26.人の物を欲しがる令嬢のようだ
「あなた、私に譲って下さらない?」
「断る」
譲歩の余地を感じさせないよう、きっぱりと断る。これは私がシルベストレのために選んだ。可愛いベスの手にピンクのガラスペンは似合う。何本もある中から私が選んだ逸品を奪うなら、容赦はしない。
貴族令嬢らしく見た目は綺麗に装っているが、中身は別だった。シルベストレを見下したような視線と高慢な態度、どちらも気に入らない。断られたのが意外なのか、彼女は目を見開いた。そうすると幼く見える……もしかして、シルベストレより年下か?
「私が誰だか……」
「知っていても断る。欲しいなら在庫から選べばいい。これは私がベスに贈った品で、会計も済んでいる」
購入して金貨も渡した。もう店の品ではなく、私達の物だ。はっきりと説明し、彼女の手から取り返そうとした。伸ばした手を、貴族令嬢の付き人らしき女性が撥ね除ける。
……武術の心得がありそうだな。侍女ではなく護衛らしい。
「失礼だぞ」
先ほどと同じ言葉を繰り返す。私が同じ言葉を二度使うことは滅多にない。一度目は感情から出る言葉もあるが、二度目を意識した場合……それは警告だった。これ以上の失礼は許さない、その意味に気づいたシルベストレが私を見つめる。
「アリス、私……あの人が触った品は要らない。施してあげて」
シルベストレが可愛い少女らしい声で、さりげなく私を誘導する。アリスと呼ぶのは家族のみ、この場面で使うなら「引こう」の合図だろう。その上で「施し」という単語を使った。相手を下に見ての発言であり、怒っている内心を示す。こういうやり取りは、私よりシルベストレのほうが上手だな。
「ベスがそう言うなら、仕方ない。私にとってベスは大切な人だからね」
まるで婚約者に対するような言い方をして、様子見している店主に別の商品を出すよう伝えた。貴族令嬢を一切視界に入れない。存在しないように振る舞った。
ちらりと彼女を見たシルベストレが、にっこりと笑う。挑発する意味は不明だが、駆け引きはシルベストレの十八番だ。任せてしまおう。
「ちょっと! 施すってどういう意味よっ」
怒って騒ぐ令嬢に私は反応しない。シルベストレに視線を固定し、新しく用意されたガラスペンを一緒に眺めた。シルベストレもガラスペンを手にとっては、色や感触を確認していく。同じ規格で作られていても、手に取った感じは多少違う。お気に入りの一本を選ぶのは、時間のかかる作業だった。
一から選び直しをさせられたのだ。無視するくらいは構うまい。そんな私達の態度に痺れを切らしたのか、令嬢がベスの髪のリボンに手を伸ばす。どうやら人の物を欲しがる手癖の悪い令嬢のようだ。私が右へ一歩下がり、同時に肩に回した手でシルベストレを引き寄せた。
ダンスのステップを踏むように、紺色のワンピースの裾を翻したシルベストレが腕に収まる。
「なんなのよっ! もう!!」
髪を引っ張ろうとした可能性もあるな。タチの悪い令嬢だ。何か言おうとした後ろから、ララウが声を掛けた。
「お嬢様、若様。こちらのペンはいかがでしょう」
明らかに使用人である侍女にまで無視され、令嬢らしからぬ所作で地団駄を踏む。その見苦しい様子に、店主も眉根を寄せた。どこの令嬢だか知らないが、先日の第三王子の件もある。サンバドル王国に加わるのは、考え直したほうがよさそうだな。




