第3章 [19]
その晩、サティアナは両親に対して手紙を書いた。
ひと月に二度ほど王都と領地を往復する、いわば定期便の様なものである。
父マティアスに対しては、もちろんアーサー第二王子からの打診の件に対する相談である。武術・魔法術研究披露会の件と、アーサーに型稽古をつける件の2つである。
母ルイーズに対しては、これと言って特筆すべき内容はないが、サティアナが王都で過ごした日々の感想を記したり、また領地の様子などをルイーズにうかがったりする内容である。サティアナが父親にばかり手紙を書いていると母親が寂しがるので、父親に手紙を出す時は短くても良いので必ず母親にも手紙を書く事にしているサティアナなのである。
サティアナの細やかな心遣いは彼女の両親にとって大変嬉しいものであり、娘から届いた手紙を、頃合いを見て夫婦お互いで交換して読むことは楽しみでもあり、また忙しいマティアスとルイーズにとっては貴重な夫婦の時間でもあった。
あくる朝、サティアナが教室に入るとエミリー・スパイラルが心配そうな表情でサティアナに声をかけてきた。
「おはようサティアナ。昨日の執務室は何だったの?叱られたりしていないのよね?」
「おはようエミリー。うん、叱られたりしていないよ?心配かけちゃった、ごめんね?」
「それなら良いのだけれど。…それで?じゃあ何だったの?」
「ええ、それがね…執務室に入ったらそこに誰がいたと思う?」
「なに?オルシュ・テンパー様じゃないの?」
「違うの、テンパー隊長もいらしたのだけれど。…まさかの第二王子殿下がいらしたんだ!」
「アーサー王子殿下が?なぜ?」
「それがね、話せば長くなるのだけど―――」
サティアナは、エミリーに事の次第を説明した。そのタイミングで教室後方にいたオリバー・カットが仲間に加わる。
「―――なるほどねぇ。何ていうか、やっぱり貴女って。良くも悪くもデュアルホルダーなのだわ。」
「ん?」
「どういう意味だ?」
サティアナとオリバーが揃って首をかしげると、それを見たエミリーも口をへの字にしながら首をかしげて言った。
「目立つってことよ!」
「えー、目立ちたくないのに!」
「無理よ。」
「無理だな。」
「え~~~!」
「まぁいいわ、そんな貴女を手助けするのも、同じクラスになった私たちの醍醐味でもあるのだろうし、困った事になったら言いなさいよね?」
「そうだな。俺も手助けするぞ。さしあたって、君の剣舞とやらを俺にも見せてくれ。興味がある。」
「私はそれほど興味は無いけれど、そうね、見ておく必要はありそうね。」
「ありがとうふたりとも!持つべきものは優しき級友だあ〜。」
その後、エミリーとオリバーに話した事をもれなく級友全員に話すことになるサティアナであった。
――――――――――
数日後の昼休み。めざめの神殿前の休憩場所。
サティアナはクラスメイト全員が見守る前で、型稽古を始めた。
一の型は身体を解すための体操なのでそれは省き、二の型である体術の型から始めた。体術の型稽古なので、武器は持たない。目の前に敵がいる仮定のもと、攻守を織り交ぜた型稽古となっている。
二の型稽古が終わるとそのまま三の型に移る。サティアナは自分の剣を持ち、稽古を始めた。
三の型の前半はしっかりと剣を振る文字通り型稽古であるが、後半は二の型と同じく目の前に敵がいる仮定のもと、攻守を織り交ぜた造りになっている。
後半の、舞う様に流れるそれはサティアナが今まで研鑽を重ねた証拠であった。全ての動きに意味があり、それが大変に洗練されていた。
サティアナを見守る級友達は声を出さなかった。出さなかった者もいればサティアナの剣舞に魅入ってしまい声を出せない者もいた。
稽古の最後に胸の前で剣を立てると、一礼をして型稽古は終了した。
誰よりも先に拍手をしたのはシャルロッテの護衛である、ガイ・プーリーであった。
「初めて見る型だが、とても素晴らしかった。」
普段滅多に話さないガイが、サティアナの型稽古を興奮気味に褒めたのには、その場にいた全員が意外に思ったのだった。それはシャルロッテも例に漏れず。
「あらまあ…ガイにも驚きましたが、サティアナにも大層驚きました。師と共にこんなに素晴らしいものを作るなんて!わたくしが剣使いであったなら、確かに我がものにしたいですわ。アーサー兄様がご執心なさるのも頷けます。」
皆シャルロッテの意見に同意していた。
「少し内容を変えてみても、女性や子ども達への稽古型としてもとても優秀なのではないかしら?」
と、エミリーが感想を述べると、
「ねぇサティアナ、私も習いたい!!」
ナギアが挙手した。
「もちろんナギアになら教えてあげるよ!でもこれを王族の殿下に教えるというのは…」
サティアナが核心に触れる。
「……こういうのはどうだ?殿下に放課後の活動として研究会みたいなものを作ってもらう。会長はもちろん殿下だ。そして、志を同じくする者たちが集まる。その中でサティアナの考案した型も取り扱うんだ。これなら学生のやった事、で納まるんじゃないか?殿下の御立場も問題ないだろう。」
エイデン・クエンチが提案してくれた。
「それは良いかもしれない!ありがとうエイデン!父上にうかがってみるよ。」
サティアナが明るい表情でエイデンに感謝を述べた。
「ではその旨をわたくしの方からもアーサー兄様にそれとなく進言してみましょう。そのうちまた兄様から接触があるかもしれないわね。」
「シャル様、そんな、宜しいのですか?」
「それくらい宜しくてよ!たまにはわたくしにも手伝わせてちょうだいな?」
人差し指でちょんとサティアナの肩をつつきながら、シャルロッテがわざとらしく流し目を送った。
(うっ!また、いきなり破壊力抜群の殿下です……)
それを正面から受け止めたサティアナは、笑顔とは裏腹に、心の中で悶えるのだった。
更新に時間が開いてしまい、申し訳ありませんでした…




