92.盗賊のおかげで旅費が浮くぞ
意外なことに、ルカは元気なままだった。途中から無茶な走り方をやめ、効率的に速度を一定に保っている。だが、途中で動けなくなることはなかった。
「偉いな、ルカ」
合流した商隊は中規模だった。テントなども持ち込んでおり、多少色を付けて支払って借りることも可能だ。休憩時にテントやテーブルセットが必要な「ご令嬢様」ではないので、商人達と一緒になって道沿いに座り込んだ。
「本家の若様やお嬢様でしょう。テントをお使いになっては?」
「いや、このほうが楽でいい。気にしないでくれ」
商人の申し出を断り、芝のような草に寝転んだ。隣に座るベスは、さすがに敷物を広げている。一応淑女らしい乗馬服なので、色も淡い。汚すと目立つだろう。敷物を広げる手伝いをして、手を貸して座らせる。当たり前のように敷物の端にルカが陣取った。
「こら、お前の絨毯じゃないぞ」
きゅうん、ごろりと腹を見せてくねくねと踊る。腹を撫でさせてやるから、何かくれ。そんなメッセージに思えた。肩を震わせて笑い、保存食の干し肉を少し分けてやる。板状の干し肉を削ぐようにナイフで落とし、ルカの鼻先に置いた。
よだれを垂らしながら、じっとこちらを見ている。悪戯心か、ベスが指で摘まんで引っ張ろうとするも、前脚で固定された。
「よし!」
食べていいと許可を出す。何度か屋敷で訓練しているので、ルカは慣れた様子で干し肉に齧りついた。がうがうと野生の獣さながら、がっついている。
「ベス、手を出すと噛まれるぞ」
「わかっているわ。でも、つい……」
やりたくなるの。後半部分を濁して唇を尖らせるベスの仕草は可愛い。計算してやっているとしても、可愛さに陰りはなかった。休憩が終わるとまた馬に跨る。休憩中に水を飲み、余った時間で草を食んだモニカはご機嫌で歩き始めた。
馬車に同行するため、走るほどの速度はない。そのため、途中で何度か道草を食む護衛の馬が現れた。好きにさせている護衛の様子を見て、眉根を寄せる。こういうときが一番危ない。そう思った私の考えを読んだように、左側の草原から人が走ってきた。
「盗賊だ!」
叫んだ護衛に男が飛びかかり、馬から落とした。馬を奪われた護衛は肩を打ったのか、左手で右肩を掴んだ。呆れ半分で、商人達に声をかける。
「護衛の報酬をケチったのか? どうする」
尋ねる意図より、早く選択しろと促した。選択肢は三つだ。護衛を見捨てて商隊だけ逃げる。ここで戦って生き残る。多少の荷物を渡して引き下がらせる。街道沿いの盗賊は、めったに殺しをしなかった。殺せば追われるからだ。
荷の二割も渡せば、大人しく引き下がる。そのため護衛を雇うより安いと、荷を渡すことを選ぶ商人もいるくらいだった。
「守っていただけたら、到着までの宿代をお支払いする……いかがですかな?」
商隊を纏める男が、取り引きを口にした。宿代を頭の中でさっと計算し、割のいい話ではないと結論付ける。私が答えないため、焦った様子で条件を足した。
「宿での夕食と朝食もお付けします。もちろんお二人分!」
「ルカの生肉も頼む」
一瞬迷った商人だが、すぐに頷いた。




