第3章 [28]
晩夏月の最終3日間で行われる王都最大の祭、夏越祭を間近に控え、街もどことなくいつもとは違う雰囲気をまとっていた。
通りを行き交う馬車は増え、普段はあまり見かけない服装の人々、つまり異国人や外からの冒険者達、そして王都守備隊の騎士達の姿を多く見かける様になった。王都守備隊員達にとっては年間で最も過酷な3日間がこの後控えている訳である。
そんな中、サティアナとナギア、そしてラウラの3人はお目当ての場所に向かって歩いていた。
「私たちが担当するエリアって、この辺りも入っているんだよね?」
ナギアがサティアナに質問した。
「うん。」
「この辺りは食べ物屋さんの露店が多くて、毎年祭の期間中は小さな問題が多く出るらしいわ。」
「小さい問題って…?」
「小さな問題とは?」
「去年も私はこの辺りの警備に回されたのだけれど、保護者とはぐれてしまった迷子とか、お腹を空かせた子どもが露店の食べ物を盗むとか、外国の通貨で買おうとする客側と露店側が揉めたりだとか。」
「そうなのですね…」
「保護した迷子はその後どうするんですか?」
「最寄りの王都守備隊の番屋に連れて行くのよ。そこで簡単な調書を取ったら、迷子の子どもは最寄りの孤児院で保護者が来るのを待つの。」
「ああ。そういう流れなんですね…」
「外国の通貨しか持っていない人はどうなんですか?」
「王都守備隊の番屋に両替屋さんが詰めているから、そこへ案内するのよ。」
「子どもの盗人は…?」
「それは個人の匙加減で良いのではないかしら?…例えば私ならぱ、腹を空かせている貧しい子どもを捕まえたりは出来ないわ。悪い事は悪いと叱って、あとは一緒においしいものを食べたらいいんじゃないかしら?」
「それは良いですね!」
「私もそうすると思います。」
「ええ、そうでしょう?」
「「はい!」」
王立アカデミー騎士養成学部の幹部騎士養成修養クラスとビッグスター養成修養クラスの生徒は、夏越祭の期間中、学年にかかわらず全員が王都守備隊に仮編入され、王都を警備するのが慣わしであった。
ちなみに騎士養成クラスは圧倒的に人数が多いため、希望者は王都守備隊の上層部による面接試験を経て合格者のみ仮編入されるのである。この時面接に合格した者は、アカデミー卒業前の王都守備隊の入隊試験において少々優遇されるのである。それゆえ夏越祭の仮編入を希望する騎士養成クラスの生徒は少なくないのであった。
ビッグスター養成修養クラスにおいて、全学年を通して現在在籍者を有するのは2クラスのみ。合計12人の学生たちである。
その中で女子は全部で5人。そのうち、シャルロッテは王女であり護衛対象者となるので王都守備隊への仮編入は不可。
残る女子生徒であるラウラ、サティアナ、ナギア、エミリーはスターホルダーという特異性もあり、4人セットでの配属先となっている。
「ラウラ先輩は、昨年はどの様な配属だったのですか?クラスの皆さんでセットだったとかで?」
サティアナが質問した。
「いいえ、クラスの男子とは違う班だった。去年は騎士養成クラスの女子何人かと組んだのよ。いくつかの班が合同で動く時以外、男女混合というのは騎士隊ではほぼ無いのだと教わったわ。逆に救護班では、怪我人を運んだり湯を沸かしたり、あと救護対象者が男女どちらの場合でも動ける様にするため、基本的に男女混合なのだと。」
「なるほど…。勉強になります!」
何度か話す機会を経て、ラウラに対してだいぶ落ち着いて対応出来る様になって来たサティアナであった。
そんな風に話しながら街中を歩き、目当ての店の前にたどり着いた3人であった。
「――あ、着きました。ここですね。」
「「喫茶 キャロル…」」
「今日のおすすめは…鶏もも肉の香味焼き!!美味しそう!」
「デザートは…季節のミルフィーユ…?何だろうね?」
「とにかく中に行きましょうか、楽しみだわ。」
入口の扉を開けると、「いらっしゃいませ」と店員さんが迎えてくれた。
サティアナが予約している旨を伝えると、そのまま奥の個室に3人は通された。
「さてと。じゃあそれぞれメニューを見て決めましょう!何にしようかな〜?」
「ねぇサティアナ、前に来た時美味しかったって言ってたの、どれだっけ?」
「ん?ああ、えーとパイの包み焼きシチューは…あら、無いねぇ。…もしかして、いまの時期は無いのかも知れないなあ。…あ、このオムライスは妹が注文していたけどとても美味しそうだったよ!」
「そっかぁ。じゃあ私、それにしようかな!ラウラ先輩は決まりましたか?」
「私は…本日のおすすめにしようかしら。」
「私は今日は、肉と野菜の焼き合わせにします!」
店員さんに食事の注文をしてから、もう一度メニューを見直し、食後のデザートについてソレも良いコレも良さそうだとおしゃべりをする3人であった。
この店を選んだ理由、つまりキャロライン・パッカーの事をサティアナがひと通り説明し終わる頃、料理が運ばれてきた。
「おまたせいたしました。」
店員さんが順次運んでくる皿の上に視線を釘付けにしながら、料理を待つナギア。結局3人の中で一番最後に自分の前にオムライスの皿が差し出されるまで、とても嬉しそうに他の皿を眺めていた。
「どれもとても美味しそう!!オムライス、中を見るのが楽しみね!!」
「では、いただきましょう。」
「「いただきます!」」
それぞれ自分の選んだ皿に最初の一匙を入れた。
「「「んんーーー!!」」」
(お肉、美味しい!!赤いのに臭みがほとんどない!それと、このソースがまた食欲を誘う!!)
サティアナは、付け合わせのじゃがいもを頬張り、口の中を空にするとまた肉を頬張った。そうやって無限になりそうなところであったが、そこはぐっと我慢して、いったん水を飲んだ。
「ナギア、美味しい?」
「うんうん!玉子がトロっとしていて、上にかかっているソースは濃厚で、こんなの初めてだよ〜!とっても新鮮な卵なんだね〜。あと、中のお米がとても良いの!お米ってあまり食べないけど、クセになりそう。野菜もお肉も入っていて、バランスも良いのね!」
「ラウラ先輩はどうですか?香味焼き。」
「とても美味しいわ。皮がパリっとしていて焼き具合も上出来ね。香味とソース、それから付け合わせの相性も良いわね。このお店、最高よ。」
上品さを保ちながらも、次々に口へと運ぶラウラのその仕草に、よほど美味しいのだろうなと心の中で微笑むサティアナであった。
皆さま、いつもありがとうございます。
仕事の忙しさとともに頭の中が忙しなく、こちらの引き出しに鍵がかかってしまい、更新が遅くなりました。ごめんなさい(_ _;)




