72.卵が先か、鶏が先か
呆れたぞと顔に書いて、二人を睨む。居心地悪そうなセシリオが「すまない」と詫びを口にした。
「何に対しての謝罪だ?」
「……っ、意地が悪いぞ」
セシリオは口にしたくないらしい。だが、側近として隣に控えるフリアンが代わりに口を開いた。
「騙す形になり申し訳ありません。霊獣様がおられないことで、王家の権力が揺れていました。その時期に本命の令嬢を発表すれば危険であるため、代理を頼みにお伺いしました。そこで、まさかの霊獣ケ・シー様を見つけ……」
「欲が出た?」
「はい」
あっさり白状して謝罪し、己の非を認めた。簡単に頭を下げられない王太子の代わりに、叱られる立場に立候補する。フリアンは及第点だな。王家を支える駒として、弱すぎる。権力だけでなく財力や爵位も使って、相手を黙らせるくらいの強さが欲しかった。
こうして王家が引くから、貴族がつけあがる。これが代々繰り返されたのなら、王家の在り方を根本的に修正する必要があった。無理なら王家のすげ替えが待っている。事実、貴族達はそちらを狙っているのだろう。
傀儡にできる一族がいるのではないか? そこまで考えて浮かんだのが「ロエラ公爵家」だ。幻の第三王子を手に入れ、王家に近い血筋を誇る公爵家。ウルティアに目をつけ挨拶に来るあたりは、如才ない。
まあ、我が一族の本質を見抜けずに帰った御仁だがな。
きゃう……くぅん。首に頬を擦り付けるルカが、甘えた声をあげる。どうやら腹が減ったらしい。獣に人の食べ物を与えていいのか。迷う私を見て、ビビアン嬢が侍女に合図を送った。
「霊獣様の記録はたくさん読みました。食べ物に関しても、事細かに決まりごとがありますの」
来るとわかっていたから用意した。ビビアン嬢の言葉に頷き、用意された肉に目を細める。生ではなく火を通してあるが……まあ、夜会に生肉は並べにくいか。一つ摘まんで口元へ運べば、だらけた態度ながら口に入れる。
「ルカ、自分で食べろ。そうでなければ下げるぞ」
きゃぅう! 拗ねたような声を出し、向きを変えて座った。私に背中を向ける形で、膝の上に寝そべる。半分ほど椅子に落ちているが、本人は不安定さを気にしない。尻尾を揺らしながら、へらりと口を開けた。
「よし!」
合図を送り許可を出すことで、ルカは皿の上の肉に齧り付いた。いつもと違い生ではないことに、がうっ! と不満を表明する。よしよしと撫でながら「帰ったら生肉を用意させる」と伝えたところ、我慢するとでもいうのか。皿の上の肉を平らげた。
「鶏肉のスープで煮た牛肉ではだめなのですか」
少し悲しそうなビビアン嬢に、ルカは生肉が好きだと伝えた。どうやら霊獣ごとに好みが分かれるらしい。納得して頷くビビアン嬢のほうへ、鼻先で皿を押しやったルカは舌を見せて笑った。いや、犬に似た顔なので笑ったと表現するのは迷うが、どう見ても笑顔だった。
愛想と調子のいいやつだ。




