9.教えて
今回は、ちょっとシリアスめになってます.
ですが、シリアスだから構えずに気楽に読んでいってください.
「ミズ子ちゃん…!」
「んぐぐぐん…//」
恋人たちは手と手を取り合いながら2人だけの世界に入り込んでいる.
置いてきぼり感がハンパない.
ぼーっと2人の様子を眺めていると、強い力で腕が引かれた.
!?
声を出す暇もなく部屋の外に連れ出された.
「何で出るの??」
ズビシッ、勢いよくデコピンをされた.
痛ったい、非常に痛いんだが.
睨み付けると、また口だけ動かして犬島は言った.
“せっかくなんだから、邪魔しちゃ悪いでしょ.”
そういうことか.
リビングに移動し、しばらく本を読んだ.
(もちろん、その間犬島は放置で.)
20分くらい経った頃だろうか.
ふと疑問が頭をよぎった.
「ねぇ.言葉がなくても、話してること分かるもんなの??」
「……分かるよ.」
もう舌の痺れがなくなったんだろう.
犬島は流暢に喋った.
「好きな人が相手なら、言葉なんてなくても言いたいことは分かるもんだよ.」
優しく私のほっぺたを撫で、犬島はいつものように微笑んだ.
“大好きだよ、笑ちゃん.”
そんな風に、口が動いたような気がした.
へへっ.なんて照れ笑いを浮かべ、犬島は頭を撫でてきた.
ダメだ、やめろ.
こんなところで絆されるな私.しっかりしろ.
「……自分でクサい台詞だとは思わんのか.」
「∑えーー!酷いよ笑ちゃん!!」
「ばーか.」
何でだろう、頬っぺたが熱い.
気のせいだ気のせいだ.自分に何度も言い聞かせる.
「笑ちゃん?頬っぺた赤いよ??」
「∑そ、そんなわけないだろ//!」
「でも、熱とかかもしれないし….」
「ああ、タ○ソンの毒気には当てられたな.」
「コラ.」
またデコピンをされた.
地味に痛いから嫌だ.
「くそー….力じゃ敵わん.」
「女の子がくそとか言わない.」
「いいじゃん別に.犬島には関係ないだろ.」
「関係ないって…確かにそうかもしれないけど.流石に傷付くよ.」
「……私のことなんてほとんど知らないくせに.」
「何それ.それならちゃんと教えてよ.」
「…….」
上手く言葉が出てこない.
こんなこと、犬島に言いたくない.
これを聞いたら、何て思う?これを聞いても、私を慕ってくれる??
――お前は、私を傷付けたりしない??
「…笑ちゃん、」
俯く私の手を、大きな手がそっと包み込んだ.
温かい.
顔を上げると、優しく微笑む顔があった.
「大丈夫だから.」
本当??
言葉には出さないが不安な気持ちが顔に出ていたんだろう.
犬島は、私の頭を引き寄せた.
大丈夫、大丈夫.
何度も繰り返しそう言ってくれる.
犬島の肩から伝わる鼓動が何だか心地いい.
「私は、自分のことを女として見られるのが嫌なんだ.」
「どういうこと?」
「女として見られて、告白されるのも苦手なんだ.」
言葉だけでも男っぽくしておけば、好いてくれる人も少なくなるんじゃないかと思った.
強い言い方をすれば、女だからとバカにされることもなくなる.
髪も切った.
格闘技も習った.
スカートも制服以外には穿かなくなった.
「私は、男の人が嫌いだ.」
「うん….」
「男の人が怖いんだ.」
「…うん.」
「きっと、その根本は….」
「もういいよ.辛いでしょ….」
優しく背中を撫でてくれていた手が、今度は力強く抱き締めてくれる.
KY男め.男の人が苦手だって言ったばっかりなのに.
でも、何故だか犬島の腕の中は嫌じゃなかった.
「なぁ、」
「ん??」
「まだ私のこと、好きって思うのか?」
何言ってるの、
ふふっとおかしそうに笑いながら、犬島は続けた.
「変わらず好きだよ.笑ちゃんのこと.」
「…それなら、私に教えてほしい.」
「ん、何??俺が教えてあげられることなら何でも教えてあげる.」
「私がまだ、知らない気持ちを教えて.」
好きって気持ち.
特別って気持ち.
大事にしたいって気持ち.
安心するって気持ち.
全部全部、まだ私が知らない気持ち.
そういう気持ちを、犬島に教えてほしい.
彼なら、私を変えてくれるかもしれないって、頭の中の、もう一人の私が小さな声で呟いた.