69.霊獣を害した罪で投獄
「広間にいないから探したぞ……、何があった?」
ちょうどいいタイミングで、セシリオが顔を見せる。というより、お前……そこの茂みの陰にいただろう。様子見して、問題が起きたのを見計らって出てきた。その腹黒さがあるなら、自分の婚約者ぐらい己の手で守れと思う。
ベスを後ろに庇いながら、足元で転がるルカを抱き上げた。尻尾を振ってはいけないと教えたのに、抱っこした途端に全開で左右に揺れる。仕方ないので尻尾を巻き込んで縦抱きにした。これなら尻尾の揺れがバレないはずだ。
大袈裟にルカの様子を確認し、はっと息を呑む。これも訓練した通り、ルカが首筋に顔を埋めて動かなくなった。私達は訓練のつもりだが、ルカは遊びの延長だ。これを覚えたら、すごく喜んで撫でてくれた。その程度の感覚しかないだろう。
「ルカ様はご無事か?」
この国で唯一の王子であり、王太子として立つセシリオが「様」と敬称をつけて呼ぶ。その時点で、伯爵家の未来が揺らぐというのに……彼らは理解しなかった。
「噛まれそうになったぞ。きちんと躾けておけ!」
私に向かって吐き捨てたバルリング伯爵令息に、取り巻きが「そうだ」と声を上げる。王太子を前にいいのか? 口元が緩まないよう引き結んだ。ここで失敗したら、母上やカランデリア様に叱責されてしまう。
役になり切って演じるのが私の役目だ。もちろん、庇ったベスも傷つけさせない。
「躾? それはお前達のほうだろう」
やや俯いていた顔を上げ、意識して目を細める。睨みつける所作に、伯爵令息が一歩下がった。この程度の殺気に怯えるなら、武術は嗜みレベルか。だが文官方向でもなさそうだ。賢ければ、セシリオの言葉の意味を理解して謝るはずだった。
「この白いお姿、立派なツノ……サンバドル王国の、霊獣様だぞ? お前は、このルカを、蹴飛ばした」
ゆっくりと言い聞かせた。言葉を聞き間違える余地もないほど、丁寧に区切る。目を見開いて固まる三人の青年に、セシリオが引導を渡した。
「守護獣様への加害を確認した。騎士よ、これらを牢へ」
「はっ!」
護衛としてついてきた騎士達が、王太子の命により伯爵令息を捕縛する。当然、取り巻きも一緒だった。仲良く引き摺られていく彼らは、互いに罪を擦り付け合う。見苦しく騒ぐ声が聞こえなくなる頃、ルカから寝息が聞こえてきた。
「ルカ様のケガは……」
「あれは演技だから、ケガはない。今も寝ているくらいだ」
不安そうなセシリオに、肩を竦めて話す。首筋を擽るルカの寝息と、腕の中の温もりが心地よかった。まずは羽虫、次はどんな害虫が出てくるやら。全部駆除してやろう。




