25.途中まで順調だったのだが
セシリオ・グレンデス。おそらく貴族出身だろうと思っていたが、衛兵達は不審そうに彼を眺めた。この国の貴族ではないのか? 王都の警備隊が彼を知らない様子に、私の中で疑問が湧き起こる。本当に任せて大丈夫か、不安がよぎった。
「隊長いる? たぶん、俺の顔は知ってると思う」
のんきにセシリオが要求する間に、隊長が顔を見せた。王都の東西を分けて、二人の隊長がいる。西を管轄する彼はセシリオを見るなり「お……っ!」と叫びかけて、自分の口を手で覆った。声を物理的に遮り、近づいてこそこそと何か話し始める。
顔見知りなのは本当らしい。
「あ、ヒメノ達は買い物に行っていいよ。俺が話しておくから」
やたらと愛想のいいセシリオに、このまま話に乗るか迷った。が、バシリオの土産は諦められない。軽く会釈して、店主の脇を通って外へ出た。なぜか一緒に扉をくぐった店主に「また来いよ、うまいの用意しとくからよ」と手を振られる。見送りのつもりらしい。
「ああ、頼む」
笑顔で応え、可愛いベスと腕を組んで歩き出す。貴族用の店を選んで入った。ここなら無粋な輩は入り口で排除される。この国の貴族に顔見知りはいないから、問題ないだろう。ララウが斜め後ろに控え、侍従は入り口の壁際に立った。
「失礼、ペンとインクが見たい。贈り物だ」
食べ物を考えていたが、普段使う物が喜ばれそうだ。馬車の中で相談した通り、文房具に絞った。結論として、記録用のノートは却下される。あれは消耗品であり、屋敷の支給品だからだ。ペンやインクも支給されるが、ペンは私物を使う者もいると聞く。
何より、高級なペンは書き心地もよく長持ちする。普段から文字を書くことの多い執事にぴったりだろう。用意されたペンをじっくり眺める。
「色は……そうだな、暗い色がいい。黒か灰色、紺でもいいか」
男性用ということもあり、シックな色を選ぶ。その中で、目を引いたのが……深緑のペンだった。上質な石材を磨いて作ったペンは、手に馴染む。重すぎず、軽すぎず、使い勝手もよさそうだと判断した。
「これにする。インクは黒でいい。一緒に包んでくれ」
会計待ちの間に、シルベストレにもペンを購入した。今の姿に似合う可愛いピンクのペンがいいか。ガラスペンを発見し、これがいいと強請る弟のなんと可愛いことか!
「ベスがいいなら、それにしよう」
同様に包んでもらおうとしたとき、隣からすっと手が出た。白いレースの手袋で覆われた指先が、ベスの手からペンを奪う。
「え?」
「失礼だぞ」
眉根を寄せて注意する。同じものが欲しければ、注文すればいい。誰かの手から奪うなど……不満を表情に浮かべ、私と同じくらいの年齢の女性に向き合った。さりげなくベスの前に出て庇う。
「お嬢様……」
ララウが何か知らせるように言葉を濁して視線で訴える。なるほど、この国の大貴族の令嬢か? まあ、引いてやる気はないが。




