デウス・エクス・マキナ(3)
魔王襲来の報は即座にグラシエル王国中に知らされた。王女が拐われたこともあり、街行く人々は皆沈んでいる。当初は緘口令も考えられたが、目撃者があまりに多過ぎた。人の口に戸は立てられない、と王宮も頭を悩ませた。そして、その晩にはアンデルの元へ登城の令が下る。
「マクスウェル劇団団長アンデル、入れ!」
兵士に呼ばれると、謁見の間の荘厳な扉が開かれる。玉座の前に片膝をついたアンデルは、そのまま王を待つ。
「グラシエル国王陛下の御成!」
頭を下げたままのアンデルに、国王が声をかける。
「此度の事、顛末は聞いておる。些か聞きたいことがある。面をあげよ。」
アンデルが顔を上げると、玉座に座った王が目に入る。アンデルが王の顔を直接拝見できる機会は、建国祭と新年の儀くらいのものだが、記憶の中の王の姿よりもやややつれ憔悴しているように見える。
「何者かが王女を拐っていったと言うのは相違ないのか?」
「はい。」
「おお、ミリアよ・・・」
国王は王女の名を悲痛な声で呼んだ。
「この度は私の不手際でこのようなことになり、申し開きもございません。」
深く頭垂れるアンデルに、国王は声をかける。
「そなたを処して王女が戻るのであれば、余は喜んでそなたの首を刎ねよう。」
アンデルの背中に冷たい汗が流れる。
「しかし相手は魔王と思わしき者だと聞いている。相違ないか?」
「時を同じくして現れた神を名乗る者によれば、魔王だと。」
「神、か。天災と伝え聞く魔王が現れたとなると、その神も信憑性足るものなのであろう。」
「えも言われぬ神々しさがありました。そして死の大陸へ向かえ、と。」
「ならばそなたは使命を全うするがよい。宮殿内の書庫への立ち入りを許可する。魔王の言い伝えも少しは残っているだろう。」
「ありがたき幸せ。」
「こちらも第一王子のマーシュが救出隊を結成している。そなたはそなたで天命を果たせ。」
「はっ!この命に代えましても!」
アンデルが深く頭を下げ、王が玉座を後にすると、謁見は終わりを告げた。
「ついて参れ。書庫を案内する。」
白髪が散見される初老の男の後ろを、アンデルはついて行く。
「大臣自ら案内されずとも、我らが参りますが・・・」
謁見の間を出たところで、兵士が声をかけてくる。身なりの良さから、身分の高いお方であろうと思っていたが、まさか国の重鎮だったとは、とアンデルは心中で唸る。
「よい、私も用がある。」
兵士を下がらせた大臣の後ろを、アンデルは恐る恐るついて行くことになる。
やがて大臣がある扉の前で止まり、ノックする。その返事を待つことなくノブを回した。
その部屋は、窓がなく蝋燭の火が揺らめいた埃と黴の臭いのする陰鬱な部屋であった。
大臣とアンデルが連れ立って部屋に入ると、怒声が飛んできた。
「なんじゃいノックもせず!」
大臣は気にも留めず怒声の持ち主に語りかける。
「この者は神の使徒となった。その使命は魔王を討ち亡ぼすことである。」
それを聞いて怒声をあげていた男の剣幕はなりを潜める。
「魔王じゃと?そんな過去の遺物がどこにおる。」
「やはり書物を読みふけって市井に気を回しておらなんだな?魔王が現れて王女様が拐われた。国の一大事だ。」
大臣は頭が痛い、とばかりに眉間を指で揉み解しながら言う。
「なに!?姫様が!?それはいかん!あのお方はよいお方じゃ!」
「それにつき、魔王の情報を得るため司書長の力を借りたい。」
「魔王についてじゃな!我輩に任せておけ!」
司書長を名乗る男は本棚の海へと消えていった。




