105.予想していれば不意打ちはない
嫌な予感ほど当たる。念のためにと休憩時間に、商隊主とアロンソには伝えておいた。盗賊が狙うなら最高の環境だ、その意見は彼らも同様に感じたらしい。可能な限り、早く抜けようと努力した。
叫びながら飛び掛かってくる阿呆な盗賊ならよかった。全員がぴりりと緊張し、警戒態勢を取るからだ。しかし、今回の盗賊は違った。
すれ違う農夫の集団は、幌付きの荷馬車を押していた。馬ではなくロバが荷馬車を引くが、明らかにロバの頭数が足りていない。補うように数人の農夫が押しながら進む。その様子に違和感を覚えた。
荷馬車の車輪の沈み込みが深すぎる。最初はここが気になった。何を積んでいるのか……視線が幌に向かう。そこで二つ目の違和感だ。農夫の荷馬車に、幌? 一頭だけのロバ、壊れそうに軋む車輪の荷馬車。それなのに穴も開いていない幌……?
「盗賊だ!」
私が叫んだ声に、農夫達が荷馬車に手を突っ込んだ。剣を引き出し、鞘を払う。その動きの分だけ、彼らは初動が遅れた。本来なら通り過ぎた我々を後ろから襲撃する予定だったのだろう。先に叫ばれ、慌てて武器を手にする。人数は傭兵団より多いか。
「いけ!」
アロンソの号令で、傭兵が一斉に動き出す。武器を手にした盗賊の背中に斬りつけ、腕を傷つける。逃げてくれたほうが助かるので、手傷を負わせて引き揚げさせる作戦だった。
実際、逃げてくれたほうが助かる。この場で捕獲したら次の街まで連れて行く必要があった。だが食料は減るし、移動の足は鈍る。彼らが荷や商人を傷つける心配もあった。こちらの人数が少ない以上、一人でも多く排除する。それも可能な限り迅速に!
「ベス!」
「大丈夫よ、お兄様」
ベスのほうへ向かった盗賊が、目を押さえて蹲る。手にした小さな針を飛ばし、顔を狙ったのだろう。騒々しさに慣れたウルティアの馬は、戦場でも怯えない。育てた馬は、軍馬として他国に輸出もされてきた。ブリサとモニカも、動じた様子はなかった。近づく盗賊を蹴飛ばす余裕もある。
アロンソ達の奮闘は素晴らしかった。二人一組で背を預け合い、隙をなくす。盗賊は徐々に数を減らし、あっという間に半数になった。荷馬車に隠れていた男達も切り傷を負って、逃げ始める。
商隊主の機転で、商人達は馬車を置いて逃げ出した。街道から降りると草原で、何が潜んでいるかわからない。そのため、街道を先に進んだ場所で一塊になった。傭兵が四人ほど警護につき、近づく盗賊を追い払う。
「……っ、引き揚げだ」
正直、決断が遅い。そう思いながら、赤く濡れた剣を振った。血を払って、だが鞘に納めない。嫌な予感はまだ消えていなかった。




