↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

プロローグ:御手洗正

「……なんだ、この無様な点数は」

ベチィン!!!と、鼓膜が破れるかと思うほどの衝撃が、16歳の御手洗正の頬を弾いた。

冷たいフローリングの床に視界が激しく揺れ、正は自分が印刷したばかりの定期考査の結果シートの上に倒れ込む。

シートに印字された点数は『98点』。学年順位は『1位』。

「よくこんな恥ずかしい点数で我が家の敷居を跨げたな。お前がそんな無能だから、私の顔に泥が塗られるんだ。次の模試で100点以外を持ち帰ったら、お前の籍をこの家から抜く。目障りだ、消えろ」

父親は、正の顔を一瞥もすることなく、冷酷な声だけでそう吐き捨てて書斎の奥へと消えていった。母親は、その様子をリビングのソファーから無関心そうに眺めながら、スマートフォンの画面をいじり続けている。誰も、正の言葉を、正の努力を、正の存在を、見てはいない。

腫れ上がった頬を押さえながら、正は床に散らばったシートを血が滲むほど強く握りしめた。

(僕が悪かったんじゃない……。世界が、周りが全部間違ってるんだ。僕を認めない奴が、僕より上の点数を取る可能性のある奴が、全部悪いんだ……!)

翌朝、正はいつもの「品行方正な優等生」の仮面を貼り付け、学校の門をくぐった。

秋の冷たい風が吹き抜ける校庭。その中で、正の目はある一人の男子生徒を正確に捉えた。

クラスメイトの飯田だ。

飯田は手元の参考書に目を落として熱心に勉強している。父親の冷酷な言葉が、正の脳裏に激しい警報のように鳴り響く。

(飯田……お前だ。お前が次の試験で僕の前にいられたら、僕は本当に終わる。……消さなきゃ)

正はポケットから、あらかじめ用意していた一枚の小さな紙切れを取り出した。

自分の筆跡から絶対に足がつかないよう、自室の個人用ノートPCで無機質な明朝体フォントだけを印字し、自宅でひっそり切り出してきたメモ。そこには短く、こう書かれている。

『放課後、旧校舎裏へ来い。来なければ、あの動画を全校生徒に共有する』

飯田の真横を通り過ぎるその一瞬、正は誰にも見られない死角で、そのメモを飯田の参考書の間にスッと滑り込ませた。

「え……?」

驚いて顔を上げた飯田と、一瞬だけ視線が交差する。

正はいつもの品行方正な笑みを浮かべたまま、声は出さず、口元の動きだけで「見ろ」とだけ告げた。

飯田が震える手でメモを開き、みるみるうちに顔面を蒼白にしていく。その絶望に染まった顔を見て、正の胸は歪んだ全能感で満たされていくのだった。

(そうだ、怯えろ。僕を脅かす奴は、全員僕の足元で這いつくばっていればいいんだ……)

何食わぬ顔で教室へと向かう正。

だが、その背後から、自分たちを見つめる「2つの鋭い視線」があることなど、この時の彼は知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。