タイブレーク5
その日の夕方3人集まったところで新田は「バーボンでもかまわない」と打診してきた。
正儀は「もちろん」と答えた。立野は隣りで笑っていた。
渋谷駅に着くとハチ公の交番の前を通り過ぎ、スクランブル交差点を渡り公園通りに向かった。そして坂をのぼった右側の脇の細い道を入ったところに店はあった。
店の内装は黒と白のタイル張りの床に木製のテーブルとイスがきれいに並べられていた。壁にはアイ・ダブリュ・ハーパーのボトルが棚いっぱい収まっており、天井からつるされた旧式の扇風機が独特の雰囲気を演出している。アメリカンナイズされたクラシカルな感覚がきっと女性に人気があるのだろう、と正儀は感じた。3人は窓際のテーブルに案内された。
新田がふたりに聞いた「水割りにする?」
正儀は「オン・ザ・ロックがいい」と答えると、
立野も「私も氷だけでいい」
それを受けて新田が「氷とおつまみを注文する。ふたりともロックがいいなんてカッコつけすぎじゃない」
すると正儀は「せっかくバーボンを飲むのだからおいしいほうがいいでしょ」と答えると、女性陣は「酔わせてどうする気」と正儀の瞳を見つめる。正儀は「おふたりはそんな隙見せないでしょ」とふたりを見つめ返す。
すると新田が「相手次第よねー」と立野に視線を送る。すると立野が切り込んできた「丸山さんはいままで何人ぐらいの女性とつき合ったの?」
「堅苦しいから正義でいいですよ。そうですね3人ぐらいかな」と答えると新田が「えー、そんなに少ないのうそでしょ」
「うそじゃないですよ。10代はめちゃ太っていてまったくモテなかった」と正儀が答えると、立野が「今のスタイルからは想像できない、苦労したんだ」のことばに正儀は「さほどでも」と答えた。さらに正儀は続けた「おふたりなら素敵なボーイフレンドがいるでしょう。なにか不満でもあるんですか」の問いに新田が「なんでも話せる男は会社にもいる。だけどいつも一緒にいたいとか、この人の子どもが産みたいとか、人生を託すなんて考えたこともない。女には直感があるものなの。うまく説明できないけど、この人、と決めたらすべてなの。他は目に入らない」
すると立野が「正儀は放っておけない、そんな気にさせるのよ」立野のほうを見て正儀は「ありがとう、だけど少し買いかぶりすぎじゃないですか。ふたりは十分素敵だし、どちらかを選べといわれたらきっと答えなんて出ないでしょう。知れば知るほど情は移るし、僕は恋人を外見だけでは選ばない。ふたりでいて一番安心できる人がタイプといえば僕のタイプかな。いいとこ見せようとか、カッコいいとこ見せたいとは思いませんね。むしろ欠点を見せると思うんです、いつも側にいてほしい女性には長所も短所も知っていてほしい。僕は完ぺきな人間ではない、だから恋人と支え合えたなら、という願いがあるんです」すると立野は「ズルーいやり込められた。よし今夜は徹底的に飲もう。まだ7時よ。夜は長いから」