旅ねぇ・・・」
オットーは道中でアンデルから旅のいきさつを聞いていた。
「なんか僕早まったかも。」
「いや、オットーの力は必ず魔王討伐に必要になるはずさ。」
頭を抱えるオットーに、アンデルは語りかける。
「劇団員に加わったからには一蓮托生だ!悩んでもしょうがないね!」
顔をあげたオットーは力強く宣言する。
「改めてよろしく。オットー。」
アンデルとオットーは固い握手を交わす。
「それで、次の目的地は?」
荷台からウェイクが尋ねてくる。
「次は港町ポートクォーツだ。いよいよ海を渡るぞ。」
「へー、僕シップに乗るのは初めてだ!」
オットーが興味に染まった声をあげる。
「実は俺もない。」
アンデルも乗っかる。
「ウェイクはもちろんあるわよね?」
「ああ、冒険者時代にな。」
「私も西の大陸からの移民だし。エバは乗ったことある?」
イムカの問いにエバは頷いて答える。
「じゃあ乗ったことないのはあの二人だけか・・・」
「そうねえ・・・」
荷台の二人は顔を見合わせ意味ありげに笑い合う。御者台に座るアンデルとオットーはそんなことをつゆ知らず、まだ見ぬ海に思いを馳せていた。




