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デウス・エクス・マキナ(4)

 アンデルの前には埃かぶった書物の山が積み上げられている。



「そしてこれが口伝をまとめたものじゃな。魔王について書かれたものはこのくらいじゃのう。」



 古文書から挿絵付きの子供向けの御伽噺まで、司書長が次々と持ってきたものである。



「ええと・・・」



 どこから手をつけたものかと、大臣に目線で助けを求めるアンデルであったが、当の大臣は表題を眺めているだけである。取り敢えず手近にあった書物を手に取りパラパラと目を通してみる。題名こそ『魔王と勇者』と仰々しいものだが、この本の筆者がいかにしてこの本を書くことになったかの経緯と、それまでの半生を書き綴っているだけで肝心の魔王についての描写が一向にでてこない。これらを読破する間、王女が無事でいる保証などないとアンデルは焦りを覚えた。



 その焦りを察したのかどうなのか、大臣が口を開く。



「貴公はこの全てを頭に入れているのか?」



 問われた司書長はこめかみをとんとん、と指で叩きながら答える。



「儂の頭はこの蔵書室と等しい価値じゃろうな。」



「ならば魔王について掻い摘んで語りきかせてくれ。」



 それはいい、と紙の山から目を背けたアンデルは司書長へと向き直る。



「ええと・・・まず魔王が最初に歴史に登場したのは、千五百年前じゃな。この大陸がまだ戦乱の世にあったときじゃった。」



 アンデルは魔術学院時代に学んだ歴史を思い返す。ここグラシエル王国が建国されたのが千三百年前。それまではこの大陸にはいくつもの小国が乱立し、覇権を巡り、血で血を洗う戦乱の時代であったという。さらに他の大陸からも侵略してくる国は多数あり、それを撃退する国、はたまた力を利用しようと迎合する国と全世界を巻き込んだ荒んだ時代であったという。いくつもの国が滅び、また新たに野望を持った国が興り、と目まぐるしく動く情勢の中に、一つの賽は投げられた。魔王の登場である。



「何処からか現れた魔王の脅威に、争っていた人々は皆、魔王というただ一つの敵を打倒するために、手を取り合って立ち上がったという。いわゆる、人魔戦争じゃな。」



 司書長の語る様を大臣もアンデルもただ黙って聞き入る。



「そしてついに魔王を討ち果たした人類は、争いを収め共同で国を作り上げた。それがグラシエル王国を始め、各大陸に覇を唱える大国の成り立ちだと言われている。」



 アンデルも大臣もただ頷く。



「しかし、魔王の最後を明確に記した書物はでてこないんじゃよ。一体誰がどこで魔王を倒したのか。歴史上から忽然と姿を消したのじゃ。」



「確かに、魔王が倒されたから国が成り立ったという流れで学んだな。しかし、それがそんなにおかしい事か?千三百年も前の話ならば、失伝してもおかしくはないだろう。」



 大臣の反証にアンデルも頷く。



「大国の成立以降も、戦が起きなかったわけではない。となると、魔王にとどめを刺した勇者を抱える国がそれを前面に押し出さないのは不自然ではないかの?」



「聖ガーランド国か・・・」



 大臣の呟いた聖ガーランド国という国には、アンデルも明るい。五百年前に再び歴史に現れた魔王を語るにおいて、無視できない国である。北の大陸に突如現れ、国という国をことごとく滅ぼし、今では死の大陸と呼ばれるほどに大地を荒廃させた魔王を討伐したのが、当時東の大陸の小国であったガーランドより生まれた勇者であった。単身死の大陸へと乗り込み、幾千幾億の魔物を蹴散らした勇者は、ついに魔王を討ち果たしたという。この勇者を生み出したガーランドは、聖ガーランドと名を改め、他の国より恐れ敬われる大国になった。これは英雄戦争として語り継がれ、子供達が誰しも憧れる物語となった。アンデルも例外ではない。



「誰が倒したのかわからないほどの混戦だったのではないのですか?」



 アンデルの仮説に司書長はかぶりを振る。



「宮廷魔術師筆頭ほどの実力があれば、一国の軍隊であっても傷つけることはかなわん。ましてや魔王となれば、尚更じゃ。」



 国家間で大きな争いが起きないのには理由がある。それは戦争に於ける魔術の役割が大きすぎるからだといわれている。宮廷魔術師が動けば戦場は魔力の雨が降り、歩兵など機能しなくなるからである。戦争に勝ったところで、国の資産たる民が減ってしまえば、国は弱る一方である。戦争の抑止力となるほどに宮廷魔術師という存在は大きい。



「だから人ならざる力を持った勇者という存在が大きくなるのですね。」



 アンデルは納得する。となると先ほどの司書長の疑問にも頷ける。



「儂は神々の自作自演だと思っている。」



 司書長の口から衝撃の仮説が飛び出した。

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