表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FAIRY WARS ~最弱は最強を打倒する~  作者: Sissy
第一章 最弱の委員長
12/35

委員長と副委員長

 校外学習が終わった次の日、ヨモギが図書塔へ顔を出しに来ていた。

「学院長の許可が下りたことを報告しに参った」

 淡々とした表情のヨモギはそれだけ告げるとさっさと図書塔から出て行ってしまった。キルケは先ほどヨモギから受け取った書類を持って、アストレアに告げる。


「あの、アストレア嬢。僕さ、テラコヤ計画をするのに良い場所を見つけたんだ」

 テラコヤ計画、というのはキルケが名付けた図書委員の校外活動のことだ。首を傾げるアストレアにキルケが楽しそうに微笑んだ。

 書架の整理を早めに終わらせ、キルケが案内してくれる場所へ向かう事にした。


 キルケが案内してきたのは、学院を出て少し離れた場所にある貧民街の一区だった。今は誰も使っていないらしい。元々は家が建っていたのだろう、あちこちに材木だったり、さびた調理器具が落ちたりしているが掃除をすれば使えないこともない。広々としていてここなら大丈夫そうだ。

「それに、ここにある物を使って黒板だって作れちゃうしね」

「そんなことが出来るの?」

 得意げに胸を張るキルケにアストレアは驚く。大工仕事というよりは楽器を弾いていそうな風貌なので、そんなことが出来るとは予想もしていなかったのだ。早速、鞄から道具を取り出し材料を選んでいる彼が作業しやすいよう、アストレアは掃除をすることにした。

 2人が作業を行って数時間。もう太陽は沈みかけ、オレンジ色に染まっていた。


「キルケってすごいのね……」

 古くそこらに落ちている木と彼が持って来た材料で作った黒板は、小さいながらもしっかりと字が書ける。これなら2、3人程度なら十分使い物になるだろう。アストレアに褒められて嬉しいのか、ほんのり頬を染め照れ笑いを浮かべるキルケ。


「おーい、キルケ兄ちゃーん!」

 ふと、子供の声と共に走ってくる足音が聞こえてくる。音のする方へ顔を向けると、泥だらけの幼い少年がやって来た。キルケを見るなり、飛びつくように彼へと抱きついた。キルケは制服が泥で汚れるのを気にすることなく、彼を受け止める。

「バリン!」

「キルケ兄ちゃん、出来たんだな!」

 バリン、と呼ばれた少年は出来上がった黒板と綺麗に整備された辺りを見て、にっこりと笑う。きっと彼からテラコヤ計画のことを聞いていたのだろう。2人の成果をバリンも楽しそうに見つめている。

「明日から始めるつもりだから、お友達も呼んでおいで。えっと、この子はバリン。貧民街に住んでいる子供で僕の友人」

「おう! なー、ところでこの姉ちゃんはキルケ兄ちゃんのコイビト?」

 バリンはアストレアを指差すと、キルケに向かって質問をした。彼にしてみれば、ほんの好奇心、というか純粋な疑問だったのだろう。


 だが、そういう手に慣れていないアストレアは顔を真っ赤にして「コイビト……」と、呪文のように言葉を繰り返すしかなかった。ちらり、とキルケの方を見ると同じように顔を赤くしてバリンに説明している。

「か、彼女は僕と同じ学院の生徒で、えっと仲間なんだ!」

 しどろもどろになりながらバリンに説明するが、少年は分かっているのかいないのか、曖昧な返事をするだけだった。きちんと誤解を解いているといいけど、とアストレアは思う。


(恋人って言われただけで、何でこんなに恥ずかしいのかしら? わたし、元々婚約者がいたのに)

 婚約者に対してそういった情を一切持っていなかった、ということなのだろうか。婚約者でもあり幼馴染だったシャルーシャ公とは仲も良かったはずだ。もちろん、婚約が決まったことは嬉しかったし、彼のことは嫌いではなかった。でも、キルケとは違う。ただ、何が違っていて、アストレアがキルケに対する感情の起伏が何なのかは、まだ分からない。


 自分の中にあるキルケへの感情はただの友情なのか、それとも。

 アストレアはそこまで考えたが、首を振ると頬を叩いた。

(考えても仕方のないことだわ、今はテラコヤ計画を進めるのに集中しなきゃ)

 ようやく学院長から許可が下りたのだ。図書委員として活動できる時にしておかないと、いつ喰われても逃げ切ることが出来ないだろう。

 この学院の委員会同士の対立はどのようなものか、まだアストレアは理解していないがきっとのんびりしていられるものではないのだろう。


「おーい? アストレア嬢?」

「あ、ごめんなさい」

「どうしたの、考え事?」

「ええ、まあね。さあ帰りましょうか」

 またね、と手を振るバリンと別れて、2人は学院へと戻って行った。


 学院の敷地内に入ってもキルケは女子寮まで送る、と言ってくれた。学院内だけなら1人でも問題ない、とアストレアがやんわり断るが校外学習での一件があるのか、キルケはアストレアから離れようとはしなかった。

 むしろ、過保護になりつつあるような気がする。

 どれだけ言ってもキルケが送る、と言って聞かないので甘えて送ってもらっているとキルケが質問をしてきた。

「そういえば、アストレア嬢はどんな授業を取っているの?」

 どうしてそんなことを? と目で聞くと彼は照れ臭そうに頬をかきながら、校内で会ったことが1度もないから気になって、と返す。その様子を見ていると勘違いをしてしまいそうで、アストレアはすぐさま目を逸らした。

「わたしは魔法学とか、魔法中心の授業を選択しているの。キルケは?」

「僕は剣術学とかかなぁ」


 キルケは剣の腕を磨きたいらしく、戦術や武器の扱いや製造といった授業を専攻しているらしい。

「取っている授業の中でもどれが一番好き?」

「わたしは勉強そのものが好きだから迷うけど……そうねぇ、面白いという観点で言えば薬草学かしら。内容も勿論なのだけど何より先生がとっても面白くって。シビレ草を素手で触ってはダメ、って説明しながら先生が素手で触って痺れて、そのまま授業を終えちゃったこともあるの」

 アストレアが楽しそうに話しているのをキルケも笑って聞いてくれていた。


「薬草学といえば、ディアン先生だよね。あの先生、環境委員の顧問もやっているんだけど、よく、喚き草を雑草と間違えて引き抜いちゃって委員長に注意されているんだって。先生なのにおっちょこちょいだよね」

「環境委員の委員長?」

「あ、アストレア嬢はまだ知らないかもね。このコント・ド・フェ学院の三大美女にも挙げられるほど美しい人なんだ」

 何故かズキリ、と心を抉られるような感覚になる。ただ世間話をしているだけなのに、どうしてだか不快な気持ちになった。聞きたくないのに勝手に口から言葉が飛び出る。


「キルケは、やっぱり美しい女性と結婚したい?」

 アストレアの突然の質問に困惑しているのか、目を見開きじっと彼女を見つめてくる。それがたまらなく居心地が悪くて、今すぐにこの場から逃げ出したいのに体が言う事を聞かない。足が地面に繋がれたように、凍りついたように動かない。何故、こんな言葉が口から出たのかアストレア自身も分からなかった。


「僕は……どうだろう。容姿はあまり気にしないかな」

「そうなの」

 それ以上は聞けなかった。自分でも分からないくらいに、落ち込む。

(何でわたし落ち込んでいるのかな……)


「あ、もう女子寮近くについたね」

 気がつけば薔薇園を通り抜け、女子寮のすぐそばまでやって来ていた。男子生徒であるキルケがあまりここにいるところを見られるのは良くない。早くこの場から離れねばと、アストレアがお礼を言って部屋に戻ろうとした時だった。力強くキルケに腕を掴まれた。驚いて彼を見ると、必死な表情をしたキルケが何か言いたそうにアストレアを見る。


「アストレア嬢……僕、感謝しているよ。君が委員長になってくれて。心から感謝しているよ」

「キルケ……。お礼を言うのはまだ早いわ、まだ結果を出していないもの」

 図書委員が生徒会への傘下の危機が無くなるまで、責務は果たしたとはいえない。そうアストレアは思っていた。もし、傘下を免れたとしても安定するまで委員長を名乗れない。

 自分の放っておけない性格上、そして自由に本を購入する権利に釣られて委員長になったものの、今はだんだんと図書委員の委員長としての誇りが芽生えていた。

 いつか胸を張って、堂々と名乗れるようにしたい。アストレアは夜空を仰ぎながらそう思う。


 キルケに向かって笑顔を見せると、彼は哀しそうに微笑みそっと腕を離した。

 今度こそおやすみなさい、と言い残しアストレアは寮へと帰った。

 彼に掴まれた腕が熱を持っていた気がしてそっと触れてみる。

(この気持ちは……一体何なの?)


最後までお読み頂き、ありがとうございます。

お気に入り登録、感謝申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ