34.失態をいくつ重ねたか
一つの国に王族位が二つ。それは一つの体に頭が二つあるのと同じだ。どちらかの頭が従うなら問題はないが、従える力が足りなかった場合……共食いが始まる。その危険性を承知の上で、セシリオは抑え込めると思っていた。
愚かだな。総領家の跡取り二人を契約で縛って預かるから、王家の立場が上と考えたか? 一般的には人質と置き換えることも出来る状況だが、相手の力量を見誤っている。
ぬるくなったお茶に口を付けるセシリオに、侍女が新しいカップに淹れたお茶を差し出した。交換して口を付ける姿に、甘いなと笑みを浮かべる。僅かに口角を引き上げる形で、ほんの少しだけ感情を外に出した。これが最初で最後の恩情だぞ?
私達を抑えると考えた時点で甘い。加えて、新しく出されたお茶を警戒せず口を付ける姿も、判断が甘い。最初のお茶は目の前で注がれ、同じポットのお茶を私達も口にした。だが新しいお茶に毒や薬を仕込まれたら?
王族の教育に毒の知識が含まれるのは、どの国でも同じだろう。アルダ王国では妃教育で行わなかったが、幼い頃から毒に体を慣らす国もあった。その意味で、我がウルティアは王族以上に厳しい。毒だけでなく薬にもある程度耐性をつけた。媚薬や麻酔など、毒と大差ない薬が山ほどあるからだ。
傷を負った際や病には逆に、薬が効きにくくなる弊害があった。それでも生き残るために必要と判断し、一族の子供達は毒と薬を食らう。サンバドル王家にそこまでの覚悟があったかどうか。先ほどの身内の恥を聞く限り、怪しいか。
私の笑みに気づかなかったようで、セシリオは挨拶をして席を立った。契約書は後日、王都で受け取る手筈だ。可愛い弟のエスコートをして、見送りを済ませた。
「アリス、ベス。王太子の失態はいくつだ?」
父上が試験のように尋ねた。その顔は楽しそうだ。
「五つ、かな」
身内の恥を晒した、王族位と同じ扱い、人質に出来ると思っている甘さ、お茶を毒見しなかったこと、私の微笑みの意味を見落とした……指折り数えながら、シルベストレが答える。
「六つだろう」
ベスの答えはかなりいい線言っているが、一つ見落としている。
「え? なんだろう」
うーんと考え込む弟の口調が、普段に戻っている。少女らしい言葉選びも可愛いが、やはり普段通りが好きだな。
「私達に頼みごとをした」
私個人ではない。ウルティア一族に借りを作るのは、愚かすぎるだろう。そう思った私に、父上がにやりと笑った。なんだ? まだ見落としたか?
「ロエラ公爵の件だ」
野望を持つ彼が出入りすることを、咎めなければいけなかった。情報収集以外で訪問を許さぬよう、あちら側に傾倒しないよう釘を刺すべきだ。
「……届かなかったか」
父上から見える景色は高く遠く、まだまだ手が届かない。唸る私達に、母上が後ろから「もう一つ」と付け足した。ぎょっとした顔で父上が固まる。やっぱり母上が一族の頂点だな。




