71.霊獣の権威は高いらしい
本命の令嬢がよほど下位の貴族なのか? だが、そうだとしたら公爵家の養女にすればいい。クルス公爵家ならば、すぐに協力してくれるだろう。何しろ、本命を隠すために娘を婚約者候補として差し出したくらいだ。
何より、たかが一貴族が王族のそれも未来の国王に対して舐めた態度なのが気になる。叱責されて下がるレベルの態度だぞ? セシリオの性格なら放置しないと思うが。立太子しているのだから、堂々と払いのければ済む話だ。
きな臭い。何かを隠している。
「ですが、霊獣が不在の王太子殿下の婚約者でしょう?」
探ろうとする前に、驚くべき発言が聞こえた。霊獣が不在……? ならば、常に王族の隣には霊獣がいるのか。初めてルカを見たとき、セシリオが固まったのはケ・シーを見つけたからだ。もし即位の条件になっていたら、立太子しても王になれない王子と見做されていた可能性がある。
馬鹿にした口調に、セシリオがにやりと笑った。なるほど、私やベスを巻き込みたいわけだ。後ろ盾としてウルティア一族は最適だ。加えて、総領家の私がケ・シーであるルカの飼い主だった。私を動かすにはベスを巻き込むのが一番、そう考えたのだろう。
おおよその事情が掴めたところで、助太刀に向かった。
「王太子殿下」
用件は必要ない。ただツノがある白い霊獣ルカを抱いて、私がセシリオに敬意を示すだけで足りた。ざわっと周囲が揺れる。それだけの衝撃があったらしい。
「ああ、ありがとう。アリス」
ベストなタイミングで割って入った私に、セシリオが礼を告げる。その意味を、彼らは別の方向で捉えたらしい。抱っこされたルカは大きく尻尾を振り、ベスに向かってきゃんと鳴く。場の空気を読むルカの振る舞いは、霊獣として十分すぎた。
少なくとも、ぬいぐるみではないと証明したわけだ。
「え、あ……っ、せい、じゅう?」
成獣? まだ幼獣だぞ。それとも聖獣のほうか?! まさか性獣ではあるまい。ぱっと様々な呼び方が頭に浮かび、セシリオに視線を合わせて頷いた。
「正式な紹介は、王宮の夜会で行う予定だったが……実はベスの兄君が世話係でね。その関係でベスと知り合ったのだ」
身分を曖昧にしたまま、愛称だけで紹介する。セシリオもそれなりに政や駆け引きができるようだ。先ほどの無礼な青年が青ざめ、数歩下がった。
「殿下、こちらへどうぞ」
フリアンが間に入る。私達を用意した席へ誘導した。先ほどまでの不遜な態度はどこへ消えたのか、集まった貴族がざっと道を空ける。よほど霊獣の権威は高いと見えるが……ルカはあふっと欠伸をして私の首筋に顔を埋めた。
サンバドル王国の社交界は大荒れになりそうだ。




