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9枚目 前夜

「勝て……た?」


 ロイは放心していた。まだ現実を飲み込めていない。だいたい現実逃避するときは、自分にとって良く無いことで起こるが、ロイの場合はあり得ないことで起きていた。


「おう! 勝ったなロイ!」


 帰ってきたルムとハイタッチを交わす。

 決闘が終わったからか、その体は少しずつ白くなりカードに戻ろうとしていた。


「あはは……まだちょっと信じられないよ。僕が一回戦進出なんて」

「なーに弱気なこと言ってんだ、まだ、一回戦なんだよ」

「そうだよね、まだ一回勝っただけだもんね」


 身長差を埋めるためルムが背伸びして、ロイと肩を組む。


「安心しろ! また勝てるって!」


 そう言い残してルムはカードに戻った。

 残ったのはロイ1人で、手元には【天龍の少女ルム】のみ。


「……ありがとう」


 そう言ってロイは相棒をデッキに仕舞った。





 ーーーーーーーーーーーーーーー





 そこからロイとルムは、破竹の勢いと言っても過言ではなかった。

 初戦の勢いそのままに、予選を勝ち進む。

 多用するのはルムからトーラを出すコンボを主軸にビートダウンを決めていく戦法。最速で後攻2ターン目に出てくるカードとしては最強クラスだろう。


「明日はいよいよ決勝。これを勝てば本戦だ。気を引き締めていくぜ」

「僕はもう胃が痛くなってきたよ」


 そう、なんと万年敗北の落ちこぼれが予選を突破し、2ブロックの代表になろうとしていた。少し前のロイなら信じられないような出来事だが、ロイもまた。この少女と一緒なら出来そうな気がした。


 現在、下校時間。自宅への道を歩いていた。今ルムは実体化し隣を歩いている。目立つ容姿なので注目を集めかねないが、ルムは窮屈といって学校外では出てしまう。


「このドキドキが心地いいんじゃねえか」

「君おかしいよ」


 ルムは基本的にバトルジャンキーだ。ロイにはそれがいまいち理解できない。


「ルムはその、なんでそんな楽しめるの?」

「前にも言ったが別に死ぬ訳じゃ無いし、普通にあっちの世界で似たようなこといっぱいしてきたからな」


 ルムは元いた世界に思いを馳せる。

 そういえばルムが前の世界でどんなことをしてたかロイはあまり知らない

 少し興味本位で聞いてみた。


「あっちでのルムはどんな感じだったの?」

「べっつにー。特別でもなんでも無い。ふっつーの男子高校生」


 ルムは腕を自分の頭の後ろに回す。


「こっちでいう決闘みたいなのが向こうにもあってそれが好きだったくらいかな。それだけだよ」

「そっか。すごいなぁルムは。僕ならそんなのできっこないよ」


 ロイの表情が暗くなる。


「僕なんか弱いしすぐ落ち込むし。ここまできたのだって君がいたからだし」

「ほんとなー」

「うぐっ」


 からかうように笑いながらはっきり言う。


「でもロイもすげーよ」

「えっ?」

「正直成長は早い。落ち着いてやればどんな相手だって勝てるさ」

「そ、そうかな……」


 ロイが照れて頬を掻く。あんまり褒めない彼女が褒めてくれたことが純粋に嬉しかったのだろう。


(元が低すぎて相対的に普通になっただけだけどなー……)


 という言葉は飲み込む。

 喜んでいる彼にそんなことを言うのは無粋だ。

 冗談を言い合いながら帰り道を歩いていると



「むごっ!?」

「きゃっ!?」



 路地裏側を歩いていたルムに誰かが飛び出してきてぶつかった。

 上がった声からして女性だろう。


「ごっごめんなさい!」

「いてて」


 ロイが視線を向けると、ロイと同い年くらいの少女がルムに抱き付くような形で密着していた。

 よく見るとその少女もかなりの美形なので、ルムと並んでいると非常に絵になる。


「大丈夫? 怪我はな……きゃああ可愛い!」

「むごっ!?」


 今度は黄色い嬌声が上がった。






「はぁ〜すっごい抱き心地」

「そろそろ離してくれませんかね……」

「ああ! ごめんね?」


 ぐったりした声で言う。

 ルムは絶賛ハグ中だ。少女との身長差はちょうど頭ひとつはあるため、まるで抱き枕のよう。

 ようやく落ち着いたのか、やっとルムを腕の中から解放する。


「ごめんなさい。私可愛い子には目がなくて……」

「そっすか……」


 すっかり萎縮したルムがロイの後ろに隠れる。

 その仕草に少女がまた手をわきわきさせて近寄ると小さく「ひっ」と小さく漏らす。


「あの〜そろそろ……」

「あっ。そ、そうね!」


 こほんと咳払いをして誤魔化す。


「私の名前はフィラルシア。……気軽にフィルって呼んでね!」


 先ほどのだらしないにやけ面から、キリッとした表情できめる。もちろん今更取り繕ってももう遅い。2人の警戒度はマックスだろう。

 なによりフィルの格好もなんだか怪しい。暗めの服の上に全身を隠すようなフードのついたローブ。腰まではありそうな長さの水色がかった灰色の髪、整った顔立ちにまるで似合っていなくて、まるで変装しているかのよう。


「僕はロイ」

「……ルム」


 聞かれてもいないのに勝手に名乗り出すフィル。

 ロイ達に答える義理はないが、いかにも「名前を教えて!」と言う顔をしている。


「ルムちゃんかぁ〜可愛い名前だねえ〜!」

「くんな!」


 隙あらばルムに近寄る。ただの変質者である。


「ロイ君はこの子のお兄さん?」

「えっ? ……そうです」


 ルムの身の上は少々特殊なため、外でいるときはなるべく全く似ていない兄妹で通そうということになっている。


「えー!? いいなぁ! こんな可愛い妹、私も欲しかったよぉ!」

「ははは……」

「笑ってねーで助けろお兄ちゃんよぉ!」

「私のことはお姉ちゃんでいいからね!」

「呼ばんわアホ!」


 中身が健全な男子のルムに、このような扱いは少々堪えるようだ。

「はっ! もっとルムちゃんとお話ししていたいんだけど……今日はすっごい忙しいからまたね!」


 何かを思い出したのか大きな声をあげる。


「じゃーね! また会おうねルムちゃん!」

「はやくどっかいけ」


 手を振りながらどこかへ走り去っていくフィル。完全にロイは眼中になかった。


「なんだあいつ」

「綺麗な人だったね」

「お前今の見てそれが感想なの?」


 ルムにとって異常に疲れる帰り道となってしまった。











 とうに日は暮れ、夜になった時。


「……帰りました」

「フィラルシアか」


 ()()()()廊下。そこには先ほどルムに対してだらしない顔を向けていたとは思えないフィルがいた。表情は暗く、どこか浮かない。

 その視線の先にはこの屋敷の主であるセルジオが。


「門限はとっくに過ぎているぞ」

「……すいません」

「ふん。今日ははやく部屋に戻って寝ろ」

「……はい」


 厳しい口調でフィルに言い放つセルジオ。

 会話はそれだけで、突き当たりの執務室に入ってしまった

 扉の前でフィルは立ち尽くす。


「おやすみなさい」


 その声は細く、おそらく中のセルジオには決して届いていないだろう。

 どこか悲しげで、どこか寂しげで。


「……お父様」


 小さく呟いた。













 予選決勝当日。試合が開催される決闘施設控室。

 ルムはデッキの中でスタンバイしている。


「いよいよだな。大丈夫か?」

「もう心臓止まったから平気」

「死んでるじゃねーか!」


 冗談を言えるなら案外平気なのだろう。それとも無理やり言って空気に飲まれないようにしているか。

 ここからでも観客のざわつきが聞こえる。あの落ちこぼれのロイが勝ち進んでいるので、少なからず話題になっているからだ。


「行こう」

「……おう!」


 その顔つきは出会った時よりも落ち着いていて、頼もしかった。

 ロイは控室の扉を、開けた。



 反対側の入り口。視線の先にいる対戦相手は、ルムも知る人物だった。


「よぉ、ロイ。あんときの借りはきっちり返させてもらうぜ?」


 ルムが初めて戦った相手、いじめっこのガインであった。

感想とか気軽にどうぞ

あっ、そうです見てください、フォロワーの方からファンアートもらったんですよ!見てくださいこの可愛いルムちゃんを!

挿絵(By みてみん)


なつのみ@NA_TSU_NO_MI ‬さんありがとうございます!ありがとうございます!余裕で本家超えてるんやで!

小説書いててよかったって! 心の底から思いましたよ!うぇええい!

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