47.ケ・シー? 幸運の白犬だ
まるで我が家のごとき振る舞いで、カランデリア様が指示を出す。執事バシリオが侍女達を動かし、あっという間にお茶と菓子が並んだ。ちなみに菓子は母上が焼いたものなので、そっと遠ざけておく。見た目は極上、味は恐怖以外の何物でもない。よく騙されて口にする客人がいるのだ。
気の毒だが飲み込んでもらい、お茶で流し込む。その後、誰が作ったのか聞いて、涙目で褒め言葉を口にするところまでがセットだった。
カランデリア様はお茶菓子を手に取らず、砂糖を一つ沈めた。紅茶の中へ落ちていく薔薇の形の砂糖は、柔らかなピンク色をしている。優雅な所作で、金色のスプーンを回した。
「セシリオ、ケシーとはなんだ?」
「ああ。我が国の守護獣として崇められる霊獣で『ケ・シー』と呼ぶ。犬のような姿で捻じれた角を生やしていると聞いた。毛並みが灰色が主流の獣だが、稀に真っ白な個体が現れる」
詳しくは神話を読んでくれと付け足された。どうやら、独自の神話が伝承されているらしい。読書の好きなベスは目を輝かせ、神話の手配をバシリオに指示した。全二十一巻あるようだが、全部読むのか? 分厚いぞ??
心配になるも、読書好きな本人の意思なら好きにさせるべきか。婚約者役を演じるにあたり、不要な知識にはならないだろう。
「ルカがそのケシー?」
疑問を顔に書いて、膝の上でへそ天状態の子犬を眺める。まだ子供だし、何より……甘えんぼだぞ? これが神話に出てくる霊獣だとしたら、威厳が無さすぎるだろう。そもそも同族に追われて逃げ回っていたくらいだ。弱いと思う。
「発音は直したほうがいいぞ。神話好きな貴族が多いからな」
呆れ顔で指摘され、口の中で「ケ・シー」と何度か繰り返した。大丈夫そうだ。つい縮めたくなるが、気を付けよう。
「それで、ケ・シーだとして……取り上げるか?」
「いいや。霊獣は好む波長の人間がいて、その者以外の世話を受け付けない。以前は王宮にケ・シーを招いたが、世話役と引き離したせいで弱って死んでしまったと記録にあった」
拾った飼い主と引き離して王宮で飼ったら、餌を食べなくなったクチか。その時点で世話役を呼び寄せればよかったのに。
「そのあとで霊獣に関する法が発令され、ケ・シーが望むとおりに環境を整えることになった。適用された事例はないが」
つまり、最初の事例がルカになる。前回発見された白いケ・シーが王宮で取り上げた子か。これは使えそうだ。サンバドル王国での地位がない私とベスだが、爵位がなくともケ・シーの親代わりとして迎えてもらえばいい。
ふんふんと鼻を鳴らしてご機嫌なルカは、新緑色の瞳を細めた。うん、今日も可愛い。おまけに役に立つ地位を運んできてくれた。幸運の白犬だな。




