178.ガスパルの血筋の秘密
「説明に感謝する」
それ以外、何を言えばいいのやら。ガスパルとイサベル様の祖父は、数代前の王の隠し子だった。庶子として認知すればいいものを、妻である王妃の怒りが怖くて口を噤んだ。だが我が子を路頭に迷わせるわけにいかず、当時のリエラ侯爵に預けたらしい。
なんともはた迷惑な話だ。子どもがいなかった侯爵夫妻は、実子同然に愛して育てた。それがガスパルの祖父で、その後の血筋にリエラ侯爵家は存在しない。王家の傍流が生き残った形だった。親族と表現するのも遠いので、イサベル様は王弟殿下との婚姻が許されたのか。
「いや? 違うぞ。おそらく王家は知らない」
「……は?」
女性らしからぬ低い声で問い返した。失礼とか無礼とか、横に放り投げる。王家が知らない?
「祖父の話では、侯爵になった後も含めて一度も接触がなかったそうだ」
つまり自分の下半身事情を妻に隠したまま王が死に、事情を知る者がいない。王家の血がイサベル様に流れていることも、彼らは知らないのか。驚いて目を丸くしたあと、少し慌てる。
「そんな秘密を暴露していいのか?」
「誇りはしないが、恥じることでもない。それに当主夫人はご存じのようだが?」
言われて母上を見れば、にっこりと微笑んで肯定してくる。情報はあちこちから寄せられるが、私やベスに下ろされるとは限らない。まあ聞かされても、興味がない時なら流してしまう情報だった。他国の王族の種流出など、大した事件ではない。
「父上はご存じなかったのか」
え? と驚きを表情に出した父上に、私は安心した。別に意地悪で知らなせなかったわけでもなさそうだ。とにかく、ガスパルの出自が「キロス王国の侯爵」から「キロス王家の血を引く侯爵」に格上げされただけ。さらに祖父の代に入った血なら、もう時効だろう。薄まって大した価値はない。
ウルティアに受け入れたあとで、血筋の話が表に出ても災厄を引き寄せる心配は不要。私にとって重要なのは、その部分だった。一族にとって有害かどうか。
「いや、その……まあ」
歯切れが悪い。私も知らなかったのだから、お相子だろうに。何を気にしているんだ? 首を傾げた私に、母上は静かな声で尋ねた。
「それで、アリスはどうするの? この男でいいの? 嫁に行くにしろ、婿に取るにしろ……あなたの決断次第よ」
「……ウルティアに有用なら」
そこまで口にして気づいた。だからか! それで血筋の秘密を持ち出してきたのか。アルダ王国をモンタネールとキロス、ウルティアで分け合う。隣同士の領地になるため、政略結婚の役割は強まる。そこへ血筋の話を加えることで、将来に含みを持たせた。
ガスパルの意外な一面に、私は驚いていた。




