97.殺されたのは弱いからだ
「ほう? あの程度の賊に苦戦する腕前で、随分と大層な口を利くものだ」
挑発する意図をもって言葉を紡ぐ。貴族社会ではもっと包んで、回りくどい言い方が好まれた。だが、ここはお上品な夜会会場ではない。平民が使う宿屋の食堂だった。直接的な言葉ではっきり伝えないと、湾曲な表現は通じないだろう。
「はっ! 酒も飲めねえ年齢のガキが……」
「そのガキに命を助けられたくせに。情けない傭兵の泣き言に付き合ってやるほど、優しくないぞ?」
くすくすと笑いながら煽る。ボスのアロンソが止めようと口を挟むが、払いのけるようにして新人リコはわめき続けた。周囲は酔っ払いだらけの食堂だ。もっとやれと囃し立てる連中ばかりだった。
ああ言えばこう言う。口先三寸で世を渡る貴族相手に、実直で裏を読まない平民が勝てるはずもない。口喧嘩なら、絶対に貴族の勝ちだろう。問題は怒り過ぎた傭兵は手が出ることか。だが、その点でも私はまったく懸念がなかった。
少し離れた場所で大人しく食事をしていた商隊主は、静かに一礼して部屋に引き上げる。それが答えだ。私の勝ちを疑わないし、関与しないことで自分は助かろうとする。商人らしい身の処し方だった。ずる賢さは商人の専売特許だからな。
レグロは止めずに、酒瓶を集めて混ぜている。あれはまだ飲む気だな。
「盗賊を殺したいと思って何が悪いんだ! あいつら、俺の父ちゃんを殺したんだぞっ!!」
ああ、なるほど。道理で皆殺しに執着するわけだ。誰が仇だか知らないが、片っ端から殺す気でいたのだろう。それができる実力がなかったのが幸運なのだが。知らぬは本人ばかりか。
「父親の仇? それがどうした。弱いから討たれたのだろう」
「何をっ!」
椅子に寄せてあった剣の柄に手を置くが、柄と鞘をレグロが掴んだ。ダメだと示すように首を横に振る。逆の手で、数種類混ぜた酒を傾けた。
「喧嘩に武器を出したら、お前の首が落ちるぞ」
「ほう? どうやら……それなりの使い手のようだ」
感心して呟く。リコの手が剣に向かった瞬間、私は袖のダガーに手を伸ばした。同時にベスが髪飾りに偽装した針を手にする。差し込む形をしているが、先端は研ぎ澄まされている。首や耳、目を狙う暗器の一つだった。私のダガーは言うまでもなく、投擲用だ。
「いや、強そうだなと思っただけさ」
喚くリコを放置して、レグロは剣を引き寄せた。新人に味方する気はないが、騒動を起こして仕事がなくなるのも困る。そんな雰囲気だった。
「リコだったか? お前は理解していない。あの盗賊はこの街にもいる普通の父親や兄だ」
「は?」
何を言っているのだ。そんな顔をする若者に、かみ砕いて説明してやった。この街だけでなく、周囲の集落や他の街にもいる。盗賊は出稼ぎ業の一つで、お前の父親がもし出稼ぎで遠出していたなら……同業者だろう、と。




