第3章 [25]
「殿下、褒めてくださりありがとうございます!でも実は…双剣を使っている人が周りになかなかいなくて、いまは少し停滞ぎみでして…。」
珍しくナギアがため息をつきながら泣き言を吐いた。
「おや、そうであったか。ふむ、オルシュ、たしかポリッシュ嬢が双剣使いであったな?」
「はい、剣の種類は違いますが。」
「ならば少しは助けになるだろう。ふたりとも私についておいで。」
アーサーに促されて、サティアナとナギアは彼らについて行った。
アーサーはラウラのそばまで行くと、そのまま彼女に声をかけた。
「ポリッシュ君、いま少し良いかね?」
数人で話しの輪を作っていた中から、ラウラが抜けてアーサーの前に立つ。
「御用でしょうか?アーサー殿下。」
サティアナが見たことのない、完全に作られた笑顔のラウラがそこにいた。笑顔が逆にすこしだけ怖い。話の輪から抜けなければならなかった事に対しての笑顔だろうか。
「ああ、そのなんだ、こちらのレンジ嬢がね。なかなか他の双剣使いに会うことが出来ないと困っていたので、ぜひとも君を紹介したくてね。ははは」
アーサーもほんのすこし気まずそうにしていた。
そんなアーサーを助ける様に横からオルシュが口を出す。
「彼女とは剣の種類は違えども、君も双剣使いだ。先輩として後輩にアドバイスをしてやってほしい。普段はどの様な剣の訓練をしている?」
オルシュの言葉でラウラも納得した様である。
アーサーの顔も立ち、ナギアとサティアナもほっとひと息ついたのだった。
「私の剣はこれよ。貴女の剣も見せてもらえるかしら?」
「私はこんな感じです。」
ラウラとナギアで剣に関してのやり取りが始まると、それに安心した王子とその右腕はまたどこかに消えて行き、サティアナはその場に残されたのだった。
ナギアとラウラのおしゃべりに何となくついていきながら、サティアナはラウラを良く観察することができた。
(私よりも少し背が高い…)
(私よりも少し華奢だな…)
(あの剣、どちらにも魔石が付いてる…何か魔法が付与されてるのかな…?)
(私よりも長くて凄く綺麗な髪…)
(あの髪飾り、良く似合ってるな…)
(ラウラ先輩、アーサー殿下がいなくなってからの方が話しやすそう…?)
(殿下がいて緊張してたのかな…?)
そんな事を考えていたサティアナにふたりが声をかける。
「「――――ねえ、サティアナ?」」
「ん?!あ、ごめん聞いてなかった。なに?」
少し焦るサティアナである。
「サティアナの演武の最後の踏み込み、あれって強化の魔法使ってるよね?」
「それだけでは無くても所々強化の魔法だと見受けられるものがあったわ。」
「うん、はい。3つ目の踏み込みの型と、後半の飛び上がる所、そこから飛び込む所、最後の突き上げる所も強化魔法を取り入れてましたね。」
「え?空中でも使えるの?」
「あそこも魔法で底上げされていたのね。そのやり方、ちょっと詳しく聞きたいわ。」
「うんうん!」
「あ、はい。ええと、私が使ってるのは筋力増加の強化魔法に風魔法を組み合わせているんですけど――」
「「え…?!」」
「え?」
「複合魔法ってこと?!それじゃアタシには無理だよ〜!」
「ううん、複合魔法じゃないよ。複合魔法は発動に時間がかかってしまうから、そうじゃなくて簡単なふたつの魔法をほんのすこし時間差を付けて使ってるの。」
「それでも高度な事に変わりはないわ。ちなみに、強化魔法は全身にかけているのかしら?」
「はい。脚部だけだと消費魔力は少なくて済みますが、風の魔法を使う反動で上半身が疲れてしまうのです。」
「なるほどね。」
「じゃあ、風魔法使わないなら脚だけ強化魔法使えばいいってこと?」
「うん。でも多分、風魔法使わないなら、むしろ身体全体に強化魔法を使ったほうが余す所無く脚力を引き出せるんだとは思う。全身運動をする時は部分的にでは無くて全身を強化させた方が良い。魔力消費を抑えたいなら、その時間を短くする方に努力するべきかなって。」
「それって魔力操作の話になってくるんだよね?私の苦手な分野〜…」
「あはは。ナギアは結局、そこをやらなきゃダメなんだろうね〜(笑)」
「むむむ…」
「風魔法はどの様に使っているのかしら?足の裏に集中させるの?」
「はい、足の裏から足首辺りに意識を集めます。それでええと、飛びたい方向と距離に対して自分の体重を加味して少しだけ角度を出してかけます。」
「それはまた…高度な事を。正直、今日だけでは時間が足りないわね。ねえサティアナ。明日の放課後、お時間取れるかしら?」
「え!あ、はい…大丈夫ですが…」
「踏み込むときの強化魔法と風魔法について時間をかけて話が聞きたいわ。」
「それでしたら、ラウラ先輩の剣術スタイルを見てからの方が良い話が出来そうですので、ぜひナギアも一緒に良いですか?ナギア、明日時間取れる?」
ラウラといきなり二人きりのシチュエーションに対して全く慣れそうもなかったサティアナは、機転を効かせてナギアを巻き込むことにした。
「大丈夫だよ!私もラウラ先輩の剣術見てみたいです!」
「わかったわ。じゃあ明日の放課後、第二屋外演習場でどうかしら?使用許可は私が申請しておきましょう。」
「「ありがとうございます!」」
次の日の約束をしたところでその日は定刻となり散会となった。
その晩、アンハードゥンド別邸でサティアナがソフィアナから質問攻めされたのは言うまでもない。




